仮面舞踏会と悪役令嬢 2
「ええ、よろしく頼むわ…。」
内心思い切り冷や汗をかきながらシルバームーンに見せてもらった。
『魔神戦士ことシードラゴンマスク』と本には書いてある。
曰く、さまざまな魔王や怪人・怪物と戦い続ける戦闘狂。
多くの魔王や怪物を素手で屠る血も涙もない怪物。
想像を絶する俊敏さとパワー、肉体強度は数々の魔王・S級冒険者を大きく上回り、さまざまな魔術や物理攻撃も無効化する不死身のモンスター。一応女性の姿をしているようだが、詳細は不明。素 顔を見たものはそのあまりの恐ろしさに発狂するとも言われている。
※『強敵と戦う』ことに至上の喜びを見出しているがゆえに、一般人には無害。ただし、強敵の手下や敵対者には容赦をせず、冷酷無比。
※規格外の六つ星の中でも最強最悪の一人。出逢ったら『可能な限り気づかれないうちに』即逃げること。ただし、神出鬼没なので、出現を確認次第、全力で逃走すること。
敵意には非常に敏感なようなので、『心の底から土下座して謝って』助かったケースもあるらしい。
…なんだこれは?!危うく私は『ダークサイド紳士録・アイボンの書』を素手で引きちぎりたくなる衝動に駆られた。
書いたやつ、絶対にぶん殴る!!
「おや?セリア様、ずいぶん震えておられますな?さては、遭遇されたことがおありなのですね?」
「え?ええ、そうなの…。」
不信感を抱かれては困るので、適当に相槌をうつ。ダークサイドから見たから、こんな感想なんだよね?間違っても一般の人達の感想がこうだったら、私泣いちゃうよ?!
「セリアさん、こんな怪物と会ったことがあったのにゃ?本当に大変だったね。」
トラミちゃんが気遣わしげに言ってくれる。……そういや、私の正体をこの子知らなかったんだよね。誤解させたままだとまずいので、帰ったら正体を明かすことにしよう。
「すごいなあ、さすがは『悪役令嬢の女王』の名をほしいままにされているセリア様だ。あの『伝説の魔神戦士』と遭遇して生き残られるとは大したものだ!」
「まあ、向こうはこっちを認識してなかったようだから…。」
「ご謙遜を。運も実力の内と言いますから、大したものです。」
うんうんと嬉しそうにシルバームーンはうなずいている。ちょうどいいからこのまま誤解してままでいてもらおう。
「そういや、シードラゴンマスクはさらに厄介なことに、時々他の『六つ星の怪物』と組むこともあるんですよね。例えば…」
シルバームーンは『アイボンの書』をさらにめくった。
『世界最強・最悪の不死の魔女・大魔女リディア』と本には書いてある。
曰く、千五百年を超えて生き続ける伝説の大魔女。
強烈極まりない魔法といくつもの無敵のゴーレム戦士を操る。
普段は若い女の姿をしているが、実体は老婆…あるいは魔道人形に魂を移している…など様々なうわさがある。魔王クラスの悪魔をいくつも従えているという噂もある。
※魔法の研究のためなら様々な無法行為を無頓着に行う。ただし、利害関係が生じない相手、特に一般人には無害。ただし、敵対者には容赦をせず、冷酷無比。
※規格外の六つ星の中でも最強最悪の一人の魔神戦士・シードラゴンマスクと時々組むこともある。
こちらも、酷いデタラメだなあ…。まあ、各国王室の認識もここまでは酷くないが、『世界最高クラスの気難しい『不老不死の老婆の魔女』と言う話になっており、時々助言や魔法で助けてくれるので、『有難りつつも敬遠』しているの実情である。
ちなみにアルテア先生は第九代にして、先代大魔女リディア『リディア・アルテア・サティスフィールド』で、現在三五歳だ。たぐいまれな知識で心身のバランスを取る生活を続けているから『生理年齢』は二十歳!!らしい。
現在各国政府から崇められている当代の大魔女リディアはアルテアさんの姪っ子が務めている。詳細はまた説明することもあろう。
「これも、すごく怖そうな相手だにゃあ!!」
トラミちゃん、あのゆるふわの優しいお姉さんだからね。こちらもあとで教えておかねばなるまい。
「ここに来ているメンバーは私が話をした限りではこのアイボンの書に載っているダークサイドの二つ星から五つ星のメンバーのようです。ちなみに私・シルバームーンは四つ星になります。」
少しだけ得意そうにシルバームーンが言う。ダークサイドのメンバーにとっては光栄なことなのだろう。
私は五つ星と六つ星で掲載してもらっているが、かけらも嬉しくない!なんとか削除依頼はできないものであろうか?
「ご歓談中のところを申し訳ないのですが、今から特別イベントを開催します。少しお時間を取らせていただきますので、気の合う方同士で三名一組のグループを作っていただけないでしょうか?」
司会の男性がよく通り声で会場に伝える。
「セリア様、トラミ様、よろしかったら私と組んでいただけますか?」
「そうね…、トラミちゃんが問題なければ私はかまわないわ。」
会場をざっと見まわした後、私はシルバームーンに伝えた。信頼できる…とまでは言わないが、特に害意が感じられないし、よほどの非常時でなければこちらに危害を加えてくることはあるまい。
しばし、ざわざわした後、どうやらグループ分けが終わったようだ。
「どうやら、グループが決まったようですね。では、今から『仮面舞踏会』改め、『仮面武闘会』を開催いたします。
今のグループで、トーナメント行い、勝ち残ったチームには優勝賞金金貨一万枚、又は相当の商品を贈呈いたします。」
待てやコラ!!『どこかの漫画にあったようなネタ』をそのまま使うんじゃない!別にダークサイドの人間だからと言って『戦闘系』とも限らんぞ!
会場はもちろん大騒ぎになり、抗議も相次いだ。
「みなさま、ご安心ください。これは盛り上げるための余興ですので、『チームの組み替え』や参加のご辞退をしていただいてもまったくペナルティはございません。こちらの方もしばらく時間を取っていただけます。」
ざわついていた会場がようやく収まる。出たくなければ全然大丈夫と言うのは『手の内を見せたくない人物』『非戦闘系の人物』にとって、ありがたいことだ。
我々はしばし協議した末、参加することにした。参加した方がこの集まりのなぞ解きに近づくような気がしたからだ。
結局我々を含む八チームが結成された。会場に招待された人間は100人くらいなので、半分もいっていないようだ。
「あと、トーナメント戦に於いて、みなさまに賞金を懸けて勝敗を予想していただけます。
急造チームのゆえに勝敗が予想しづらい点でも楽しんでいただけると思います。」
我々は城に隣接した闘技場に移動した。そして籤引きの結果、我々はいきなり第一試合に出場することになった。
相手を殺したら失格だが、降参・気絶・その他戦闘不能に追い込めば勝ちだそうだ。
例の『悪役令嬢のデータ』を元にして、シルバームーンとトラミちゃんが前衛、私が魔法を使って後衛ということにした。本来なら私が前衛でぶん殴った方が早いのだが、『裏の正体』がばれると面倒なので、魔法で支援することにする。
私、一応魔法使えるんですよ♪ぶん殴った方が圧倒的に速くて効果があるので、『戦闘終了後の治療魔法』以外実戦で使ったことないですけど。
相手の三人組は大柄だが、やや大人しげな(に見える)甲冑騎士と、おそろいの衣装を着た二人組の男女だ。シルバームーンはこの二人組と顔なじみらしく睨み合っている。
なんでも彼らも『怪盗』なのだそうだ。この二人も邪悪系ではないみたいなので、きっとシルバームーンといいライバル同士なのだろう。
シルバームーンはレイピアを抜き、トラミちゃんもでっかい斧を構えている…この子、実はかなり力持ちなんだよね。多分甲冑騎士を狙っているんだろう。甲冑騎士大丈夫だろうか…。
シルバームーンが素早く前進すると、甲冑騎士がそれに対応するように大剣を抜いた。
大剣が赤い禍々しい光を放つと同時に甲冑騎士の目が真っ赤な狂気に捉われた色に変わった。
「はっはっはーーー!!そこの優男は死なない程度に切り刻んでくれる!!我は真紅の狂戦士ダイナムなり!!」
「にゃーー!!!こいつはアイボンの書によると、五つ星の殺人狂なのにゃーー!!」
甲冑を着ているとは思えないような速さでダイナムはシルバームーンの前に躍り出ると、大剣を振りかぶった。
「ひゃっはーー!!まずは左腕を斬り落としてくれるわ!!!」
シルバームーンも動きは悪くないが、いかんせん相手がほとんど人外の怪物だ。このままでは本当に腕や足を斬り落とされてしまう!!
「危ない!!」
私はとっさに狂戦士ダイナムとシルバームーンの間に割り込んだ。




