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ゴメラ VS モンスターバスター  作者: はなぶさ 源ちゃん
モンスターバスター参上
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9 魔王と勇者 その2

 「魔王!!覚悟!!」

 バネッサは思わず剣を抜こうとしたが、右手を瀬利亜につかまれて、動きが止めった。

 「勇者さん。落ち着いて話を聞いてくれるかしら?」

 穏やかな、しかし、心に染み入る「少しだけ怖い」声で瀬利亜は右手を握り続けた。

 「しかし、こいつは歴代でも最強魔王の一人なのだぞ!!」

 なおも振りほどこうとするバネッサに、瀬利亜はしばし考えた。

 「しかたないわね。少し頭を冷やしなさい。」


 そのセリフと前後するかのように、二人に向かって一人の男性が歩み寄ってくるのが見えた。

 「怪しい人物がいると通報を受けたがこちらかな?」

 よれよれのトレンチコートを羽織った、刑事コロンボをそのまま日本人にしたような風貌の男は警察手帳を提示しながら言った。

 「殺人課の齊藤です。通報の人物はそのコスプレの人かな?」

 「はい、コスプレが行き過ぎて、本物の刀を持ってしまったようです。」


 「待て!ちょっと待て!これにはいろいろ事情が…」

 「了解了解。話は署でゆっくり伺おうか。」

 手早く手錠をバネッサの右手にかけると重装備のバネッサを軽々と引きずっていった。


 「じゃあ、君ら頼むよ」

 パトカーに待機していた屈強な警官二人にバネッサを任せると、齊藤はパトカーを運転して去っていった。




 「パトカーが来ていたようだけど、何かあったのか?」

 清正の父、安倍大明(あべたいめい)が玄関から顔を出した。


 「おお、瀬利亜ちゃん!今回のことでは苦労をかけるね。それにしてもしばらく会わないうちに美人になったね。そして、そちらが「あの神那岐」の継承者の千早ちゃんか。

 本当に可愛らしい娘だね。うちの清正の嫁さんに欲しいくらいだ。」

 「親父、何を言い出すんだ!!

 …それより、母さんが魔王だとか、いったいどういうことだ!?」


 清正の言葉に真剣な顔になった大明は口を開いた。

 「事情を聞いたようだな。詳しい話は中でするから。とりあえずみんな中に入りなさい。」




 この世界に重なるように魔法が溢れ、この世ではありえないような不思議な生物たちが住む世界があった。二つの世界のあちこちにお互いに行き来できるような扉『ゲート』ができることで、二つの 世界でも水面下で交流が進むようになった。


 その裏の世界にある時大きな力を持った「魔王」と自らを呼ぶ存在が現れた。強大な魔法を使い、たくさんの魔物を操る「魔王」はしかし、よくある伝説のように「勇者」と呼ばれる存在に倒された。

 そんなことが何度かあったが、一八年前に現れた魔王は今までになく強力だった。

 先代勇者も一度は敗れ、危うく命を無くしそうになった時に「新たな仲間」の助けにより再び立ち上がった。

 「トウヨウの格闘家リュウイチロウ」

 「銀髪のガンナー・エリシエル」

 「神の知識を持つ若き魔女アルテア」の強力な三人の仲間と共に勇者は快進撃を続け、

 魔王城での伝説に残る決戦の末、ついに魔王を倒したのであった。


 しかし、一か月後、倒れたはずの魔王が再び立ち上がり、魔王軍が急速に再編成された。

 勇者たちが再び魔王城に赴こうとした時、なぜか、魔王が行方不明になり、魔王軍は自然解体した。

 異世界では「魔王消失」を勇者が奇襲攻撃したからではないかと推測したが、勇者はなぜかそのことを語らず、詳細は今も謎のままである。




 「一八年前に最初に現れた魔王はお前の母さん、静恵のおじいさんなんだ。」


 「なんだとー!!で、親父はどうしてそのことを!?」

 おとぎ話みたいな話が急に自分とつながって、清正は慌てた。


 「そのことは話が進んでから明かすから、ちょっと待て。」

 瀬利亜はすでに知っている内容なのか、軽くうなずくくらいだが、初めて聞く千早は清正同様興味津々に話に聞き入っている。




 シズ・リュテインは普通の村娘だった。なぜか妖精たちと話が出来たり、普通の人にはわからないものが見えたり聞こえたりする以外は普通の人生を送って、成人したばかりだった。

 後でわかったことだが、シズの母親が普通の商家に嫁入りし、二人が事故で亡くなった後祖父は魔王に変化した。

 だから、シズは自分が魔王の血を引くことなどまるで知らなかったのだ。


 魔王が倒されたという報を受け、故郷への帰途の際にシズは魔王軍の元参法「魔道王タームラ」から自分が魔王の血を引き、絶大なる魔力を秘めていることを告げられた。

 強引にタームラに魔王に仕立てられ、シズは魔王の強大な力に目覚めた。


 先代の魔王以上に強力な魔力を扱えるようになったシズはしかし、性格は元のままの「ふわふわさん」だったため、「しんりゃく」や「はかい」とかいうめんどくさいことをするのが死ぬほど嫌だった。

 「心身ともに魔王になった振り(シズ一世一代の大芝居だった)」をした後、タームラ達幹部が安心した隙を見計らって、魔王城から逃げ出した。


 転移魔法で「すごく遠く」に脱出した後、「方向音痴」なシズは人跡未踏なジャングルの中を泣きながらさまよった。

 その時助けてくれた大明にシズはべたぼれし、二人は大恋愛の末、結婚した。


 「あれこそ、地獄に仏というものだったわ。今のやさしい大明君も大好きだけど、あの時の凛々しい大明君のことは一生わすれないわ♪」

 大明が凛々しく見えたのは「逃げた魔王を討伐」しようとしていたためであり、最初は魔王が助けを求めてきたのを罠ではないかと思い切り疑ったのだった。

 しかし、事情を聞いているうちにシズのあまりの天然ぶりに間もなく、真相を悟り、

そのままシズを日本へ連れて帰ったのだった。



 「あとでね、大明君が優秀な陰陽師で、A級モンスターバスターだとわかって、びっくりしちゃった。で、今は大明君が私の力が暴走しないように陰陽術でいろいろしてくれているから、本当に助かるの。『偶然』てすごいのね。」

 ニコニコしながら笑って語る静恵に清正はいくつかの不自然さに気付いた。


 「親父はどうしてあっちの世界にいたんだ?」

 そこを疑問に思って、清正が口に出した。


 「…いや、それが…。」

 「魔王戦争が起こった時、魔王退治のために何人もの優秀なモンスターバスターたちが駆けつけたそうですよね。おじさまもその時に行った救援組の一人で、『たまたま』奥様と遭遇されたということですよね。」

 さりげなく、清正を見やりながらの瀬利亜の話で、清正はなんとなく事情を察した。

 「…まったく、終わったことだから正直に言ってしまえばいいのに。出逢った過程はともかく、その後はお互いに誠実に相手をしたからこそ、今があるんだから…。」

 清正だけに聞こえるよう瀬利亜がささやくと、清正は「善良だけどぶっ飛んだ少女という瀬利亜に対する評価」を少し上方修正した。




 「瀬利亜ちゃん、千早ちゃん、清正と仲良くしてくださいね。」

 二人を見送るとにこにこしながら静恵は玄関から引っ込んだ。



 「じゃあ、明日また、学校で。」

 二人に手を振ろうとした時、パトカーが走ってくるのが目に入った。

 パトカーはスピードを落とすと、三人のそばに停車し、中から見覚えのある人物二人が降りてきた。

 「ちょうどいいタイミングだったな。」

 斎藤警部がニコニコしながらバネッサを引っ張ってきた。

 バネッサは着ている鎧以上に青い顔をしてげんなりしている。

 「どうした、元気ないな。ところで、まだ、このお宅の魔王を退治したいかね?」

 「…いえ、私の勘違いでした。もう、全然そんな気はありません…。」

 「ようし、充分『反省』してくれたようだな。それでは、清正君にきちんと謝るように」

 斎藤の言葉にバネッサは一瞬うっと詰まったが、間もなく清正に頭を下げた。

 「私の勘違いから迷惑をかけて、大変申し訳ない!もう、あなたやあなたのお母上を狙うことは金輪際ないので、許してほしい」


 「いや、もう襲ってこないならそれで大丈夫だから。」

 「本当か、許してくれるか!お前はなんていいやつなんだ!」

 バネッサはしばらく清正の両手を握りしめていたが、我に返ると赤くなった。


 「じゃあ、私は行くから!」

 鎧を深々と被ると、バネッサは鎧をガチャガチャ言わせながら走り去っていった。


 「彼女、よく納得してくれましたね。」

 清正が不思議そうに言うと、齊藤はにやりと笑った。

 「本当のことを筋道立てて話したら、あんたやお母さんに同情こそすれ、襲おうとは思わなくなるわな。思い込みは激しいようだが、彼女根っこの部分はスゴク善良みたいだし。」

 「どうしてそのことを!?…て、石川?」

 瀬利亜がくすくす笑っているのを見て、清正は「齊藤を呼んだ」のが瀬利亜であることに気づいて愕然とした。

 「斎藤さんも『関係者』か!?」

 「ご名答。御嬢さん方は良かったら送っていくから。

 では、キヨマーくん、また会いましょう♪」


 呆然としながら清正はパトカーを見送っていた。




 「今日もみんなに素敵なお知らせや!またまた美少女がこのクラスに編入やで♪」

 (いやいやいや!いくらなんでもそれはおかしいだろ!)

 にこにこしている錦織に内心ツッコミを入れていた清正は入ってきた「美少女」を見て、顎が落ちそうになった。

 真っ赤にウェーブしたセミロングの髪の美少女は瀬利亜よりもさらに高く、一八〇センチはありそうだった。

 「バネッサ・日下部・オブライエンです。よろしくお願いします。」

 またまた「主に女生徒から」大きな歓声が上がった。


 「さてと、空いた席は…ちょうど、安倍の後ろが空いているな。」

 そんな馬鹿なと振り向くと、昨日まで男子生徒がいたはずの席はなぜか空席になっている。

 「なんじゃこりゃーー!!」

 清正の受難はまだまだ続きそうだった。


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