異世界勇者召喚と悪役令嬢 2
「で、どうして私たちを召喚したのか、詳しい事情を聞かせていただきましょうか?」
私がじろりと睨みつけると、王様はしばらく、もごもご言っていたが、睨みつける視線を厳しくすると、観念して口を開いた。
「…我がドリタニア王国は魔王軍と戦闘になって、現在亡国の淵に立っておるのだ。やむなく国を守るために『禁断の異世界から勇者召喚の儀式』を行ったのだ。」
汗をだらだらかきながら王様が何とか言葉を絞り出した。
まわりの王族・騎士や魔法使いと言った連中がこわごわこちらを見ている。
「最初に協定を破って攻撃してきたのは貴様らではないか!」
亀甲巻きになったままシャイアが王様を睨み据える。
「…で、でたらめだ!その女の言うことは大嘘だ!」
「…なんだと!貴様ら人間たちはいつも嘘ばかりついているくせに!!」
…こりゃいかん。話が進まない。
「トラミちゃん、そのシァイアさんとやらをちょっと眠らせて。」
「わかったにゃあ♪気絶ハンマー♪♪」
謎の効果音をさせながら、私の頭よりでかいでっかいサイズのハンマーをトラミちゃんは取りだした。
ゴキーン!!派手な音をさせて、頭に特大のコブを作って、シャイアは床に倒れ込んだ。完全に白目をむいている。……もしかして、単なるでかいハンマーじゃないだろうな、それ?
トラミちゃんの蛮行に王様の顔はさらに蒼白になり、声も震えだした。
仕方ない。少し助け舟を出すか。
「つまり、魔王軍に攻められて、現在王国は壊滅寸前だと。で、助けを求めに異世界から私たちを呼び出した。で、まずどうしてほしいわけ。それから条件は?」
「は、はい。元の世界にお戻ししますので、魔王軍を壊滅させてほしいのです。」
「謹んで、お断りさせていただきます!」
私がきっぱり断言すると、王様の顎が落ちた。『元の世界に返す』と言えば魔王軍壊滅の『汚れ仕事』をやってくれると思ったのだろうが、そうはいくか!
私たちを呼び出した時の王様の横柄な態度、周りの連中の奇異の視線などからこの連中が信頼に値するかどうかきわめて怪しい。
先ほどの魔王軍の将軍・シャイアのセリフからも「最初に協定を破ったのは王国側」というのは十分あり得そうだ。とはいえ、召喚したと思しき女性が後で『処刑』とかされたりすると少し寝覚めが悪いので、一応交渉は続けるつもりだ。
「まず、もし、あなたたちの助力をするとしても、魔王軍を壊滅させるかどうかは『私たちが判断』させていただきます。魔王軍が攻めてこなくなるように『平和協定を結ぶお手伝いをする』くらいなら条件次第で考えてもいいです。
また、時間はかかりますが、私たちは『自力で帰れ』ますので、『元の世界に返す』は条件から外してください。」
王様の顔が明らかに焦った顔に変わった。予想通りいろいろ都合の悪い事実を隠してるな…。さあて、まずはどうやって、チハーヤちゃんと、トラミちゃんの安全を確保するかが最優先課題だね。
三年前に『シュテンドウジ』にさらわれたとは言え、今のチハーヤちゃんは相当強い。『婿になるセリアさんの足手まといにならないため』に徹底して鍛えたのだそうだ。簡単な巫女(神官)の術が使えるほか、刀(剣)の腕もこの王宮の騎士隊長とためを張るくらいには強いだろう。
トラミちゃんは並の獣人よりも俊敏で腕力があるうえに、「未来の謎の小道具(笑)」をいろいろ使うので、一応足手まといにはならない……と思う…。あまりにも天然すぎるので行動の予測がつかないのが最大の難点だ。
自来也さんは私とどっこいどっこい位に強いのはさすがは御庭番棟梁だけのことはある。大ガマなんぞ呼び出したりしたら、王国すら滅ぼせるかもしれない。下手すると魔王並のラスボスになってしまう。
今のところは王国の総兵力で囲まれても『楽勝で全員無事で突破』はできそうだが、食べ物に毒とかし込まれたらえらいことになる。
いつでも逃げられるようにしつつ、一応『魔王軍との和平』を手助けするような動きだけはしておこうか。
「では、一応協力していただけるのですね。」
大臣らしき人物のひそひそ話を耳に入れながら王様が引きつった顔で話すと、私はうなずく。
「では、その魔王軍の将軍を渡してはもらえないでしょうか?」
「断固拒否します!!」
私がきっぱり言い切ると、またも王様の顎が落ちた。
「全く礼儀がなっていない方たちですな!」
自来也さんも王様たちを睨み据えながら口を開いた。
「いいですか、あなた方は我が国の大切な跡継ぎである姫とそのご友人達、公爵家の令嬢や『大切なペット』を勝手に誘拐したのですぞ!しかも勝手に誘拐しておいて、『家に帰してやるから言うことを聞け』と脅すとか、無礼千万ではないですか!!
しかも、我々が戦って得た『捕虜』を勝手によこせとか言語道断の要求です。恥を知りなさい!!」
自来也さんのセリフに王様や重臣たちの顔が赤くなったり、青くなったりしている。
ところどころ変なことを言っているが、おおむね間違ってはいない…気がする。
「自来也さん、その辺にしてあげてください。この人達は国が亡ぶ寸前でやむなく私たちを呼ばれたのですよ。もう少し寛容な目で見てあげてください。」
「かしこまりました。では、姫のお言葉に免じて、これ以上は申し上げますまい。」
チハーヤ姫の言葉に自来也さんはさっと後ろに下がる。
王様たちや重臣たちも少しホッとした顔になる。
「では、あとはセリアさんにお任せしますね。」
「了解、任されました♪では、詳しい条件を聞きましょうか。」
私は渋い顔をしている王様ににっこり笑って話を始めた。
結局私を召喚した第三王女レミーナさん(身分の低い女性の娘だったことで冷遇されているそうだ、やれやれ)だけを同行させ、魔王軍主力を無力化、あるいは、交渉で停戦に持ち込み、最終的には平和条約を結ぶように動くことで無理やり同意させた。
騎士団や魔法使い・神官の同行は全て断った。足手まといになるのと、『信頼できない』のと両方だ。いつ寝首をかかれるかわからないような相手と同行するなどまっぴらだ。
褒美に土地や財宝をくれるという話は、「王室の宝石コレクションの一部」だけを成功報酬として受け取るということで話をまとめた。なしでもよかったのだが、『動機付けがあるように見える』方がよかろうと、あえて受けておいた。
そして、現在気絶中の『魔王軍将軍シャイア』の扱いは一任してもらった。『魔族』の言うことなど信用しないだろうと高をくくっているようだ。
甘い、甘すぎますぜ!この女性は人間以外の種族ではあるが、いわゆる魔族とか魔界の住人ではないのは我々モンスターバスターならオーラを見ればすぐにわかる。
「魔王軍」と名乗ってはいるが、人間とは少し違う種族の国の軍隊であるだけだ。
彼女からは王国の実態や魔王軍の実態に関して貴重な情報がいろいろ貰えそうだ。
また、助けが遅い場合もあるということで早く解決した場合は『元の世界に返す』ということも一応条件に入れた。万が一騙そうとしたら、もちろん、『それなりの行動』をとる予定だ。
そんな話し合いをしているうちに夜になってしまった。
そろそろお腹がすいたなという時それは起こった。
「みなさーん、そろそろ夕食の時間ですよ~♪」
みんながその存在をすっかりと忘れていたコタツががばっと起き上ったかと思うと、私とチハーヤちゃんが通っている「ライトウィンド魔法学校」教師にして、元宮廷魔術師、モンスターバスターチームのリーダーでもある、ふわふわ美女のアルテアさんが顔を出した。
王宮にいた全員が呆然として言葉を失う中、私は何とか口を開いた。
「…アルテア先生、いったいどうやってここへ?」
アルテアさんはにっこり笑うと、効果音付きでコタツを持ち上げながら言った。
「どこでもコタツでーす♪ なんと、このコタツは『時空間移動ゲート付き』なので、もう一つのゲートとつなげば、いろんな場所と行き来できる機能が付いてます♪」
「なんですかそれ?というか、そのコタツはアルテアさんが私の部屋へ持ち込んだわけね!!」
「はーい、セリアちゃんのご想像通り、このコタツは私の部屋につなぐことが出来まーす。操作できるのは私だけですが♪
そうそう、今晩はいい素材がいろいろ入ったので、山菜と海の幸もたっぷり入った寄せ鍋です♪みなさん、ターンと召し上がれ♪」
「そだね。今晩は帰って、鍋をつついて、お風呂入って寝ましょうか♪」
「わーい、コタツで鍋をつつくのはいいですよね。セリアさん♪」
「魚をたくさん食べられるのは最高だにゃ♪」
「そうそう、鍋をつつきながら、熱燗を頂くのがまたいいんですよね♪」
全員完全に『鍋モード』に突入している。私は亀甲縛りのシャイア将軍を担ぐと、レミーナ王女の手を引いて、コタツ兼ドアに急いだ。
「あ、あの、魔王軍の方は…」
王様が泣きそうな顔をしているので、振り返って答えた。
「今日はこれでみんな帰るけど、『気が向いたら』明日の夕方前に私を含めた何人かでまた来るから。じゃあ♪」
みんながコタツに開いたドアをくぐっていくと、後には「静寂」が残された。
後日談。
魔王軍と戦いに行く…と言いつつ、シャイア将軍から詳しい話を聞いていたので、将軍の無傷での引き渡しと「魔王軍側に有利な協定」を結ぶことで何とか和平条約は結ぶことが出来た。
王様たちは当然、話が違うと怒ったが、アルテアさんに調べてもらった「王族・重臣・神官たちの悪行の証拠の数々」を国民や良識派の人達に突き付け、あっさり王国をひっくり返した。
彼らには退位や引退してもらい、第三王女のレミーナさんが国民の推挙で女王の座に就くことになった。
そして、平和になった王国を後にした私たちは今日も……
コタツで平和に過ごすのであった。




