27 動き出す計画 その2
(…つ、疲れた…)
いろいろなコスチュームに着替えさせられて、麗華はくたくたになっていた。
授業中と違い、一番危険な二人、瀬利亜とアルテアと一緒に顔を突き合わせていることでものすごく神経が消耗させられる。
「よし、バネちゃんはこっちのインド風の方が似合うわね♪」
瀬利亜が着ていたインドの踊子風のドレスを着せられてバネッサが口をパクパクさせていた。
「さっきのより、さらに過激になってるし!!こんなあちこち出すのははずかしいから!」
「バネちゃんはスレンダーでカッコいいんだから、これくらいの方が映えるから♪
……この衣装で『告白』したら、相手のハートをゲットできるわよ♪」
後半部分は音量を落として、バネッサの耳元でささやいた。
「……‘%#$%!!!」
バネッサは顔を真っ赤にしながら言葉にならない叫びを発している。
その時、瀬利亜の懐から「オルゴール音のトトロの主題歌『さんぽ』」が流れ始めた。
「はい、瀬利亜です。……了解。すぐ、駆けつけます。
ごめん、用事が出来たから、私は先に帰るね。二人とも、また♪」
瀬利亜はスマートフォンをしまうとバネッサと麗華に手を振り、部屋から出て行った。
麗華と二人、部屋に残されたバネッサは麗華に話しかけた。
「その、アオザイ(ベトナムの衣装)似あってるよ。」
はにかみながら笑顔でいうバネッサに麗華はわけがわからなくなった。
「いやいや!あなた、敵に対して、なにのんきに話しかけてるわけ?!緊張感がかけらも感じられないし!」
「…え?でも、戦ったり、生徒を襲ったりする気はこれっぽっちもないでしょ?今は同級生で、それに文化祭を一緒にやる仲間なわけだし。」
麗華はしばし、バネッサを見た後、口を開いた。
「…あきれたお人よしだわね…。まあ、教室や学校で騒動を起こしたり、生徒や先生を傷つけたりするつもりはこれっぽっちもないから安心して。」
「それ、本当か?いやあ、瀬利亜さんから『大丈夫だから心配するな』とか言われていても、そうやって言ってもらえたらもっと安心できるや。」
不器用に笑うバネッサを見て、麗華は眉をしかめる。
「だから、なんで、敵をそんなにやすやすと信用するわけ?」
バネッサの反応に妙にイライラして、麗華は思わず叫んだ。
「自分の居場所がしっかりとできてみると、必要以上に心配したり、カリカリしなくなってね。その上、いざ戦いになると、より冷静に的確に動けるようになったみたいなんだ。」
「…自分の居場所…」
「私は親からも村のみんなからも『半端者扱い』されてきてね、ここに来るまではどこにも私が安心していられる場所がなかったからさ。ここだと訓練自体は今までで一番ハードだけれど、『私がだれであっても、何であっても』個人バネッサとして受け入れてもらっている感じがして、すごく安心できるんだ。」
バネッサが瀬利亜たちのことを思い浮かべて穏やかそうに笑うのを見て、麗華は心がざわつくのを感じた。
(…私の居場所は?…確かあったはずの場所が急になくなって…思い出せない…)
「麗華さん、大丈夫??」
急に顔色を変えた麗華にバネッサが慌てて駆け寄った。
「じゃーーん!!また新しい衣装が出来ましたよん♪ あら、麗華さんどうなさったの?」
衣装を抱えて入ってきたアルテアが二人の様子に気づいて声を掛けた。
「…大丈夫、大丈夫だから。心配いらないから」
なんとか我に返って麗華が立ち上がった。
「本当に大丈夫?困ったことがあったらいつでも先生が相談に乗るよ。
必要ならセラピーもできちゃうよ?」
「アルテアさん、セラピーって?」
バネッサが興味をひかれて口を開いた。
「過去の心の傷を振り返って、自分でそのことをしっかりと受け止めると心の状態が大きく改善するの。必要なら『過去世』までさかのぼることもできるよ?」
にっこり笑ってアルテアが説明する。
「待て、どうして敵である私にそんなに親切にするんだ!」
「敵?敵じゃないよ♪麗華ちゃんも、バネちゃんも、瀬利亜ちゃんも、もっと言えば『地球に住ませてもらっている生き物たち』はみんな仲間だわ♪」
澄ました笑顔でアルテアは断言する。
麗華もバネッサも想像の斜め上を行く答えにしばし唖然としてアルテアを見つめた。
「…この前テレビで唄っていたけど『みみずだって、おけらだって、アメンボだって♪
みんなみんな生きているんだ』とか言う歌みたいな考え方?」
バネッサの言葉に、一瞬きょとんとした後、アルテアはくすくす笑い出した。
「バネちゃんは素朴で素直でかわいいわね。これはね、頭で考えることじゃないの。『落ち着いて冷静に感じていると』地球に住む生き物はみんな仲間だと『感じられるようになる』はずよ。
瀬利亜ちゃんは無意識に感じているからあれだけみんなに優しいんだけどね♪」
「何を宗教みたいなことを言ってるんだ!!」
「宗教?…ふふふふ♪代々真理の探究者をしている大魔女を甘く見てはいけませんよ♪
そんな不確かなものと一緒にされるのはちょっと残念だな。
麗華さん。悩みがあったらあなたの大切な上司の方にきちんと相談なさい。
きっと適切な対応をしてくれるわ。」
優しくそして何もかも見透かしたようなアルテアの目で見られて、麗華はなんと返していいかわからなくなり、居心地がものすごく悪くなった。
「…それじゃあ、今日は帰るから!」
ぶっきらぼうに言い捨てて麗華が帰ろうとすると、アルテアが声を掛けた。
「あら、アオザイのまま帰るの?かわいいけど、すごく目立つわよ?」
「……も、もちろん、着替えてから帰ります!!」
顔を真っ赤にして麗華が叫んだ。
「…アルテアさん、麗華さんは本当にただの高校生にしか見えないんだけど、黄金マントのやつ、なんで彼女を学校に来させているんだろう?」
「……そうね……。私の推測が正しければ、麗華ちゃんに居場所を作ってあげたかったんじゃないかしら。」
「……それ、なんのために?わざわざ敵のど真ん中で?」
「……『私たちなら麗華ちゃんに絶対危害を加えない』とわかっているからこそ、居場所ができると踏んだ。そんな気がするのよね。
…それから、バネちゃん、麗華ちゃんが『ただの高校生』というのは案外真実に近いかもしれないわね…」
(おかしい!あいつらみんなおかしいから!!)
カリカリしながら、麗華は帰宅の途に就いていた。そして、カリカリする大きな理由が瀬利亜たちにあるのではなく、『自分の本来いた場所』のようなところに瀬利亜たちがいて、自分の居場所がないからではないかと言う感じがしだした。
(私の本来いた場所??)
レディマントとして自分が動き出す前に自分が何をしていたか全く記憶がないことを改めて感じ、麗華は愕然となった。
(どういうこと?!私にどうして記憶がないの?どうして、私の名前は麗華なの??)
全身から血の気が引いて、立ち尽くした麗華の後ろで、急に車が止まる音が聞こえた。
「麗華、もしかして、麗華なのか?!」
麗華が振り返ると、BMWに乗った五〇くらいの身なりのしっかりした男性が、運転席から顔を出!していた。身だしなみのしっかりしたその男性は心労で焦燥しきった顔をしていた。
「人違いです!」
背筋に寒いものが走るのを感じると、麗華は自動車の入れない、細道に駆け込んでいった。
「待ってくれ、麗華!私が悪かった!」
男性は慌てて車から降りて追っかけようとしたが、疲れのせいで足をもつれさせて転んでしまった。
「待ってくれ、頼むから待ってくれ!」
なんとか、立ち上がろうとした男性に長身の女生徒が手を差し出した。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「ありがとう、それより、娘を見失ってしまいそうなんだ!」
「この学校の女生徒さんなんですか?」
「…いや、この学校のではないな…はは、申し訳ない。人違いのようです。」
ふらふらっと男は立ち上がると、肩を落とした。
「家出した娘が学校に通うはずもないか…。御嬢さん、手を差し伸べてくれてありがとう。
もう一度ゼロから探さないと…」
「家出された娘さんとよく似たこの学校の女生徒さんを目撃されたのですね。」
「ええ、私の娘、麗華にそっくりだったもので。声までそっくりに聞こえたので、慌てて追いかけようとしたのですが、残念ながら人違いだったのですね。」
「娘さんは『麗華さん』とおっしゃるのですね」
男の話を聞きながら『瀬利亜』の目がきらっと光った。
「最近はただの家出では警察は動かないと言いますよね。もし、よろしかったら娘さんを探すお手伝いをさせていただけますか?実は…」
瀬利亜はモンスターバスターの身分証明証を出しながら『麗華の父』と話を始めた。
大河内麗華は名家の血を引く家に生まれた。伝統ある企業の社長の父と華族の血を引く母は仲は悪くなかったが、麗華が小さいころに母は病気で亡くなり、父と、家政婦さん達に育てられた麗華は意地悪ではないものの少々わがままに育った。
そして、麗華には誰にも言えない秘密があった。母の家系は巫女の血筋でもあったらしく、麗華は見えないものが見えたり、念動力などを操ることが出来た。
くそまじめで仕事一本の父はモンスターバスターの存在は知ってはいたものの、自分に理解できない「超能力や霊的なもの」を忌み嫌っていた。
だから、「あの日」までは父親にも友人達にも「能力のこと」はひた隠しにしていた。
その日お嬢様学校に通う級友と父親と三人でドライブに出かけた。
高原で三人で休憩しているとき、巨大な蜘蛛のモンスターが襲い掛かってきた。
麗華はとっさに力を使い、巨大蜘蛛を粉々に粉砕した。大切な家族と友人を間違っても怪我をさせるわけにはいかなかったからだ。
誰にも危害が及ばずに安心した麗華はしかし、とんでもないものを見聞きした。
震え上がる二人は麗華を見て叫んだのだ。
「「化け物!!」」と。
麗華は逃げた。走って逃げた。自分の居場所は家にも学校も『この世のどこにも』なくなってしまったのだ。
走った。とにかく走った。走って、走って、力尽きて倒れ込んだとき、一本の手が差し伸べられた。
「どうした、御嬢さん。大丈夫かい」
背の高い優しそう男が心配そうにのぞきこんでいた。
「麗華、大丈夫かい?転ぶなんて、なにかあったのかい?」
基地に着く直前に倒れた麗華に一本の手が差し伸べられた。
(…以前にも確かこんなことが?)
「黄金マント様……私がレディマントになる前は何をしていたのでしょうか?」
「思い出したくなったのかい?忘れたいと言ったから忘れさせてあげたのだが。」
黄金マントの麗華を見る目はあくまでも優しかった。
(…忘れさせてくれた?…)
麗華の中で、先ほど自分の名前を呼んだ男のことがちらと浮かんで身震いした。
「いえ、私はレディマントです。過去のことはともかく、現在はスーパーモンスターズの幹部の一人です。」
「そうかい、思い出したくないならそれでかまわないさ。でも、もし、思い出したくなったらいつでも言いなさい。」
「はい。そんなことはないとは思いますが。」
麗華は黄金マントをまっすぐに見つめながら言った。
「おはようございます。……はーーー?!」
翌朝、教室に入った麗華は驚愕に目を見開いた。
瀬利亜がハワイの踊子の服装で、リンボーダンスを始めていた。
「瀬利亜はん、さすがすぎや!!」
「まあ、よく似合って素敵だわ♪」
本来なら止めるべきはずの教師たちは完全に煽る側に回っていた。
「あら、麗華さんもやってみる?」
「やらんわ!!」
瀬利亜の誘いを麗華は全力で拒否した。
「えーー!! 八二 五六 八三 のナイスバディをこの際、生かさないと♪」
「ばらすんじゃない!!て、なんで知ってるの?!」
「瀬利亜イアーは地獄耳、瀬利亜アイなら透視力♪ …ということで♪」
「何の話をしているの!!」
幸か不幸か?麗華の居場所は何とかできたようだ。




