10 突入作戦
現在移動要塞『星舟』は世界のあちこちを移動しているようだ。
全高一キロを超える巨体が『反重力システム』と『時空間移動(いわゆる短距離ワープ)』まで行うので、あっという間に世界中の国々の人達が星舟の存在を心の奥に焼き付けられることになった。
先日の『地球ロボ大暴れ』のレベルではないくらい、世界中が騒然となった。
技術格差を見せつけることで、各国政府と国民に勝ち目はないと思わせるのだね。
現在私たちは南米のイグアスの大滝の近くに来ている。
最強の陰陽師である土御門美夜さんの高速移動式神『黒鳥』に乗って現在『星舟』が浮遊している近くまで来たのだ。
『勇者システム』が組み上がった後、朝から数時間かけて三人で動かす訓練をした後、レーダーや視認はもちろん、魔法探知すらする抜けるステルスタイプの『黒鳥』ではるばるブラジルまで飛んできたのだ。
私たちを保護してくれる「結界」に守られていたとはいえ、三時間の空の旅は少ししんどかった。
そして、いよいよ「人間大砲式神」と私が勝手に呼んでいる『弾丸』に私、ちーちゃん、アルさんの三人が乗り込む。
「皆さん、ご無事で。念のために私はここで待機しておくね。」
美夜さんが『弾丸』に乗り込む私たちを見送ってくれる。
「必ず、吉報をお届けします!!」
私が拳を突き上げると、美夜さんがにっこり笑ってくれた。
「大変です!!高エネルギー反応が『星舟』に急速接近してます!!」
ドクターフランケンが叫んだ時にはレジウスは『危険物の接近』に気づいていた。
(このエネルギー体の動きは…ゴーレム?いや例の陰陽師、土御門美夜の式神か?!)
「星舟砲発射!!」
夜空に薄く発行して浮かぶ星舟から魔法エネルギーを圧縮して撃ちだした。だが、命中したにも関わらず、『防御専用の式神・弾丸』はその形状及び魔力結界をうまく使いエネルギーの大半を受け流した。
そして、そのまま星舟に突っこむと内部に瀬利亜たちを降ろした。
「では、勇者システム起動します!」
アルさんが懐から白い人形を取り出すと、それは三メートル余りの半透明の戦士の形のゴーレムになった。そして私たち三人を吸い込むと、そのまま走り出した。
勇者システムは私(瀬利亜)の動きを基本トレースするように設定してある。
ただし、刀を抜いた戦闘の際はちーちゃんが剣を振るうことになる。
その際予備の手が二本あり、それは私が動かす。斬りつけながら同時に殴り掛かるという反則技も使えるのだ。場合によっては蹴りも使えるが、それをすると刀が使えなくなるので、本当に非常時だけになるが。
ちなみに刀は神那岐の太刀をちーちゃんと私の二人分の霊力を使うので、ちーちゃん一人の時より五倍くらいの威力になるようだ。実は私の使える霊力はちーちゃんと同じくらいなのだが、二人の相性がいいので、合体すると五倍になるらしい。
ちーちゃんの霊力が先日の戦いの時より大きく増しているため、あの時の『虚無の剣』なら逆にへし折れるらしい。ふっふっふ!パワーアップした神那岐の太刀の威力を重い知るがいい!!
勇者システムは予定通り『星舟』のエネルギー核に向かって走っている。
私たちがそちらに向かえば、自動的にレジウスが来てくれるという寸法だ。
時速百キロで走りだして、三分と経たないうちにレジウスの方から姿を現してくれた。
ここからいよいよ『知力・体力・時の運』すべてを総動員した最終決戦だ!
いざ、尋常に勝負!!
「ほら、食事しないと元気になれないわよ。」
私(遥)がご飯を用意してもルーリーくんはかたくなに食べようとしない。
自分が無謀にレジウスに突っこんでいったのが原因で、瀬利亜ちゃんが敵に捕まりそうになったり、記憶喪失になったりしたので、思い切り落ち込んでいるのだ。
「全部、僕が悪いんだ…。」
ベッドにもぐりこんだままルーリーくんは身動きしそうにない。
本当、どうしたらいいんだろう。
「ほんまや、全部ルーリーはんが悪いんやで!」
「錦織先生!!なんてことをおっしゃるんです!!」
真面目な顔で錦織先生が辛辣なことを口走るので、私は思わず抗議する。
「だって、せやろ?ルーリーくんは自分にできへんことをしようとしてたくさんの人に散々迷惑をかけておいて、今度はできることすらしようとせえへんやん!
せっかくルーリーくんが知らせてくれたから『世界の危機』をみんなが早く察知できた言うのに、その後無理して、こけてもうて。ま、それは人間失敗はつきものやからしゃあないねんけんどね。だれも死なへんかったし。
ただ、いつまでもうじうじして、遥はんに迷惑ばっかりかけよったんじゃあ、どうしようもないわな。ちゃんとご飯食べて元気になることが今できる一番大切な事やあらへんのかいな?」
「…錦織先生、ごめんなさい。私…」
「遥はん、気にせんといて。ルーリーはん、甘える時は思い切り甘えてええ!でも、今みたいに変な甘え方をされると誰にとってもようないで!とにかく食え!そして、元気を出せ!すべてはそれからや!」
ルーリーくんは錦織先生に言われて、ようやくもぞもぞと動き出した。…そうか!今の言葉は錦織先生はご自身にも言われていたんだ。
本当はレジウスとの決戦に付いていきたかったそうだけど、瀬利亜ちゃんが『光ちゃんは石川邸で私たちの勝利を祈ってくれることが意味があるから。だから、みんなと一緒に待っててください!』て言われてあっさり引き下がっていたからね。
本当に二人ともお互いを信頼しているんだわ。
「じゃあ、ルーリーくん。今度はお風呂入ろうか?」
「わあ、遠慮します!!」
「だめだめ、もうあの日から入っていないんだから。バネさん!手伝って!」
「よっしゃ、任せとき!」
バネッサさんが私と反対側の手をがしっと握ると二人でルーリーくんをお風呂に拉致っていった。
「わーーーーーーー!!」
最初の日同様ルーリーくんの叫び声がお風呂場に響き渡った。
勇者システムは半透明なので、向こうから私たち三人の姿は丸見えである。
さらに三人の声もきちんと聞こえるようになっている。
これか『会話と交渉』が戦いと同じくらいかそれ以上に今回の件の鍵をにぎるから特別設定してもらったのだ。
「驚いたな!!瀬利亜嬢と千早嬢はもうすっかり回復されてようだな。そして…、そちらの女性はお初にお目にかかるが…」
「はい、リディア・アルテア・サティスフィールド、通称『大魔女リディア』です♪」
アルさんは涼しい顔をして、レジウスに対して一歩も引かずに対峙している。
「不法侵入してこられて、どんなご用件かね?」
「もちろん、『話し合い』に来ました♪」
レジウスと私がお互いに涼しい顔で「腹の探り合い」を行う。
「ほほお?それで、どんなご提案をしていただけるのかね?」
「それだけの魔道&科学力があるのだから、どこかの島を譲ってもらって、そこに住民を募集して王国を作ればいいんじゃない。誰にも文句を言われずに理想的な王国が作れると思うわ♪」
100%乗ってこないとわかっていつつも、こういう『平和的な解決策』を提示する…それが真のモンスターバスター=『超常問題トラブルシューター』であると私は思っている。
私の話を聞いて、レジウスは笑いだした。
「はっはっはっは!予想以上におもしろい御嬢さんだ!非常に興味深いご提案だが、『世界のすべてを手に入れられる力』があるのに、なぜ、そんなせせこましことをしなければならないんだい?」
「だって、間違って『世界征服なんかしてしまったら』、やるべき『めんどくさい雑用』ばっかり増えて、本当に楽しめることに使える時間が減っちゃうじゃない。
間違って、世界のトップになんぞなろうものなら、経済や政治やその他もろもろの『気にしなくてはいけないめんどくさいこと』が増えて神経が休まる暇がなさそうだよ。」
「ほんと、瀬利亜ちゃんの言うとおりだわ。『のんびりカタツムリが動くのを見て』いたり、『コタツの中で猫ちゃんがもぞもぞしているのを楽しんだり』する大切な時間が無くなってしまいそうだわ。」
「「「………。」」」
しばしの沈黙の後、ようやく私は口を開いた。
「…あの、各国政治家や王侯貴族より『立場が上で大切なお仕事をなさっている大魔女リディアさん』は日ごろ何をなさっておられるのでしょうか?」
「季節によって違うわね♪冬はコタツで猫ちゃんと仲良くなっているでしょう♪
春はね、お花畑やハーブの手入れをしてあげているとあっという間に日が暮れてしまうし、夏は『冷房魔法をかけて』野山で遊んだり、海や湖の中を散策することもあるわね。」
「…水の中は『呼吸できる魔法』を使うわけ?」
「…水除けの魔法を使うから普通に空気呼吸だよ♪でね、秋は栗とか山の幸を仕入れたり、畑の冬支度をのんびりしていると、日が暮れるの。秋の日のつるべ落としとか、日本語の表現は素敵だわね♪ 意外とアウトドア派でしょう♪都会だとヒッキーさんになっちゃうっけどね♪」
「…アルさん、レジウス氏が目を点にされているから、そろそろ本題に戻ろうか?」
「というわけで、レジウス氏。下手に世界征服をされるよりは、だれにも邪魔されない優雅な生活をされることをお奨めするわ。今ならほとんど各国政府に実害がないから、我々の仲介で、無理なく『独立国建国』が達成されると思うわ。」
ふざけて言っているように聞こえる人もいるかもしれないが、本気です。そして、似たような条件で人々と共存した「人外の存在達」もたくさんいます。
私はかなりそういう『独立国・自治体』との仲介を行ってきたので、モンスターバスター協会の中でも『橋渡しの瀬利亜ちゃん』の異名を取っているのだ。
レジウスはしばし、私たちを見ていたが、やがて口を開いた。
「御嬢さん方が悪意ではなく、本気で言ってくれているのはわかった。そのことについては礼を言わねばなるまい。だが、私はどうしても『我が帝国』を取り戻さねばならんのだよ。
本来なら君たちはそのまま帰ってもらうところなのだが、君たちはそのまま返すにはあまりにも危険すぎるのでね。
『全てが片付く』まで、この星舟で大人しく待機してもらいたいのだがね。」
レジウスの目が少し悲しそうに、そして非常に危険な光を帯びてきた。
交渉は残念ながら失敗!しかし…なぜ『彼の帝国』に固執するかわかれば解決の糸口がつかめるかもしれないが…。
それより、レジウスの高まってくるオーラから推察して、三人がかりでもまだ全然倒せる気がしないのだから、嫌になってくる。
しかーし、それは当初の予定通り!『負けなければ我々の勝ち』だ!
こうして対レジウス戦の第二ラウンドは幕を開けた。




