9 ハーレムが嬉しいのは物語の中だけ
昼休みまでは教室は全体に静かだった。教師たちは私を見るたびにビックリしていたが、『予め何かの説明』を聞いていたようで、大騒ぎはされなかった。
まわりの視線、特に女性からの視線が非常に熱いように感じたのは残念ながら気のせいではないようだ。
男子生徒からの視線すら熱いような気がするのはさすがに気のせい……だよね?男子生徒からの視線が熱かったことは『今まで一度も体験したことがない』のだが。
女性からならまだしも、『男性化』した方が男性からも熱い視線が注がれるとか…本当なら泣いちゃうよ?
もう一つ気になることは、ザップマンセブンさんの声が一切聞こえなくなっていることだ。何度話しかけても返事がないし、彼の存在が感じられないのだ。
『どこかにいるらしい』ことは何となくわかるのだが…。
昼休みになると、空いた教室でアルさん、光ちゃんと『対策会議』を開いた。
アルさんの見立てによると、シードラゴンザップマンとして活躍しすぎて、ザップマンセブンさんの心と魂が疲れからひどく衰弱してしまったようだ。
そこで、それを『守るため』私の魂が彼の魂を『取り込んで保護』している状態なのだそうだ。そして、『男性である』ザップマンセブンさんの魂を取り込んだことで、私の中のバランスが崩れ、結果として男性になってしまったということだ。
…ということはザップマンセブンさんを分離しないことには、『私は男性のまま』ということになるよね?!なんてこったい!!
ちなみに、私と話をする際にアルさんがなんとなく赤くなってもじもじされているような気がするのは…さすがに気のせいだよね?
光ちゃんが動揺した様子のまま、私に話しづらそうにしているのはまだわかるのだが…。
とはいえ、二人とも私に対する視線は好意的なままなので、とりあえず気にしすぎないようにしよう。
とりあえず、『光ちゃんもパソコンの使用等で可能な限り協力するから一刻も早く対応策を見つける』とアルさんが断言してくれたのは有難い。
午後の同じく妙に静かな授業が終わると、アルさんと光ちゃんがいろいろ分析してくれているはずの物理実験室に向かった。
そして、まずはザップマンセブンさんの魂にエネルギーをチャージすることで分離を促すことから始めよう…という話になったのだが……二人が妙によそよそしいのだ。
特に光ちゃんがかなり私から距離を取ろうとしているのを明らかに感じる。
「光ちゃん。」
私は意を決して言った。
「もし、万が一女性に戻らないようなら、婚約解消して新しい恋人を作ってもらってもいいんだよ?」
私が言った途端に光ちゃんの顔色が変わった。
「瀬利亜はん、すまん!そんな『無用の心配』をさせとったんやな!?
大丈夫や!わてとアルテアはんで、何としてでも女性に戻すから安心しーや!
万が一女性に戻らん場合は、アルテアはんに魔法で『わてを女性にしてもろうて』添い遂げるくらいの覚悟があるんや!!」
結論の部分は少々間違っている気がしないでもないが、そこまで想ってくれていることが私には嬉しかった。
「光ちゃんありがとう!!!まずは私が元気になることで、うまくいくようにもっていくね!!」
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光一です。今日は人生で最大のショックを受けた日になってもうた。
教室に入って、愛しの瀬利亜はんの席に座っていた銀髪の男子生徒が『一目で瀬利亜はん本人』が男性化した姿だとわかったのは『愛の力』だと思うてます。
『最愛の瀬利亜はん』が男性化したこと自体もごっつうショックでした。
でも、それ以上に男性化した瀬利亜はんがもの『すごく魅力的に見えた』ことは想像を絶するショックやった……。生まれてから、もちろん、カッコいい男性には何人もあってきましたが、『魅力的に感じ』たことは生まれて初めてや!!
これは『中身が最愛の瀬利亜はん』やから『魅力的に見えてしまう』というやむを得ない事象やね??間違っても、そっちに走ったもうたわけやないよね??!!
なに?万が一女性に戻らなかったらどうするんや…やて?
……それでも構わないと断言できてしまいそうな自分が怖いわ!!
……そういや、戦国時代の前世で、『戦国武将の瀬利亜はん』と『その部下の武将のわて』が『そういう関係』にあったというのをアルテアはんに教えてもろうたのを思い出してもうた…。
時代や!!時代が悪いんや!!!
わてにそっちの趣味があるわけやない!!!!!
とか思いながら作業していると、あんじょう…仕事がからまわりやね…。
そして、放課後に瀬利亜はんにいろいろ説明させてもろうとると…。
「もし、万が一女性に戻らないようなら、婚約解消して新しい恋人を作ってもらってもいいんだよ?」やて?!
いやいやいやいや!!そんなこと一ミリたりとも思うとらんし!!!
『男でも構わない!!』いや、その本音を言うたら、『いろいろ終わってしまいそう』やし!!かくなる上は!!
『 万が一女性に戻らん場合は、アルテアはんに魔法で『わてを女性にしてもろうて』添い遂げるくらいの覚悟があるんや!! 』
…自分で言うておいてなんやけど、『究極の選択』を言うてもうた…。
どちらも『瀬利亜はんを手放すよりは百倍まし』やけど、究極の選択であることは間違いないよね…。
……とりあえず、安心してくれたようなんわよかった思うわ…。
「光一君、あやうく『男でも構わない!!』て言いそうになったでしょ?すごいわね。本当に愛が深いわね。」
ええ?!アルテアはん!!瀬利亜はんが帰ったからいうて、そんなにあっさりばらされたら…。
「私も生まれて初めて『男性が魅力的に見えた』わね…。これは二人とも本気で瀬利亜ちゃんを元に戻さないとヤバイわよね。」
……いろんな意味で『特別天然危険人物が降臨』されたようやね…。
お互いがんばりまひょ!!
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帰るなり、巧さんが卒倒されました。
今日の夕食は巧さんが制作予定だったので、私が代わりに作ることにしました。
何とか復活してくれた巧さんと、アルさん、ちーちゃん、バネちゃんも喜んで食べてくれましたが…いつもよりみんな口数がずいぶん少ないです。
巧さん以外顔を赤らめて、ぎこちないように見えるのは…気のせいではないような…。
いくら元は私とは言え、男性と話をするのは気恥ずかしいのでしょう…うん、そういうことにさせていただこう。
一時的とはいえ、みんな私が男性になったからといって冷たい視線で見てくれないだけでもありがたいことだ。
ゆっくり休んで元気になって、早く元に戻ろう!!
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遥です。いきなり『理想の王子様降臨』にはビックリしました。
一目で瀬利亜さんだとわかりましたが…男性を見てここまでドキドキするのは生まれて初めてです!!
やや憂いを含む目線、そして所作のひとつひとつが優雅で、見ているだけでため息が出そうです。
「遥ちゃん、鏡を貸してくれてありがとう♪」と中性的な声を聞いた時は卒倒するかと思いました。
内面が最高にカッコいいのはもちろんわかっていますから、授業中も油断するとついつい視線がセリアさんの方に行ってしまいます。
瀬利亜さんが男性だったら…せめて、兄弟がいてくれたらとか『ないものねだり』なことを思わず考えたりします。
恋をすると女性が魅力的になるといういい例で、婚約後の瀬利亜さんが『魅力を全開』にされてましたが、その男性バージョンの破壊力は凄まじいです。
まわりのほとんどの女生徒がセリアさんにくぎ付けになっている感じです。
彼氏がいるバネちゃんすら、視線がついつい、瀬利亜さんに向かっています。
……というか、ほとんどの男子生徒すら『熱い視線』がセリアさんに向かっているような気が…。
あ、橋本君が顔を机に打ちつけている…。
完全なノーマルの男子生徒もヤラれるとは瀬利亜さん、さすが過ぎです…。
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翌日は通常通りの登校です。みんなで仲良く、下駄箱の前に着くと……なぜか、『たくさんのチョコレート』が下駄箱の中や前に設置してある『専用段ボール箱』に大量に入っているのですが…。
いやいや、今日は11月14日でバレンタインデーじゃないんですが?!!
さらに『ホワイトデーのキャンディ』らしきものまでいくつか入ってるんですが?!
……一刻も早く女性に戻ろう!!そうすれば、元の穏やかな日常に……戻ってくれるよね?!ね?!




