モンスターバスターは悪役令嬢になれるか? その2
「おーっほっほっほっほ!あーら、こんな初歩的な作法もご存じないのかしら?そんなことではお城主催の舞踏会などとても行けたものではないですわね!」
クラスメイトの公爵令嬢・セリアになじられ、地方の貧乏貴族の娘のチハーヤは落ち込む。
(ああ、私もきれいに着飾ってお城の舞踏会に行ってみたい。王子様と踊ってみたい。)
悩むチハーヤの前に魔女アルテアが優しく声を掛ける。
「今から普通の舞踊を覚えていたのでは、公爵令嬢にとても勝ち目はありません。
あなたの国ならではの素晴らしい踊りを披露すべきです。」
アルテアの助言に東洋の伝統「盆踊り」を必死で練習するチハーヤ。
果たして舞踏会の日までに『伝説の盆踊り』は完成するのか!!
「姫!大丈夫ですか?!」
忍者がチハーヤ姫に向かって叫ぶ。
「…だ、大丈夫です。自来也さん。……でも、この人は…」
ギリギリ寸前で当たらないように投げた手裏剣が周りに刺さった状態でトラミちゃんは泡を吹いて気を失っていた。
チハーヤ姫の護衛の忍者だったのか、人騒がせな!
と、ここで、自来也という名前と、忍者の物腰で思い出した!
自来也さんは三年前に東の彼方の国「ニッポン」で一緒に事件を解決した忍者さんではないか!!
「…自来也さんて、あの三年前の…」
「思い出して頂けましたか!!うれしいです!」
そして、もう一つ思い出したことがある。
ロリコンの鬼の『シュテンドウジ』一味から可愛らしい姫を私たち「モンスターバスターチー……ごほん、ごほん…旅の際に「友達達」と救い出したことを思いだしたのだ。
目の中に入れてもいいくらい可愛らしかったお姫様の名は確か…。
「はい、あの時命を救っていただいて本当にありがとうございました!!」
満面の笑顔でチハーヤちゃんが笑いかけてくる。私が男だったら絶対に嫁にゲットしてやろうとするくらい魅力的な笑顔だ。おっと、よだれが出ないように気を付けないと…。
「そうか、それで私を頼って、『魔法修行のため』にこの学園に来られたのね。」
この子をいじめて破滅的な未来が待つという展開にはまるでならなそうだ。
一安心した私にチハーヤちゃんが嬉しそうに話しかけてきた。
「いえいえ、セリア様をお迎えに参ったのです♪」
頬を赤く染めながらのチハーヤちゃんの言葉に私の頭の中にいくつもの疑問が湧いてくる。
「…『迎えに』の意味がよくわからないんだけど…。」
「ええ、ですから次期国主たる『チハーヤ姫の婿として』セリア様を我々はお迎えしに参上したのです。」
ニコニコしながら答える自来也さんに私は固まった。
「…いえ、私、確かに『シュテンドウジ』を素手で瞬殺しちゃったりしましたけど、一応女ですので、丁重にお断りを…。」
「大丈夫です。わが国ではそういう例はいくつもあります。それに現国主ご自身が『大歓迎』しております。武術が強いという以上に、人としての思いやり、勇気、判断力ともにあのお年(一四歳の時)では考えられないくらいの『世界的な逸材』だと太鼓判を押しておられます。跡継ぎに関しては適切な時期に『養子をもらえばいい』のです。
行政にかかわるものも、軍事に関わるものも反対の声がなかったくらい、セリア様のご評判はいいのです。どうか、よろしくお願いします!!」
自来也さんが正座して頭を下げた。ニッポン伝統の「ドゲサ」という非常に丁寧なお辞儀だ。
悪役令嬢どうこうよりもずっと「とんでもないピンチ」がやってきてるんですが?!!
どうする、セリア!別に権力に興味があるわけではないが、自分が男だったらチハーヤちゃんの愛くるしさもあいまって『ここで受けなきゃ男がすたる!』くらいのものだが、あいにく私は女で、「そっちの趣味」はないのだ。
ないのだが…チハーヤちゃん無駄にかわいすぎるので、その点だけでも心が揺らぐのが我ながら情けない。
ふーっと、深呼吸して私は口を開いた。
「そこまでおっしゃっていただいて、本当に光栄です。でも、私には婚約者がいるのです。この国の第一王子のミツール様です。」
ちょっと、いやかなり勿体ないような気はしたものの、今の状態でチハーヤ姫の『求婚』を受けるわけにもいくまい。
「なんですって?!」
チハーヤ姫はすごい衝撃を受けたようだ。申し訳ないがこれであきらめてくれれば…。
「でも、私負けません!!相手がこの国の第一王子様でも絶対にセリア様を思う気持ちは負けませんから!!」
…全然あきらめてくれませんでした。そして、私をつぶらな瞳ですがるように見つめて…。やめて!そんなかわいすぎる視線で見るのはやめて!
「ご婚約の件ですが、実は重大情報が入っているのですが…。」
自来也さんがにやっと笑う。
なに、どういうこと?!この婚約に特におかしい点はないはずだけど…。
「セリア様はミツール王子を『友人としては』大切に扱っておられるようですが、肝心の恋愛感情が乏しいのではないかという情報を得ているのです。」
待てい!そんな重大情報をどこから得た!私がそんな話をするのは…。
「ええ、アルテア先生からお話を聞きました。」
…ねえ、アルテア先生!馬鹿なの!?そんな国を揺るがしかねない情報を悪人ではないとはいえ、他人に漏らすなよ!!
「あらあ、話したらまずかったかしら…。」
「いえいえ、まずいに決まってるでしょ!!……いつの間に入ってきたの?」
元宮廷魔術師で、現在は「ライトウィンド魔法学校」の教師にして『世界を股にかけた』モンスターバスターチームのリーダ……もとい、『超一流の魔術師』のアルテアさんはなんかいろいろすごい人だ。
超天然でウルトラクラスのお人よしなので、安心して友達付き合いができるのだが、今回の情報漏えいはさすがにいただけない。
「普通なら、絶対に話さないんだけど、『他ならぬ』チハーヤちゃんが恋愛に悩んでいるようだったので、ついつい…。」
ついついばらさないで!!
「ええ、本当ですか?!アルテアさん、ありがとう!!」
チハーヤちゃんが嬉しそうにアルテアさんに抱き付く。
「ええ、チハーヤちゃんを応援してるから♪」
待てい!あなたの立場でそれでいいのか?!元宮廷魔術師がそれでいいのか?!
「あら、この子は?」
アルテアさんが気絶しているトラミちゃんにようやく気付いて、抱き上げた。
「有機物質八割、ケイ素物質二割の人造人間なのね。どうしてこんなところにいるのかしら。これくらいの出来なら人間との間に子供もできると思うな。」
待て、ちょっと待て、トラミちゃんが人造人間だ!?こんな精巧な人造人間が現存しているとはびっくりである。
「実は…。」
私がトラミちゃんのことを説明しようとすると、トラミちゃんの服から一冊の本がずり落ちてきた。『例の未来予言の書』だ!!
「これは何かしら。」
私が止める間もなく、アルテアさんがパラパラとめくりだし、チハーヤちゃんと自来也さんもそれを覗きこむ。
「「「これ、どういうこと?!」」」
仕方なく三人に事情を話すことになった。
「待ってください!!この本おかしいです!!」
チハーヤちゃんがぷりぷりしている。
「セリアさんは私のお婿さんになるんです!!」
相変わらずチハーヤちゃんの決意は固いようだ。
「…待ってください。これはチハーヤ様にとって『好都合』かもしれません。」
自来也さんが真剣な顔で怪しいことを言い始める。
「え、どういうこと?」
チハーヤちゃんが首をかしげると、自来也さんが得意そうに語りだす。
「つまり、『建前上事件が起こって』ミツール王子が婚約破棄、セリア様が国外追放という形になれば、『後顧の憂いなく』セリア様は我が国にお越し頂けるという寸法です。」
「「なるほど!!」」
いえ、それはいろんな意味でヤバすぎるから!!というか、なんでアルテアさんまで、そこでうなずいているわけ!!
「えーとね、ここでさらに重大情報があります。実は私、ミツール王子から数日前に『告白』されちゃいました。
セリアちゃんがミツール王子のどう思っているかを知っているとはいえ、どうしたものかと思いましたが、あまりに王子が真剣なので、ついつい『事情を話して』しまいました。」
……えっと……こういうケースではどう対応すればいいのでしょうか……?
王妃の座には全然魅かれないのですが…。そして…確かにミツール王子は年上の方が好みのようで、しかも「おっぱい星人」の気があることにうすうす気づいてましたが……ミツール王子!!でかければいいと言うものではないぞ!!まあ、アルテアさんくらい「極大サイズ」だと、魅かれるのはわからないでもないのだが…。
「なんだ、それでは『ミツール王子にとっても都合がいい』わけですね。」
「わーい!それでは、全然障害がないんですね♪セリアお姉さま、うれしいです♪」
どうやら自分に『生涯最大の危機』が迫っていることはわかった。
私はどうやって『悪役令嬢としての試練』を乗り切ったらいいのだろうか…。
<続く?>




