2 護国刀 神那岐 その1
「また、A級モンスターバスターがやられたわけ?」
スマホで「デニム伯爵撃破の件」を本部に報告しながら瀬利亜は眉をしかめた。
「戦力補充のために私たちにその子を迎えに行けということね。」
スマホをしまうと、瀬利亜はそそくさと車に乗り込んだ。
さまざまな怪異・怪物の脅威から人々を守るため、世界を股にかけた「モンスターバスターズ」チームが結成され、人知れず(?)世界の治安を守っていた。
モンスターバスター達は「とりあえず能力のある」C級。
「一芸に秀でた」B級。
「一人で様々な事件に対応できる」A級の3つに分けられ、単独・あるいはチームで「警察や軍隊の手に余る」様々な「怪奇事件」を解決していく。
「迷子になった妖精探し」から「ホラーハウスの怪」「海の大怪獣ゴメラ退治」など、モンスターバスター達に解決できない事件などないと世間では思われていた。
だが、ここ数週間、日本においてA級バスターが敗北し、重傷を負うケースが異常に増えていた。
最終的には何とか事件は全て解決しているものの、今までとはモンスターの強さが桁違いという事件があまりにも多いのだ。
「それで、強いモンスターたちがグループを作って、組織的に対モンスターバスターの動きを見せているのではないかということなのですね。」
リムジンを運転しながら、執事の「久能 巧」は瀬利亜の話にうなずいた。
「そう。それに対抗するために本来の予定より早く『護国刀神那岐の太刀』の継承者をモンスターバスターとして迎え入れるという話なの。」
「その子をお嬢様と共同生活してもらいながら、鍛えていくわけですね。」
「千早さんは神那岐神社の巫女でもあるし、モンスターバスターの司令塔の一人、千里眼の巫女・水音さんの娘さんだから、才能・人柄ともに素晴らしいと聞いているわ」
黒いリムジンは某県の山奥に向かって音もなく疾走していた…。
「千早。急な話だが、モンスターバスターとしての修業に入ってもらうために、先輩バスターと一緒に共同生活をしてもらうことになった。」
千早が朝の行を終えて帰宅すると、出迎えた父親が宣言した。
「今日の夕方には先方が迎えに来て下さるそうだ。」
「わかりました。荷物をまとめておきます。」
「世界の雛形」たる日本を怨霊・祟り神などから守る「護国刀 神那岐の太刀」を九歳で父から継承した千早は刀の潜在能力をさらに引き出すべく、日々訓練に励んでいる。
継承者になるまでは神社の宮司にして先代である父から訓練をうけていたが、父より遥かに強くなってしまった現在では、神社内の「聖域」でもっぱら過去に現れた怪魔との実戦形式の「イメージトレーニング」を行っている。
イメージトレーニングと言っても聖域内では攻撃が当たれば、「実際にダメージを受ける」ため、命がけのトレーニングであるが、ここ一~二年はほとんど傷一つ追わずに過ごしていた。
「寂しくなったらいつでも戻ってきていいんだぞ」
手早く荷物をまとめている千早に泰蔵が優しく声を掛けた。
「大丈夫です。これくらいでくじけるようでは神那岐の太刀の『継承者』は務まりませんから。」
「お前もまだ、一四なのだから、無理な時はちゃんと無理と言うんだぞ」
「わかりました。父様こそ、お酒ばかり飲まずにバランスのとれた食事を取って下さい。」
図星を付かれた泰蔵は赤くなってもごもご口ごもった。
家事全般をしていた千早がいなくなることで、グータラ系の父・泰蔵がどう過ごすかの方が千早にとってはずっと心配の種であった。
「今回の件で協会から補助金が出るそうだから、それで家政婦さんでも雇うよ」
頭をかきかき言う泰蔵の言葉に千早は安心した笑みをこぼした。
再び神社の「聖域」に入ると、千早は自分の身長と同じくらい長い太刀を手に取り、「封印!」と叫んだ。
空間から現れた白い布が見る見る鞘ごと太刀を覆っていき、千早はそのまま太刀を持っていたひもで背中に括りつけた。
太刀を背負ったまま境内を出た千早は素早く右に向き直ると、柄を持って居合に身構えた。
「驚いたな。いつから気づいていた?」
「私がこの太刀を継承した5年前から。あなたはその時からずっとこの刀のことを窺ってたでしょ。」
十数メートル前方に「空間を割いて」現れた巨大な牛頭の怪物を冷ややかに見つめながら千早は言い放った。
「さすが、『歴代最強』の継承者と言ったところか。そんな物騒なものを持って、うろうろされてはたまったものではないな。
わしの名は蚩尤尤、何代か前の「継承者」に酷くやられたことがあってね、まだ、雛のうちに潰してしまわねば、オチオチ昼寝もできやしない」
蚩尤は六本の腕に握りしめた蛮刀を身構え、今にも斬りつけんと動こうとしたその時根源的な恐怖を感じ、後方に飛び退った。
ガランガラン!!
音を立てて斬られた蛮刀が三本転がり落ちるのを見て、蚩尤は自分の失敗を悟った。
目の前の少女は自分が相手をしたときの「継承者」とはレベルが全然違う「怪物」だったのだ。
「逃がしません!!」
妖魔・邪神など「闇の眷属」を相手にする際に何倍もの力を発揮する神那岐の太刀は
刀身を伸ばしながら、蚩尤を横に一閃した。
パチパチパチパチ!!
蚩尤が崩れ去ると同時に自分の後ろから聞こえた拍手に千早はぎょっとして振り返った。
「素晴らしい!さすがは神那岐の太刀の『継承者』だわ。」
千早より年上の銀色の髪の女性が満面の笑みを浮かべて千早を見つめていた。
「申し遅れたわね。私は石川瀬利亜。あなたの仲間だわ」
(きれいな人…)
『バレンタインのチョコを二〇〇個、この笑顔でゲットした』と腐れ縁の親友に評される華やかな笑顔に千早はしばらく見とれていた。
「しばらく一緒に過ごさせていただく相手が、こんな素敵な相手でよかったわ」
長身の母よりさらに背の高い、「華やかな美女」の差し出した右手をつかんでいいものかどうか、千早はしばらくどぎまぎしていた。
「そんなに身構えなくても大丈夫だから。
先輩・後輩の前にまずは友達になりましょう♪」
「は、はい!!」
瀬利亜につられるように笑顔になった千早は瀬利亜の右手を両手で握りしめると思わずぶんぶん振り回しそうになった。