1 魔法の国からやってきた♪
「うわーー!もう行列がたくさんできている!早くいかないと売り切れちゃう!」
中学校からの帰り道、美佐は洋菓子店『マジック』の前に来てため息をついた。
ひと月前にできたこのお店はおしゃれで様々な工夫がしてあり、しかも抜群においしい洋菓子、ケーキであっという間に人気店になった。
店長の五月雨が若くてカッコいい青年で、しかもお店の手が空いた時はおしゃれで気の利いたマジックを見せてくれるため、女性に特に人気が高かった。
数日前から売り出された『生クリーム大福入りシュー』は大好評で、妬き上がってすぐに売り切れてしまうことも多かった。
今日は家族に頼まれて学校帰りに買う予定だったのだが、この殺到振りでは売り切れているかもしれない。
慌てて店内に駆け込んだが、ちょうど五月雨が『シュー売り切れ!申し訳ございません』の張り紙をしたところだった。
店内に残っていた客たちが残念がっていたが、五月雨は『新作のお菓子』をちょっとおまけをつけながら上手に捌いていった。
((あのお兄さん、商売上手だね。お客様をがっかりさせないように上手に気を配りながら、しっかり売っているじゃない。))
耳元でささやかれる声に美佐はしっと唇に手を当てながら注意した。
((アメちゃん!この町は『敏感な人』が多いから、下手に顔をだしちゃだめじゃない!))
制服の胸ポケットから顔を出したアメリカンショートヘアによく似た猫型妖精に美佐は注意した。風流院高校がある、この町では『超能力』や『霊能力』があったり、人外の存在がたくさんいるため、『魔法界から来た妖精』である『アメちゃん(美佐が名づけた)』が見つかる危険性が高いのだ。
お目当ての品が売り切れでがっかりしていた美佐だが、せっかく寄ったからと代わりの品を買うかどうか、あるいは代わりのお菓子を買うなら何にするか家族にメールで聞くことにしようと思いついた。
美佐がメールをちょうど送った時、ちょうど店内のお客が途切れたこともあり、五月雨が美佐に声を掛けてきた。
「美佐ちゃん、いつもありがとう。もしかして『生クリーム大福入りシュー』を買いに来てくれたのかい?」
「ええ、そうなんです。家族みんなが食べてみたいというものだから。」
「…そっか…。もし、六時半くらいにお店に来れるなら、もう一度作っておくから、よかったら来てみるかい?」
にっこりと笑うことにより五月雨の眼鏡をかけた優しそうな顔がさらに優しい雰囲気になる。
「本当ですか!?来ます!ぜひ来ます!!」
そして、美佐はあらましをメールでメッセすると、ニコニコしながらいったん店を後にした。
「るんたったるんたった♪♪」
美佐は上機嫌でスキップしながら帰宅の途に就いている。
((お菓子が買えることが嬉しいのかい?それとも、五月雨のお兄さんと話ができたことがうれしいのかい?もしかして、『両方』かい?))
((な…なに言っているの?!…わ、私がそんな…そんなことを…))
アメちゃんの問いに動揺して、何を言っているのかわからないような状態になっていること自体が答えを言っているようなものなのだが、美佐は気付いていないようだ。
((五月雨は人がいいし、カッコいいし、美佐が好きになるのはわかるよ。オーラもすごくきれいだから、絶対にいい人で間違いないと思うよ。))
((だ…だから、そんなんじゃ……))
真っ赤になって言葉を詰まらせながら言っているようでは説得力がない。
美佐の反応を楽しんでいた、アメちゃんはしかし、『例の気配』を感じて、表情を変え、ついで美佐も気づいて、真剣な顔になった。
((魔界空間だ!美佐、気を付けろ!!))
((了解!!))
魔界空間とは、地球に隣接した異世界の一つ、『魔法界』を乗っ取りつつある、『暗黒魔王』やその眷族が使う結界空間である。
他からの干渉を断つため、時間の止まった魔界空間に引き込んで『暗黒魔王の敵』を人知れず葬り去るのに使われている。
美佐たちは魔界空間に引き込まれるのは体感時間で五分くらいかかった。
そして、黒々とした森林の『魔界空間』では、西欧の人食い鬼、オーガーがサングラス、革ジャン、ジーンズ姿に両手にメリケンサックをはめて待ち構えていた。
オーガーの上には半竜・半人の姿に、騎士の鎧を纏った、暗黒魔王三将軍の一人、『竜将軍』の幻影が浮かんでいた。
「魔法界の使徒よ!今日こそ、叩き潰してくれる!」
「美佐!変身だ!」
「了解!!マジカルチェーンジ!!」
美佐が懐からピンク色のスマホを取り出すと、画面から金色の光があたりを照らし出す。
光の中で、やや童顔でかわいい系の顔が少し大人っぽくなり、ツインテールの髪が金色に染まり、長く伸びる。身長も少し伸びて、黄色と白を基調にしたドレス風の衣装は華やかでありながら、運動しやすいように様々な工夫がしてある。
「ハートに愛と勇気を備えて、魔法少女スイート☆ミサただいま参上!」
年齢より若干大人びた感じの魔法少女となり、可愛らしいステッキを構え、バッチリとポーズを付けてミサが叫ぶ。
「出たな!スイート☆美佐!この、『シャドーボクサー、オーガ・パイソン』のマッハの拳の餌食にしてくれる!!」
オーガ・パイソンが叫ぶと、両手のメリケンサックが真っ赤に光りだし、ボクサースタイルでミサに突っこんでくる。
ミサが素早くかわすと、オーガ・パイソンのパンチは背後にあった、巨木を一撃で粉砕していた。
「やるじゃねえか?!だが、これならどうだ!!」
オーガ・パイソンは怒号のごとく、拳撃のラッシュを重ねてきた。
なんとか躱しつづけたミサは一瞬の隙をついて、杖を構え、魔法を唱えた。
「マジカルトルネード!!」
杖の先から虹色の竜巻が放たれ、オーガ・パイソンの体が上空に舞い上げられる。
「ミサ!今だ!」
「ええ、『スイート・サンダー』発射!!」
ミサが杖に『気を込め』ると、杖からまばゆいばかりの雷光がオーガ・パイソンに向けて発射された。
オーガ・パイソンは感電してぶっ倒れた後、サイズが一回り小さくなり、見た目もちょっと大きめのヒューマノイドという感じに変わった。
「やったよ、ミサ!浄化完了だ!」
元オーガ・パイソン、現在は魔法界の大きめの西洋鬼・おーがに戻ったのを見ながらアメちゃんが嬉しそうに言う。
「じゃあ、もう少ししたら、目を覚まして住処の森にもどっていくね。」
ミサもほっとした口調になる。
「くそ、また失敗か!覚えていろ!スイート☆ミサ!」
叫び声とともに『竜将軍』の幻影は消えていった。
「ミサ、ありがとう!彼らに『魔法戦士』に変えられた魔法界の住民がこうしてミサに戻してもらうたびに魔法界は正常に戻ってくれるからね。」
アメちゃんの言葉が終わるか終らないかのうちに魔界空間はぼやけはじめていた。
作り上げた竜将軍が引き上げたことが原因だろう。
おーがくんが元気に帰ってくれることを祈りながら、美佐は魔界空間を後にした。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
美佐がスキップしながら洋菓子店『マジック』の店内に入ると、五月雨は先客といろいろ込み入った話をしているようだ。
(め、めちゃめちゃきれいな人だ!!!)
五月雨と同年代に見える長い銀髪のハーフの女性と五月雨は熱心にいろいろと話をしている。
「あら、美佐ちゃん、来てくれたのね♪ちゃんと、ご家族のご人数分はお取り置きしてあるわよ♪」
お店の奥からコック帽を被った若い女性がニコニコしながら表に出てきた。
「美佐ちゃん、ごめんね!ちょうどお客様が来られたので、店長は今打ち合わせをしているの。
せっかくだから店長と少し話がしたいわよね。美佐ちゃんがよかったらだけど、ハーブティーでも飲んで少し待ってみる?」
「は、はい!!おねがいします!!」
お店の雇われパティシエである、月野が手早くハーブティーの用意を進める。
「ふふふ、ゆっくりしていってね♪」
美佐はハーブティーをふうふう言いながら口に入れると、五月雨と銀髪の美女の会話に聞き耳を立てる。
(だめだ!遠くて聞こえない!!それなら…マジカルイアー♪)
美佐が呪文を囁くと五月雨たちの会話が聞こえてきた。
「それでは、一部商品のレシピを教えてほしいというお話なのですね。」
「ええ。もちろん、企業秘密なわけだから、代わりに『ハーブを使ったヘルシーなデザート作り』の情報を提供させていただくわ。『講師』による解説付きで。」
「なんですって!!それはこちらからお願いしたいくらいです!!いつごろきていただけるでしょうか?」
五月雨が女性の話に食らいつく。
その後、しばし、日程の話をしていたが、不意に女性が美佐の存在に気付いて、こちらの方を見やる。
(あわわわわ!!ど、どうしよう!?)
「五月雨さん。かわいいお客様がお待ちのようだから、詳細は後でメールか電話で詰めましょう。」
「あ、本当だ。それではよろしくお願いします。」
女性は手早く帰り支度を始めると、出口に向かっていった。
そして、美佐の座っている席を横切る際、美佐に向かってにっこりと笑った。
「こちらの都合でかわいいお客様をお待たせして申し訳ないです。」
ぺこりとお辞儀をすると女性は足早に立ち去っていった。
(きれい…ものすごく素敵…)
しばし、立ち去った女性の方を見ていた美佐に五月雨が声を掛ける。
「ごめんね、美佐ちゃん。お待たせしました。」
五月雨はにっこり笑って、あいさつすると、たわいのない話をしながらマジックを見せてくれた。
「お父さん、お母さん、お兄さんによろしく♪」
五月雨と月野の二人に見送られながら、美佐は心ここに非ずといった感じでぼうっとしながら帰路を歩いていた。
((あの銀髪のお姉さんのことが気になるんだろ?五月雨とどういう関係なのか特に。))
((そ、そんなこと……うん、あの人ものすごく素敵なんだもん。年も五月雨さんと同じくらいだし、私じゃかなわないよ…。))
((…んー、でも、あの二人の会話のやり取りはどう見ても恋人同士のような甘い関係というより、仕事上の取引先、といった感じだよ。))
((そうか!じゃあ、私にもまだチャンスがあるかもしれないね!!))
笑顔を取り戻した美佐だが、それを見てアメちゃんは内心ため息をついた。
(美佐は僕の目から見ても性格もいいし、すごくかわいいけど、五月雨君は21歳だからな…。普通の感性の男なら年下すぎて対象外…というか、対象だったらむしろ五月雨君の人格を疑ってしまうんだが…)
さすがにこのことを告げると美佐がすごく傷つきそうなので、アメちゃんはいつものようにテレパシーで美佐に伝えることはなかったが…。
もう少しで家に着きそうになった時、二人はまた『例の気配』を感じて顔色を変えた。
((また、魔界空間だ!このところ増えているな!))
((大丈夫、任せて!!))
今度の魔界空間は昼の砂漠だった。
そして、アラブ風の衣装をまとったリザードマン(トカゲ男)の兵士たちと、二回り大きな、重武装のリザードマンの将校らしき男、そして、高さ3メートルくらいの全身とげだらけのオオトカゲが待ち構えていた。
((今回は数が多いな!よし、変身を…へ?!!))
なぜか、洋菓子店『マジック』に先ほどいた銀髪の若い女性がリザードマンたちをビックリした顔で見つめている。
同時にリザードマンたちも想定外の『珍客』を前に戸惑っている。
しかし、最初に我に返ったリザードマンの将校の叫びで事態は大きく動いた。
「…そこの娘を人質に取れ!!」
((まずい!早く変身してお姉さんを助けないと!!))
素早く変身しようとした美佐はしかし、次に目に飛び込んできた光景に目を疑った。
女性が素早くオオトカゲに右回し蹴りを叩きこむと、オオトカゲは10メートルくらい吹っ飛んでいった。
そのままリザードマン将校に裏拳を叩きこんで『沈黙』させると、あまりの事態に呆然としている兵士たちに連続して拳を叩きこむと、数秒後にはその場に立っている者はいなくなった。
「やれやれ、これは一体どういうことかしら?」
一息ついて振り返った女性と美佐の目があった。
女性は『やっちまったぜ!』みたいな顔になり、美佐と二人でしばし、気まずい顔で見つめ合うことになった。




