13 黒装束
中学校に上がると同時にモンスターバスターになり、2年間懸命に頑張った。
モンスターバスターになって間もなくB級に昇格し、2年近くたつ頃にはA級昇格も間近だと言われた。
いつもギリギリになるくらい必死になって頑張っていた。
もしかして頑張って結果を残せばご褒美として『両親が帰ってきてくれるかもしれない』、そんなことをどこかで期待しながら必死にモンスターバスターの仕事に励んだ。
もちろん、『そんなことはあり得ないことはどこかでわかって』いた。
それでも、自分をだましだまし、希望を持とうとしていた。
ある事件を解決した時、その事件の犠牲者が幽霊となり、子供達を見送って成仏していくのに立ち会った。
小さな子供たちは泣きながらも最後は両親との別れを懸命に受け入れて、立ち直ろうとしていた。
『私ができていないこと』を子供たちは懸命にやろうとしていたのだ。
仕事が終わったあと、私は部屋から動けなくなった。
何をする気も起きなくなった。
それでも、『あの日私に手を差し伸べてくれた人』が何も言わずに見守ってくれ、大切な友人たちが見守ってくれているのに気付き、私は何とか立ち上がれた。
いつでもそばで私を見守ってくれていたあの人は今…。
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『ご両親からあなたのことを頼まれたのです。』
あの日、巧さんは例のメダルを手にして、私に手を差し伸べた。
スーパージャスティスが心から信頼した人にしか渡さないあのメダルを手にして。
だから、私の心は『両親が帰ってこないと確信した』あの時同様真っ二つに引き裂かれそうになっていた。
『父の親友』で『両親が信頼して私を託した人』、『ずっとそばにいてくれた大切な人』が『両親の敵』と同じであることがどうしても受けいれられなかった。
それでも、『泣きそうな顔』をして私を振り返った巧さんの表情から『両方とも真実』であることがはっきりと感じ取れた。
そして巧さんは口を開いた。
「お嬢様、ここは私が食い止めますので、逃げてください。今まで大切なことを隠していて本当に申し訳ありませんでした。」
巧さんは用意していたサーベルを抜くとラスニール元准将に向き直った。
…ああ、この人はやはりそうなのだ。では、私は…。
「バカな!タクミ、気でも狂ったのか?!お前は『我々を裏切った国』にまだ忠誠を誓うつもりか!!それから、死ぬ気で守った娘を見捨てるのか?!」
「忠誠?いえ、あの国になどもう忠誠を誓ってはいませんよ。
ただ、私たちを救ってくれたあの人達、そして、私の心を救ってくれたお嬢様を裏切ることはあり得ません。
美佐も…わかってくれるはずです。
本来ならあの日、われわれは死んでいたはずなのですから…。」
巧さんは淡々と語ると殺気をむき出しにしてラスニールを睨みつけた。
「では、まず貴様から血祭りにあげてくれる!!行け、『魔操戦士』ども!!」
ラスニールの言葉に『人型』どもが動き出す。
おそらく、一体一体が暗黒魔王が操っていた『阿修羅王』に匹敵するくらい強い人型が一気に五体ほど動き出した。それ以上動かしても巧さん一人には攻撃できないからだ。
だから私は…。
「シードラゴン流星拳!!」
拳から闘気を出して、五体の『人型』に叩きつけて足止めを食らわせると、一気に巧さんの左に割り込んだ。
人型はひるんで動きが一瞬止まったものの、ダメージはほとんど受けていないようだ。
防御力は阿修羅王を上回っているようだ。
三人だけではこの場はきついかもしれない。
「お嬢様!どうして?!」
私が逃げないので巧さんが焦っている。
「あら、私は『大切な家族や友人』を守るためにスーパーヒロインになったのよ!
今、『家族』を見捨てたら、何のためにスーパーヒロインになったのかわからないじゃない!」
そう言ってにやりと笑う。
「バカな!!貴様はその男が何をしたのかわかっているのか!?」
ラスニールが私に向かって叫ぶ。
「ええ、この七年間、大事な家族としてずっと私を支えてきてくれたわ!
だから、ここで引くとかありえないから!」
ひるんだラスニールが号令を下そうとした時、今度はちーちゃんが抜刀して巧さんの右後ろに回り込んだ。死角をなくそうということのようだ。
しかし…。
「ちーちゃん!いまは危険だから下がっていて!」
「いやです!!この前『瀬利亜さんを絶対に守る』と約束したじゃないですか!
さっきの瀬利亜さんじゃないですが、今引くとかありえません!!」
きっぱりと断言されて私は言葉を失った。
自分が同じことをしていて、ちーちゃんに言えるわけがない。
「貴様ら全員おかしいぞ!お前たちだけで勝てないのはわかっていように!!」
ラスニールが目を剥いて叫ぶ。
確かに『ここの三人だけ』では、『人型』一〇体だけならまだしも、ラスニールも加わっては勝てないだろう。
だからこそ…。
不意に、ラスニールの横の壁がぶち破られると、空いた穴から三体の人影が侵入してきた。
そのうちの一体はまっすぐラスニールに突入していく。
ラスニールが素早く振り下ろしたサーベルを黒装束の大男は両手で挟み込んで受け止めた。
黒装束がサーベルを奪い取り、投げ捨てると同時にラスニールは分銅付きネットを黒装束に浴びせかけた。
行動不能になったかに見えた来装束が気合いを込めると、ネットは簡単に千切れ飛んで男は自由になった。
「貴様は何者だ!?」
想定範囲外の猛者の到来にラスニールが慌てている。
「我は『雷電忍者』!!日本の究極の武道を極めた達人の技と忍術の両方を備えた存在なり!」
雷電忍者は上半身をはだけ、筋肉をむき出しにして叫んだ。
顔には赤や白の隈取が描いてある。
「瀬利亜殿!山での修業を終えて帰ってきたぞ!やつの相手は私に任せてもらおう!」
「任せたわ!…ところで、その隈取は?」
「ネイティブアメリカンの戦士にちなんでの『戦化粧』だ!わっはっはっは!」
うん、ここは『突っこまないでおく』のが友情だろう。
「瀬利亜さん、申し訳ない!我々がついていながらみすみす美佐ちゃんをさらわれてしまって。」
黒装束の『五月雨さん』が頭をさげる。
ちなみにピンクの装束の『月野さん』は美佐ちゃんをお姫様抱っこした状態だ。
「五月雨さんたちの責任じゃないから。そもそも油断していたのは私たちなんだし!」
五月雨さんに笑いかけると、再び『魔装騎士』達に向かって身構えた。
「さあ、巧さん!ちーちゃん行くわよ!!」
私は叫ぶと、両手に思い切り闘気を込めて動いた。
「雷電百列張り手!!」
雷電忍者の連続張り手をラスニールは両手にアーミーナイフを構えながら何とか躱す。
躱しきった後、ラスニールはアーミーナイフを雷電忍者に突き刺そうとするが、雷電忍者はいずこからか取り出した、直径二メートル近い『巨大手裏剣』で、上手に受け止める。
『どこから取り出したんだ!』と突っ込むのはなしにしよう。
そこまでいった時、ラスニールは私たち三人が魔装騎士をすでに五体無傷で倒したのに気が付いた。
もう残り五体を粉砕するのは時間の問題だ。
「くそ!今回はここまでか?!」
ラスニールは叫ぶと、その姿がかき消えた。
残念ながら取り逃がしたが、瞬間移動をトレースできるアルさんか美夜さんがいない限り、これは想定範囲内だ。
美佐ちゃんの無事が最優先事項だったから。
「パパ!」
美佐ちゃんが巧さんに向かって駆け寄る。そして、巧さんはそんな美佐ちゃんをそっと抱き留める。
こんな安心した表情をしている巧さんを見るのは始めてだ。
「驚いたわ。美佐ちゃんのことは妹みたいに感じてたけど、まさか『義理の妹』だとは完全に想定範囲外だったわ。
美佐ちゃん、巧さん。これからもよろしくね♪」
「し、しかし私は…。」
「ええ、今までもだけど、今回も『父親として』、必死で私を守ろうとしてくれたじゃない。ありがとう、『お父さん』♪」
私がにっこりと笑いかけると…巧さんは私の目の前で初めて涙を見せてくれた。




