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黄昏の霊園  作者: 余世峯 忍
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帰ってきた元勇者

大地を踏みしめる音が周りに響く…

それは力強く、世界に語りかけるように鳴り響く…


彼が一度この世界を発ってから二十年の時を越えて帰還する。史上最も強く、最も気高く、最も愚かと謳われた彼が世界に舞い戻る。


一度は平穏の訪れたこの世界が再び戦乱の世に戻る中、世界が彼を求めるが如く、けれど彼は自らの意思で………


そして世界は彼の帰還と共に動き始める。




「二十年か…もう大分時間が経っちゃったな……」


白い空間の中、椅子に座りながら少年?が向かいの女性に向かって喋りかける。

少年?の容姿は傍目から見ると美しい少女にしか見えないのだが…れっきとした男である。

肌は透き通るような白色で、髪は肩を少し超えるくらいまで伸びた滑らかな黒い髪である。すらっと伸びた手足をしていてスタイルも良い。睫毛は長く瞳は美しい黒色で妖艶な輝きを放っている。

身長は165cm程度で男性にしては少し低めの身長である。


彼の名前は如月曜。かつて異世界ミスト・レイスを救った伝説の英雄である。


「そうだね〜曜がこっちに飛んできてからはもうその位になるね。でもいいじゃないたかだか二十年だし…まだ向こうの世界は本格的に何か起きているわけではないんだから…」


少年にそう答える女性は、こちらも神秘的な容姿をしている。

美しく艶のある銀髪は腰まで伸びていて、その美しい顔立ちは見るものを圧倒するほどの

美貌である。豊かな胸をしていて、ウエストは細く、理想的なスタイルをしている。

しかし、その全身から放たれる神秘的なオーラが触れることなど許されないような気持ちになる。

彼女の名前はアレクセレア、またの名を如月白亜といい、異世界ミスト・レイスを始め幾つかの世界を統べる最高神であり、曜の母親でもある。


「それは、まぁ母さんからしたらそうなのかもしれないけど、普通の人間からしてみればかなり長い年月だと思うよ。それに戦争もまた起ころうとしているんだ…そろそろ行かないと皆には戦争なんかで死んで欲しくはないから…」


「むぅ〜確かにそうだけど…お母さんも曜と離れ離れになるのは辛いんだからね。それに曜からしても別に二十年くらい短いもんじゃない…」


「まぁそうだけどね。でもほら僕今までは自分のこと普通の人間だと思ってたわけだし…」


少し苦笑気味にそんなことを答えながらそろそろ時間かと曜は思い出す。この空間というか、世界から下界に降りるには門を通っていくのだがその門を通るには申請を出しておかなければいけない。

その申請した時間をあまり過ぎると門が開かなくなってしまい、門を通るのに再度申請を出しに行かなければならない。それは最高神としても例外ではなかったりする。


「じゃあそろそろ行くよ。」


曜はそう告げて椅子から立ち上がる。


「そう急がなくてもいいじゃない。もう少しゆっくりしてってもいいのよ。お母さんだって寂しいんだから…」


「そんなこと言ってこの前だって行けずじまいでミリアさんに怒られたばっかじゃないか。僕もそろそろ向こうに行きたいしさ…向こうに行っても母さんにだって会えないわけじゃないんだからさ……」


子離れできない母に苦笑しながらも内心では嬉しく思っている曜も大概ではあるが…

それはともかく本当に時間が迫ってきたので曜は門の前へと移動する。


「それじゃあ…またね。母さん」


「うん、またね。でも定期的には会ってくれなきゃ駄目だよ。じゃないとお母さん何するか分かんないからね!」


そんなことを告げる母の満面の笑みの裏に垣間見える威圧感に恐怖を覚えて、絶対定期的に会うことを決めた曜は門を開く。

開かれた門の向こうに見える景色の懐かしさに笑みを浮かべながら曜は門の先へと飛び込んだ。

そんな光景を寂しそうに眺めていたアレクセレアだったがこの後に起こる面倒事を思い浮かべて少し顔を歪ませながら何処かへと歩いていった。


後には何もない真っ白な空間が残されていた。


…一瞬の酩酊感。大地が大きく揺れる感覚の後曜はミスト・レイスの大地に足をつく。

広大に広がる草原を見渡し今自らが踏んでいる大地の感覚、世界に広がる魔力、身体全体に広がる懐かしい感覚に身を委ねながら曜は思う。あぁ、帰ってきたのだと…

その懐かしい感覚に一時身を委ねる事を決めた曜は地面に座り込みゆっくりと目を閉じる。

曜の帰還を喜ぶかのように暖かな日差しが曜の周りを照らしていた。



……


「状況は?」


長々とした廊下を歩く一人の男がそう問うとそのすぐ後ろをついて歩く男が問いに答える。


「現在、将軍ヒートレイ殿率いる第三部隊が敵軍と交戦中…敵軍は徐々に押しているもののこのままではまだかなり制圧には時間がかかるかと…」


「第五、第六部隊も向かわせろ。一刻も早く決着をつけろ!」


「はっ!」


部下の走り去る音を聞きながら男は独り呟く。


「今を逃す手はないのだ。これでようやく面目も保たれるというもの…奴らのいない今のうちになんとかせねばな……」



(まずいな……)

と一人の女性は声に出さないが今の状況に辟易としていた。金髪の長い髪に碧い瞳。スタイルもよく10人中9人は振り向くような美人である。そして何よりも特徴的なのは長い耳である。彼女はいわゆるエルフと呼ばれる種族である。そして今彼女が率いているもの達も同様に長い耳をしている。


「隊長、如何されますか?」


一人のの若い兵士が彼女に問う。


「森に一旦逃げるぞ。そこでもう一度打って出る。この場所よりは我らの優位に働く。なんとしてでも奴らに勝たねばならんのだから…」


状況は明らかに彼女達の方が不利であった。

こちらの数は5000程度なのに対して敵の数は30000。それに武勲名高いヒートレイ率いる部隊である。しかも尚敵の数は増大中。勝ち目など殆どない戦いではある。けれど諦める訳にはいかなかった。


「この戦、なんとしてでも勝たねばなるまい。我らエルフの同胞達の為にも、我らエルフの誇りの為にも決して負けるわけにはいかんぞ!」


そう叫び兵を鼓舞する。しかし目に映る敵の数はどんどんと増えてきている。正に勝ち目のない戦であった。





曜は微睡みから抜け出して大きく伸びをする。そして深く深呼吸をしながらゆっくりと立ち上がる。ふと軽い違和感を感じた。それはよく感じた感覚。風にのって感じるその空気がそれを裏付ける。もう感じたくはなかった感覚。それは戦の始まりを告げる感覚だった。曜は感覚に従って走り出した。少しでも早くこの戦いを止める為に……


この戦いが世界に彼の存在を知らしめる。

それはまだ噂程度の不確かなものではあったが、けれど世界を震撼させるには十分だった。人々は告げるのだ。


『彼が帰って来た』と………



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