8 最強の魔法少女
両親が出ていってから三日が経っていた。
『時空機』という超兵器を操る怪人が現れて、世界中に宣戦布告して、各国軍やモンスターバスター達をきりきり舞いさせたと聞いて、ついに両親が動き出した。
あらゆる敵を『格闘戦で打ち倒す』世界最高のスーパーヒーロー・スーパージャスティスと精神エネルギーを銃弾に込め、どんな的も外さないスーパーヒロイン・ミステリアスレディ。
スーパージャスティス一人でも数々の事件を解決してきたヒーローであるが、二人揃ったら無敵であった。
怪獣、妖怪、異世界の魔王まであらゆる敵を倒し、あらゆる困難を乗り越えてきた。
だから、今回も必ず帰ってきてくれるはずだった。
今まで外したことのない『ビジョン』で帰ってこないとわかっていても絶対に信じたくなかった。
つらくて悲しくて心が絶望が押しつぶされそうなとき、たった一人で帰ってこない二人を待ち続けていた時、あの人は家を訪れた。
私を見る優しそうな目を見た瞬間、この人は信頼できると感じた。
『ご両親は残念ながらすぐにはお戻りになれません。その間、私と一緒にお戻りになるのを待ちましょう。』
両親より少し年上であろうその男性は『父が信頼している人にしか渡さないペンダント』を私に見せると、膝をついて私と同じ目線になってそう言ってくれた。
だから、私はその人と一緒に両親を待つことにした。絶対に帰ってこないとわかっていてもその人と一緒なら待てる気がしたから。
…それから、7年がたった。
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「手を引くとはどういうことだ!!」
暗黒魔王は無表情なラスニールに向かって激怒していた。
「竜将軍が負けただけでなく、『敵に大量の援軍が来る』ことが判明しましたゆえ。
できましたら、暗黒魔王様も撤退されることをお奨めします。
今まで、いろいろお世話になったので、『魔道騎士』を10体ほど置いていきます。
戦われるにせよ、撤退されるにせよ、お役にたてると思います。」
事務的な口調でラスニールは淡々と伝える。
ラスニールを睨みつけながら暗黒魔王は歯噛みする。
魔族の方が兵の人数は圧倒的に多いが、ラスニールを始めとする『元米軍情報部』メンバーは桁違いの精鋭ぞろいだ。力ずくで引きとめたり、違約をとがめるための行動すらとれない。黙って見逃すしかないのだ。
((こうなったら切り札を使って、何としてでも奴らを倒すしかない!!))
暗黒魔王は調整中の『例のモノ』を見やりながら決意を固めた。
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今回は下手をすれば前回以上の苦戦が予想されかねないにもかかわらず、魔道将軍の要塞への道はかなり気分に余裕の持てるものだった。
これは『新しい魔法少女』の加入が心理的にとても大きかった。
バネちゃんに代わって『新規の魔法少女』に入ってもらったことで『私の大丈夫感』が桁違いに上がり、それをみんなが感じてくれたことが大きい。
「偵察用にいろんなものが来ているようだけど、要塞までは手を出してこないようね。」
彼女は水晶球を眺めながら、冷静に語った。
一五歳くらいに見える『彼女』の言葉にみんながうなずく。
一緒に歩きながら望海ちゃん、ちーちゃんが嬉しそうに彼女の方をちらちら見やっていた…というか、私もこんな『完璧な魔法少女』を見られるとは思っていなかった。
服は黄緑と黄色を基調にした優しいデザイン。魔女の帽子をかぶり、可愛らしい杖を持ち、長い金髪に癒し系の美人。
『実体を知らなければ』魔法少女ファンが激増しそうな感じだ。
見た目一五歳でバストサイズが九〇を軽く超えているのは『少し違う層』のファンを増やしてくれそうだ。
しかも、魔法界ではおそらく『歴代最強』なのも間違いなさそうだ。
そんな彼女を美佐ちゃんが複雑な表情で見ており、アメちゃんは……それ以上に微妙な視線を放っている。
(美佐ちゃんが微妙な表情なのは主にアメちゃんを気遣ってのことだが…。)
そして『実年齢が三五歳』ということもさることながら、『自力だけ』で魔法少女になったというのは前代未聞だろう。
さらに、普通の魔法少女は『車の運転手』同様、魔法の扱いには長けているが、応用自体はそれほど得意でない場合も多い。
しかし、『彼女』は『魔法の扱い』もさることながら、本来は『技術者』だ。魔法界におけるあらゆる事態に対応するなら彼女の右に出るものはいないだろう。
『魔法少女・リリカル☆アルテア』がいてくれれば、例の黒ずくめが一人二人増えようが、絶対に勝てると私の『正義の直観』が囁いてくれている。
「納得いかない!」
アメちゃんが叫んだが、もちろん、『勝たなければいけない』以上、こちらもゴリ押しだ。
モンスターバスター一〇星の女性陣で、残念ながら今動けるのはアルさんこと『大魔女』リディア・アルテア・サティスフィールドだけなのだ。
『元米軍情報部の精鋭(アルさん情報)』の怖さは前回で身に染みている。
母のことすら知っているような連中だ。モンスターバスターの情報も相当入手していると見て間違いない。
下手なメンバーを加えればかえって足手まといになる。
バネちゃんすら『例の男』には対応しきれないと見て、外れてもらったのだ。
情報戦や例の『瞬間移動』に対応できるのはアルさんか、『大陰陽師』の美夜さん位だ。
魔法界と相互不干渉に関する例外条件の「こちらの世界からの干渉」もあることから、男性のモンスターバスター(あるいはスーパーヒーロー)をさらにごり押しして来てもらうことも考えたが、同行者のむさくるしさに『アメちゃんが精神崩壊』を起こしてもかわいそうなので、それは見送った。
(なんと、『世界最高の筋肉』『宇宙からの超人』マルクが同行を申し出てくれたが、丁重にお断りした。
秘密結社スーパーモンスターズの幹部『メカマッスル』に扮していた時のマルクを知っている人は『今回の魔法少女バトル』に絶対に参加してほしくないだろう。)
要塞突入までは前回と似たような流れだった。
大広間に突入すると、剣士たちに交じって、ローブを被った魔法使いが多数身構えていた。
玉座付近には上等なローブ被った『魔道将軍』と思しき存在と、その近辺を騎士たちと上司魔導師らしき存在が数十名ずつ立っていた。
そして、一〇体の魔法と機械の併用された『異様な人型の存在』が異彩を放っており、魔道将軍の隣には圧倒的な負のオーラを纏った男が立っていた。
あれはおそらく『暗黒魔王』だろう。三人の将軍とはけた違いの強さに違いない。
そして、一番警戒していた『あの男』や『元軍人たち』はここにはいないようである。
「よくも今まで好き放題にしてくれたな、魔法少女ども!!」
暗黒魔王が私たちを見ながら叫ぶ。
「だが、我らを見くびったのが失敗だ!前回と同じ人数でこの私を始め、この戦力に勝てるものか!!これを見よ!!」
暗黒魔王の言葉が終わると、玉座の後ろから巨大な漆黒の影が動き出した。
一〇体の『人型』と同様の雰囲気だが、三メートルを超える大きさだけでなく、そのオーラ大きさも桁違いだ。
六本の腕にはそれぞれ凶悪な魔力を纏った剣を握りしめている。
「行け!魔道人形『阿修羅王』!魔法少女どもを切り刻んでしまえ!」
暗黒魔王の叫びと同時に阿修羅王はその巨体からは信じられないくらいの速度で動き出した。
そして、周囲の魔法使いたちと魔道将軍が同時に強大な火炎の魔法を放った。
まるで、攻撃魔法の弾幕だ。
大広間はあっという間に炎の弾幕に包まれた。




