仮面舞踏会と悪役令嬢 1
『伝説の盆踊り』をなんとか身につけたチハーヤに対して、
最大のライバルセリアはさらなる高みに達するため、『ダンス・オブ・フラ』を
身に着けて帰ってきた。
南国の心揺るがす優雅なダンスにチハーヤを始め、多くのものが愕然となった。
チハーヤは忘我の極致になるという盆踊りの中の盆踊り『阿波踊り』の修行に入るのであった。アホウになるまで踊り続けるという阿波踊りの奥義をチハーヤは果たして身に着けることができるのか?!
☆登場人物
セリア・ストーンリバー : 「ライトウィンド魔法学校」の生徒で、公爵家の令嬢。
魔法や剣はそれなりに得意であるが、理論面や作法は苦手。
人には言えない裏の顔があるようであるが…。
トラミ : 自称悪魔の猫耳娘。セリアの「悪役令嬢としての破滅的な未来」を回避するために協力を申し出る。天然で、語尾に「にゃ」をつける。
ミツール王子 : 王国の第一王子で、皇太子。美形でお人よし。セリアの元婚約者。
コーイチ(王子) : 王国の第三王子で、身分を隠して「ライトウィンド魔法学校」に通っている。魔法理論の天才で軽いノリのイケメン。セリアの幼馴染でもあり、セリア同様「謎の裏稼業(笑)」に就いている。
アルテア先生 : 「ライトウィンド魔法学校」教師。元宮廷魔法使いで、超一流の魔導師。ふわふわした雰囲気の長身の美女で、実は裏稼業の…。
チハーヤ姫 : 「ライトウィンド魔法学校」の生徒で東方の彼方の「ニッポン」国の姫。和風の可愛らしい少女。命の恩人であるセリアを婿にしようとしている。
風魔自来也 : ニッポン国御庭番集棟梁。チハーヤ姫の護衛。
今日も一日疲れたなあと思いつつ、寮の部屋に戻ると、扉に矢文が突き刺さっていた。どんな嫌がらせですか!全く!!…というか、
どうやって、『厳重な警備の中』私の部屋の扉に矢文なんぞを突き立てられるのかという話である。
部屋に入ると、予想通り、コタツにチハーヤちゃんとトラミちゃんが入っていた。
間違って、コタツの中に自来也さんがいないかしっかり確認した後で、コタツに潜って一休みする。ふーー、極楽極楽♪
そして、矢文の中身を念のため確認する。
『 セリア・ストーンリバー公爵令嬢様 及び トラミ様
来たる◎月XX日に##時から開催いたします『仮面舞踏会』へ
謹んでご招待させていただきます。
クモノス城当主 影の王より 』
なんじゃこりゃ???
こうして『セリアちゃんの仮面舞踏会対策会議』が校舎の地下の秘密部屋で開かれることになった。
アルテア先生を議長に、私、チハーヤ姫、トラミちゃん、自来也さん、そしてコーイチ王子にミツール王子まで参加されている。
みんな暇だな、おい!ま、いいんだけど…。
「なになに、クモノス城というお城で仮面舞踏会を開催。それも明日の夕方からやね。
優勝者には金貨一万枚または相当の景品を差し上げます…やて?
怪しさが爆発しとるな…。」
コーちゃんがフムフムうなりながら手紙を読んでいる。
「しかし、この地図の『クモノス城』は確か何十年も前に廃城になったはずやで。今は廃墟になっとんのちゃうか?ただ、この招待状に明らかに『妙な魔力』がかかっとって、銀でできた『影の王』の名刺も高い加工技術が使われとるわな。」
「明らかに何かの罠か、意図のあるお誘いだわね。しかも、セリアちゃんだけでなく、トラミちゃんも一緒に招待されているのが不気味だわね。トラミちゃんは公式にはいないことになっているのだから。」
アルテアさんも首を捻っている。
「よし、私の『正義の直観』もゴーサインを出していることだし、行ってみるわ!」
私が立ち上がって宣言する。
虎穴に入らずんば虎児を得ず!トラミちゃんのことまで把握していて、ここに手紙を送ってくるような相手だ。今回スルーしても次の手を打ってくるに違いあるまい。それならば変な人質を取られたりする前に、こちらから動いておいて、相手の情報をつかんでおいた方がいい。
幸い、トラミちゃんは運動神経も抜群で、「謎の小道具」のおかげもあり、ちょっとやそっとの相手なら、足手まといにならない。
万が一の時も「片手で抱えて逃げ出」せばいいのだ。
クモノス城の場所はここから通常なら馬車で1日ほどかかる王国外の自由都市チベリアのすぐ近くである。招待者はもちろんのこと、どんな人が招待されたかも気になるところである。
翌日、放課後に寮の裏手でアルテアさんが「特製の馬車」を用意してくれているはずだったのだが…。
「アルテアさん、どうしてここに『コタツ』があるんでしょうか?」
「ふっふっふ。普通の馬車だと万が一があった時にヤバいから、魔法の馬車を用意することにしました。テクマクマヤコン、えい♪」
アルさんが『見慣れたコタツ』に魔法をかけると、コタツはたちまち大きくなっていって、豪華絢爛な馬車が現れた…。
「へえ、立派な馬車だね……気のせいか白い大きな馬さんの頭には長い一本角が生えているように見えるんですが…。」
「おっと、御嬢さん!目の付け所がいいね!」
馬さんがしゃべりました。て言いますか、これ、ユニコーンさんだよね?!
「この、『ユニコーン・リムジン』に任せてもらえれば、王国内はもちろんのこと、近隣諸国のどこでも道に迷わずに案内させていただきますぜ!
ちなみに、馬車に乗れるのは『処女』限定とさせていただきます!」
おいおい、どんなわがままな馬車だよ?!と私が内心ツッコミを入れると、アルテアさんの顔色が変わった。
「…ユニさん?!どういう『御冗談』ですか?」
満面の笑顔だが、目が青白く光っており、目が全然笑っていない。
この状態のアルテアさんは『大魔王の十倍』怖い。
「…もちろん、セリア様とアルテア様が許可された方はどなたでも大丈夫です。」
冷や汗をかきながらユニさんが返事する。
こうして、私とトラミちゃんは順調にクモノス城に向かって旅立っていった。
私とトラミちゃんが馬車の中のコタツに入ってしばらくうとうとしていると、周りにたくさんの馬車や人の喧騒が聞え出して、私は目を覚ました。
どうやら、舞踏会にはかなりたくさんの参加者が来ているようだ。
まわりの様子を見るために私は用意された『蝶のデザインの仮面』を、トラミちゃんは『鳥の羽根のデザイン』の仮面を被り、御者台へ移動した。
私が御者台に顔を出すと、御者のいないこの馬車に不思議そうな顔をする人達の注目が集まっていた。馬車はそのまま城の門の前までゆっくりと進んでいく。
かなり目立ってしまうが、『足手まといの御者』を付けるよりはましなので、あえて気にしないことにする。
馬車を指定の場所に置いてくると、参加者たちが門番に『招待状』を見せて入場していた。
私が招待状を見せると、参加者同様仮面を被った二人の門番の顔色が明らかに変わった。
「セリア・ストーンリバー様と、お連れのトラミ様ですね。お待ちしておりました。」
門番の声にまわりの人達が大きくざわめいた。曲がりなりにも「公爵令嬢」が来たから騒がれたのだろうか?それとも別の理由があるのだろうか?
参加者たちの雰囲気がほぼ例外なく「真っ当系でない」ことも非常に気になる。
「セリアさん、料理がたくさんだにゃ!おいしそうだにゃ!ドンドン食べるにゃ!」
参加者たちが『変な雰囲気』であることを除けば、舞踏会そのものはよくあるパーティーとそう変わらない感じだ。
サービスしてくれる女中さんたちも例外なく仮面をしている以外は少なくとも普通の人達のようだ。
アルテアさんから借りた「毒物や危険な魔法」を探知してくれる指輪もとりあえず反応はない。
私が許可を出すと、トラミちゃんは喜んで「リスのように頬を膨らませ」ながら、料理を口に詰め込んでいった。
「美しい御嬢さん、少しお話しさせていただいてよろしいですか?」
トラミちゃんをそれとなく目の端に止めて、会場をゆっくりと見ていると、細身の顔立ちの整った青年が声を掛けてきた。
邪悪…ではないが、一癖も二癖もありそうなオーラを漂わせている。さて、まずはこの青年から情報収集するか?と少し思案していると、青年に気づいたトラミちゃんが声を掛けてきた。
「セリアさん、ナンパされているのかにゃ?」
トラミちゃんの声を聞いて、青年の顔色が変わった。
「セリア?まさか、セリア・ストーンリバー様ですか?」
「え?ええ、そうだけど…」
「これは失礼しました!そんな『大物』にいきなりお会いできるとはとても光栄です!
私は『怪盗紳士・シルバームーン』です。どうぞ、よろしくお願いします。」
シルバームーンは深々を頭を下げた。
怪盗紳士が私を『大者扱い』するとはどういうことだろうか?
「シルバームーンさんですね。どうぞよろしく。ところで、私が『大物』とはどういうことなのでしょうか?」
シルバームーンがどうも好意的な雰囲気を醸し出しているので、情報収集を試みる。
「ほほお!真の大物は自身の存在の大きさを逆にご存じないものなのですね。この、『ダークサイド紳士録・アイボンの書』で五つ星なだけのことはありますね!」
待てやおい!ダークサイド紳士録てなんだ!五つ星てどんな存在だ!
私の内心の怒りには気づかずにシルバームーンは懐から取り出した分厚い本を丁寧に解説してくれる。
『悪役令嬢セリア・ストーンリバーと使い魔のトラミ』と本には書いてある。
曰く、プリズム王国王太子ミツール王子を始め、三人の王子を手玉に取り、さらに海外の姫や様々な地位のある人達を男女を問わずに魅了する。公爵令嬢としての地位、美貌、知恵や卓越した剣と魔法の腕で王国の実権を握るのみならず、あちこちの裏の勢力に影響力を及ぼしている。しかし、王国の人達は『善良な公爵令嬢としての顔』に完全に騙されてしまっている。
※万が一敵に回せば危険度は非常に高いが、その地位や利益を脅かすのでなければ友好的な関係を築くのも難しくない。
どんな嫌がらせですか!!こんな本が出回っているって、なんの冗談ですか?!
「通常五つ星は会話するのはもちろん、私クラスでは会うだけで命の危険がある相手が多いのですよ。それが、セリア様は友好的に接すれば大丈夫と言うだけで貴重です。しかも、『地位や権力を得ることにはがめついが、領民からは搾り取らない美意識も持つ』あたりはとてもカッコいいです。それで、以前からぜひお会いしたいと思っていました!」
「ソ、ソウデスカ…。」
「怪盗紳士たる者やはり『義賊』でなければカッコ悪いですからね。領民をいたぶるとか、美意識がない悪人はあまり好きになれないんです。」
シルバームーンは嬉しそうに語ってくれる。このやり場のない怒りはどこにぶつけてくれようか!
「五つ星が危険て、他にはどんな五つ星がいるにゃ?」
本の内容を全く気にしていない様子でトラミちゃんがシルバームーンに声を掛ける。
「そうですね。例えば…」
言いながらシルバームーンはページをめくる。
「これはしばらく前に西方の地方を恐怖のどん底に突き落とした『魔王・ガルディア』ですね。ああ、倒されてから日が浅いからまだ名簿に残っているのですね。」
「倒されたってどういうことにゃ?」
「なんでもランク外の六つ星・魔神戦士の異名を取る『シードラゴンマスク』に素手で瞬殺されたらしいです。」
「五つ星を瞬殺できる化け物が存在するのにゃ?!」
トラミちゃんはビックリして思わず大きな声を上げそうになる。
私は内心もっとびっくりしたが、声にならない声を出しただけだ。
そういや、あの『へっぽこ魔王』はガルディアと名乗っていたよね…。
「そうそう、シードラゴンマスクもこの書に載っていますよ。よかったら、ご覧になりますか?」
シルバームーンは嬉しそうに言った。




