12 轟沈
(まったくやりにくい相手だ…)
勇者システムと遭遇し、レジウスは一人ごちた。
三人とも殺意がないだけでなく、瀬利亜、大魔女リディアにいたっては『敵意すらない』のだ。ただ、三人とも非常に強い意志の力は感じる。
特に瀬利亜の非常に強く睨みつけられる視線には油断すると気圧されそうにすらなる。
大切な二人を失ってから自分の心を焼けるように駆り立てていた喪失感が今まではあらゆる敵や障害を乗り越える強烈な原動力になっていた。
だが、瀬利亜たち三人との対峙は『焼けるような喪失感』が少しずつ薄れてきているのに気付いた。『もう五年生きていたら』エリムがあんなふうに育ったのではないかと錯覚させるくらい、瀬利亜の前向きで突拍子もない言動はレジウスの心を揺さぶっている。
それでも、それでも、自分は前へ進まなければならない!レジウスは彼女たちを無力化できるような魔法の候補を頭に浮かべながら自分を叱咤した。
「瀬利亜ちゃん、拳銃を強化するから、今から被せるスコープの指示通りに百発、全力で撃ちぬいて!。神那岐の太刀に回していた分も全て『念弾』に回して!
あとは私たちが何とかするから!!」
アルさんが叫ぶと、懐から暗視スコープのようなものを取り出すと私の頭に素早く装着してくれた。同時に、私の二丁拳銃に金色の光がまとわり付き、拳銃が小型のショットガンに姿を変えた。
スコープを通して周りを見ると、ところどころ赤く小さな点が断続して点灯している。「赤く点灯している点を正確に順番に狙い撃てということだね!」
「その通り!『破壊できたら』、次のターゲットが点灯するからお願いね。全部破壊できたら、スコープが解除されるから、レジウス氏を説得して、全力で船から離脱ね。
説得しそこなったら我々だけでも離脱ということで!」
私が銃撃している間、勇者システムの攻撃力、防御力とも大きく落ちるはずだから、可能な限り急がねば! では、射撃開始!!
私は一弾、一弾、気合を込めて、『フルチャージ』してから、レジウスとは全然別方向の一見したところ『見当はずれの方向』念弾を撃ちだした。
よっしゃあ!!すぐに次のターゲットが赤く点灯したぞ!この調子で再チャージを進めていく。
私の行動、神那岐の太刀の威力が目に見えて落ちたのを見て、レジウスが『星舟のシステム狙い』だと気づいたようだ。
手盾に膨大な魔力を挿入して、何十条という闇の鞭の威力を大きくアップしつつ、『虚無の刃』を振りかぶって、斬りかかってきた!
当然こちらは『戦術的撤退』をしつつ、射撃継続だ!
走りながら、躱しながら拳銃を連射するのはお手の物だ。
今の神那岐の太刀では『虚無の刃』でまともに切りかかられたらおそらく二~三撃でへし折られてしまうだろう。
「ちーちゃん、神那岐の太刀を『防御重視』にして!」
状況を察したちーちゃんが念を込めると、三メートルくらいの長さの神那岐の太刀が半分くらいの長さになった。威力はかなり小さくなったが、刀身のエネルギー密度が上がり、かなり耐性が上がったようだ。
何十条という闇の鞭はアルさんが放った魔力のこもった『大量の桜の花びら』に当たると、これも崩壊していった。
その隙を縫って、撃ち込まれた斬撃もちーちゃんがうまく受け流していく。
そして、私はようやく三発目の目標を撃ちぬいた。…先が長いな…。だが、長時間勝負は『最大七二時間戦えるシードラゴンマスク』の独壇場なのだ!レジウスのおっさんにも負けやへんで!まあ、七二時間戦ったら、七二時間バタンキューしてしまうんですが…。
五四発撃ちぬいたところで、ちーちゃんとアルさんの息がかなり上がってきたようだ。
私はまだまだ平気だが、レジウスのおっさんも私以上に平気そうだ。
このままではヤバい!!ということで、エネルギーが半分くらいたまった『念弾』で、レジウスの右手の剣の柄についている『魔石』を狙い撃つ。
ものすごく勘のいいレジウスは何とか手盾を使って念弾を反らすが、その隙をついて、私はさらに船内の目標を狙い撃つ!
若干所要時間はかかるが、ちーちゃんとアルさんの負担が大きく減ることになる。
私の意図に気づいたレジウスが苦笑する。モンスターバスターチームの底力を重い知るがいい!!
……なんとか八一カ所目を撃ちぬいたところで、立ちくらみが起こりそうになる。ちーちゃんやアルさんより私の方が消耗が激しい感じだ。
だが、しかし!熱く燃え盛る正義の心のある限り!シードラゴンマスクは決して負けたりしないのだ!!こうやって、五回くらい自分の心を奮い立たせて、遠のきそうな意識を何とか繋いできた。頑張れ瀬利亜!あと、たった一九発だ!折り返し地点どころか八割以上来ているぞ!…は!その後、知力・体力・時の運を総動員しての説得があるのでは?!……人生生きてれば何とかなる!行き当たりバッチリ!お先マックスだ!!
そんな感じで必死で自分に活を入れていると、かなり青い顔をしながらもアルさんが私に囁いてきた。
「今、素敵なビジョンが見えたわ。ここを乗り切れば、瀬利亜ちゃんは『赤い糸の運命の人』と素敵な聖夜を過ごせるみたい♪そろそろ赤い糸が赤いザイルに成長しつつあるようだし…。」
なんだと!!年齢=彼氏いない歴だった私についについに『運命の人』が出現し、素敵な『聖夜』を送ることができるのか!!
クリスマスケーキや様々なご馳走とシャンパンを前に光ちゃんと乾杯しているビジョンが見えて、私の心に少し元気が出てきた!
アルさん、ありがとう!!素敵なビジョンを見せてくれて!!
あれ、なんで、光ちゃんがこのビジョンに入っているのだ?
……まあ、そんな感じの素敵な彼氏ができるということだな!
とりあえず、素敵な聖夜に向けて、二丁拳銃を私は操った!
…九八発……撃ちました……いかん、半分頭が朦朧としている!
…川岸の向こうに、亡くなったはずのお祖父さんが…ヤバイビジョンが見えてます…。
レジウスも相当疲れているようだが…こちらを見る目が…怒りや焦りというより悲しそうに見えるのはなぜだろう…。
「星舟のシステムを少しずつ攻撃して、最後にゆっくりとコアが破壊するように持って行っているわけか…。大したもんだな…。」
レジウスがこちらを見ながら苦笑いしている。
「だが、一番肝心な瀬利亜嬢が息も絶え絶えのようではないかね?もう一発も放てなそうに見えるのだが…。」
く、痛いところを突いてくる!あと一発撃てるかどうかギリギリなところだ。
一発撃ちきったところで、私がノックダウンしたら、どうなるんでしょうか?
しかし、それでも…。
「それがね、一つ誤算がありました。」
息も絶え絶えになりながら、それでもアルさんが涼しげな声を出す。いやいや、誤算てなんですか?!
「もう少し早く百発撃ちこめるかと思ったのですが、レジウスさんが予想以上に手ごわいので、想定時間を大きくオーバーしてしまったのです。
その間にシステム崩壊が進んで、このまま放っておいても『確実に星舟のコアが破壊』されることが確定しました♪」
「そういう大事なことは早めに言って!!」
「ごめん、レジウスさんからの攻撃を避けるのにあんまり必死過ぎて、気づくのが遅れちゃいました♪」
「「「……。」」」
しばしの沈黙の後、私は最後の力を振り絞って声を上げた。
「というわけだから、『星舟』を沈めたくなければ、とっとと講和に応じることね!
講和するのであれば、三人が『コア破壊の阻止』に全力で協力するわ!」
立っているだけでやっとだが、これでほぼ負けはなくなった。
万が一レジウスが戦闘を選択しても『逃げ切れば勝ち』になる。
講和してくれればさらにめっけもんだ。
レジウスはしばし、表情を消していたが、急に笑い出した。
「くはははははは!やってくれるな!これはこちらの完敗だ。だがね、降参したり講和に応じることはできない。たとえ、星舟を沈められてもだ。…ところで、現在異空間を時空移動している最中なのだが、君たちはどうやって脱出するつもりなのかね?」
「どこでもゲート!」
謎の効果音をさせながらアルさんが懐から小さめの扉を取り出した。いや、それ、ネタ的にヤバいから!!
「石川邸の私のお部屋限定(正確には設定した場所)でワープすることができます。開閉は私がコントロールして、私が通り抜けたらこちらの空間からは消えますので。」
「前回の戦いの時にも使っていたヤツだね。あの時もアルテア嬢、君もいたのかね?」
苦笑しながら言うレジウスにアルさんがうなずく。
「怖いから陰からこっそり見守ってました♪」
さあ、ゲートをくぐろうかという時に星舟のあちこちから轟音が聞こえ、大きく揺れるようになってきた。コアが破壊される前に全体が崩壊しだしている感じだ。
そして、レジウスの後ろからドクターフランケンが走り寄ってきた。
「レジウス様!頑張れば、コアの破壊は何とか食い止められるかもしれません!私の修理マシン『リペアー君』をフル稼働させれば!」
ドクターがそこまで言った時、レジウスはドクターの襟首をつかんで、私たちに向かって投げつけた。後ろについていた『妖精ロボ・ミーナ』もあわてて、私たちの方に飛んでくる。
「ドクター!他の乗員は全員脱出したのだな!」
「確かに脱出はしましたが、いったい何をなさるのです!!」
「ドクターは御嬢さん方に脱出させてもらえ!私は星舟をもう少し何とかしてみる!」
「しかし、このままではレジウス様まで星舟と一緒に?!」
ドクターの叫びにレジウスは笑った。
「星舟が爆発したくらいでは私は死なん。ドクター!また会えるのを楽しみにしているぞ!御嬢さん方も!今度はもっとしっかり準備をして世界を受け取りに来る!」
轟音が大きくなる中、レジウスはコアの方に向けて消えていった。
そして、私たちは勇者システムでドクターと妖精ロボを抱え、ゲートをくぐっていった。




