22 勇者と偽勇者 その2
「バネちゃん、勇者の剣と鎧を使ったら?」
セコンドに着いた瀬利亜が既に三度目になるセリフを言う。
「いや、勇者の装備で勝ったなんて言われたくない。旅立ってからの一年と、瀬利亜と千早につけてもらった稽古のおかげで、腕前は全然違うはずだ。別れた時のアルオンなら楽勝のはずだし、今ならかなりいい勝負になるはずだ!」
何度言っても首を縦に振らないバネッサにさすがに瀬利亜も口を閉じた。
(そこがバネちゃんのいいところなんだけどね…。単純な実力ならバネちゃんの方がかなり上だと感じるんだけど、あのアルオンの装備…なんか微妙なものを感じるのよね。
「策士の空気を漂わせる」あの男が「勇者の剣と鎧を使って構わない」なんて言うのは裏があると見た方がよさそうだし…。)
「アルオン、バネッサに勇者の剣と鎧を使っていいと言ったけど、大丈夫なのか?」
「サイス、バネッサをよく見て見ろ。使っていいと言ったから逆にプライドにかけて使わないと踏んだのだよ。それにいざとなったらあのドクターフランケンというやつに借りた装備を使えば、負けやしないさ。」
セコンドに着いた魔剣士サイスはしかし、不安を隠せなかった。
「そのドクターフランケンとかいうやつが怪しいんだが…。こいつらのこともやけに詳しいようだったし。」
「大丈夫だ。ターコイズに魔法鑑定してもらったら、インチキではない強力な魔法の武具だと保障してくれたじゃないか。」
(確かにターコイズは魔法の腕も魔法鑑定の腕も充分信頼できるのだが…)
サイスは心の内でつぶやいた。
「あのドクターフランケンは我々を利用しようとしているんだぞ?」
「それもわかっている。ただ、うまく立ち回って、勇者の剣と鎧を手に入れればいいだけだ。その後はこいつらにはもう用はないわけだし。」
(こういう話はくそまじめなターコイズとお人よしの僧侶・エミーナには言えないな)
サイスは一人ごちた。
「さあ、勇者殿のお手並み拝見と行こうじゃないか」
斎藤が合図をすると、両者はコーナーから一斉に飛び出した。
「せりゃせりゃせりゃ――!!」
バネッサが猛然とラッシュをかけて、次々に剣戟を打ち込んでいく。
(いける、この調子なら十分勝てる!)
いつも動きをとらえるのすら苦労する千早と毎日のように剣の稽古をつけているおかげで、バネッサはアルオンを動きで圧倒していた。
(だが油断するな、バネッサ。アルオンはトリッキーな戦術や魔法による攪乱が得意だ。
最後まで冷静に動きながら油断するなよ。)
怒号のごとく強烈な剣戟を受け続けてアルオンは息が上がりかけていた。
(くそっ!バネッサの奴め、勇者の剣を使わなくてもまさかここまで強くなっているいるとは!?止むをえん、奥の手を使うぞ!)
アルオンは左手に持った盾の裏側にある、スイッチを押した。
「バーサーカーモード、スイッチオン!チェンジ、バーサーカー!」
機械的な音声がすると同時に、アルオンの鎧が赤く光り始め、そのまま膨張を始めた。
アルオンは鎧ごと膨れ上がりながらも、バネッサの剣戟を的確に受け止め始めて、ついには馬鹿力で圧倒しそうになりだした。
「なんだこりゃ!!」
力で圧倒され出してバネッサは慌てて距離を取って、冷静にアルオンの様子を伺った。
(こんな魔法、聞いたことがない!一体どうやって、こんな芸当を?!)
「バネちゃん、勇者の剣を使って!!」
「わかった!瀬利亜、たのむ!」
バネッサは素早く瀬利亜の元に駆け戻ると、勇者の剣を受け取り、追ってきたアルオンに振り向きざま、斬りかかった。
ガキーーン!!
勇者の剣が青白く光り、大きな力を得ている。どうやらアルオンの使っているのは「勇者の剣の力が増す、闇の系統の力」らしい。
アルオンは2メートルを遥かに超す大きさになっており、半分怪物のような空気を漂わせ始めていた。
(闇の邪法まで使って勝とうとするとは、見損なったぞ、アルオン!!)
冷静にアルオンの動きを見極めながら、バネッサはアルオンの攻撃をかわしつつ、横なぎに剣を切りつけた。
「見たが!勇者剣、閃光斬!!」
「瀬利亜!適当に名前をつけないでくれ!!」
バーサーカー・アルオンは斬られた後、ふらふらっと二~三歩歩いた後、バタンと倒れ伏した。
「むむっ、あの、アルオンとかいう男はあっさり負けたようだ。仕方ない。変身せよ!
巨大バーサーカー!!」
タブレットを見ていたドクターフランケンは掛け声とともに素早く操作をし始めた。
バチバチバチバチ!!!
倒れていたバーサーカー・アルオンは急に黒光りを始めると、再びのそりと立ち上がった。そして、凄まじい速度で巨大化し始めた。
あっという間にバーサーカー・アルオンは元の10倍くらいの大きさになり、地下闘技場の天井までの半分くらいの高さになっていた。
「なんじゃこりゃーー!!」
バネッサはあまりの事態にあわてて飛びすさった。
アルオン一行も想像を絶する状態に恐慌状態になってしまっている。
「バネちゃん!勇者の鎧を纏って!」
「それをのんびり着ている余裕はないよ!瀬利亜!」
「大丈夫!こんなこともあろうかと、ひそかにアルさんに改造してもらっていたから♪」
「言ってる意味がわかんないから!」
「勇者の鎧、ハイパー勇者モードへ!装着お願いします!」
瀬利亜が叫ぶと勇者の鎧は空中を滑るようにバネッサに向かって飛んで行って、そのままバネッサの体にまとわりついた。
「では、アルさん。強化パーツをお願いします。」
いつの間にか駆けつけていたアルテアが懐からいくつもの人形を取り出すと、形を変えながら、バネッサに合体していった。
「ハイパー勇者、バネッサ見参!!! 今回は私が言ったけど、次回からはバネちゃんがちゃんと叫んでね♪」
「…さ…叫ぶのか…ところで、どうやって戦えばいいんだ?」
「適当に戦ってもらえれば、ここぞという時に私が『必殺技の名前』を叫ぶから。そうしたら、必ず勝てます。私の『正義の直観』がそう叫んでいるわ!!」
「………了解……しました…。」
こうなったら行くとこまで行くしかないと肚をくくり、バネッサは剣を抜いて斬りこんでいった。
「行くわよ!勇者剣!!」
「てりゃ―――!!」
勇者の剣が強烈な光を放ち、バネッサがまさしくマッハの速度で突っ込んでいく。
「勇者剣、閃光雷鳴斬!!!」
巨大バーサーカーアルオンを縦に真っ二つにすると、アルオンは爆発・四散した。
「いやいや、爆発したらまずいでしょ!!」
慌ててバネッサが駆け寄ろうとすると、瀬利亜がひょこり後ろから顔を出した。
「生体反応を見ると、何とか無事なようね。まったく、人類には足を踏み入れてはいけない領域があるのね。」
(いや、こっちのやっていることも大差ないように見えるんですけど…)
脱力したバネッサは会場の惨状を呆然と眺めていた。
ボロボロになっていたアルオンを引き取ってもらい、バネッサ達に平穏な日常が戻ってきた。アルオン一行はアルオンの非常識な行動が原因でパーティーが解散したのは言うまでもなかった。
「バネちゃん、今日はお疲れ様でした。これで、ハイパー勇者計画の第一弾は成功しました。」
にこにこしながらの瀬利亜のセリフにバネッサは強い引っ掛かりを覚えた。
「ハイパー勇者計画の『第一弾』って??」
「ふっふっふ、さすがバネちゃん、よくぞ見破りました。今の段階で、大怪獣ゴメラになんとか立ち向かえます。そして、第二弾で『巨大化パーツ』を身につけられます。
これで、どんな巨大怪獣が出てきても大丈夫!!ばっさばっさと切り捨てていけるわ。そのまま地球防衛軍にも入隊できるから♪」
「バネッサさん、すごいですね!!」
「バネちゃん、大したもんや、一躍脚光を浴びれるで♪」
「バネさんスゴイですう♪」
「……バネッサ、勇者就任おめでとう …」
清正以外は心からバネッサの活躍を喜んでいる状況で、バネッサは「自分の退路が断たれている」ことを痛感した。




