15 決戦 五重の塔 その1
「あのう、もしもし?」
「お館さま、どうなさいました。」
「こっちの清正くんはわかるのだが、こちらの御嬢さんは?」
五重の塔の最上階で二人の忍者がロープです巻き状態になった、清正と遥を降ろすと、床几に腰かけていた大柄な忍者が顔をしかめた。
「は、確かに本来はこちらの『安倍清正』という少年を連れてくるように伺っていました。しかし、あの教室にいた『力に目覚めている』メンバーの中でも下から数えた方が早いくらい、魔力とか、霊力とか言えるものに欠けていたのです。
で、念のためにあの教室にいた中で、一番魔力・霊力とも高かったこの御嬢さんを連れて帰ったわけなのです。」
「マジカル忍者よ。お前さんのセンサーが正確なのは知っている。でも、『魔王の血族』を我々の仲間に引き込むのが今回の任務だ。そこでだ。」
言いながら、お館さまと呼ばれた忍者は清正と遥の猿轡を外した。
「わたしたちをどうなさるおつもりです!!」
忍者の棟梁をキッと睨みつけながら遥は気丈に言った。
「御嬢さん、つかぬ事を伺うが、『魔王の血』についてご存じかな?」
「いったい何のことですか!?」
相変わらず遥は棟梁忍者を睨んでいる。
「この御嬢さんは魔王とは無関係のようだ。」
棟梁忍者はため息をついた。
「し、しかし、この清正という少年からは『魔王の力』がカケラほども感じられませんが…。」
マジカル忍者が口をはさむ。
「しかしね。先日別の『魔王』がわざわざ彼を目当てに強引に異世界へ拉致ったんだよ。
ほら、これ証拠の写真ね。」
棟梁忍者が懐から何枚かの写真を取り出す。
「ですが、この『自称魔王』はシードラゴンマスクとその仲間たちに簡単に蹴散らされてますよね。そんな連中の判断があてになるのでしょうか?」
写真を見ながらマジカル忍者が渋い顔をする。
「そうだね、しかもシードラゴンマスクとこのミラクルファイターとかいうおっさんはこちらの間者が写真を取っているのに気付いていて、この写真とこの写真は明らかにカメラ目線の上に、Vサインまでしてるからねえ」
(この忍者たちは瀬利亜さんの敵!!)
ああだ、こうだと討論している忍者たちを見ながら遥はどうやったら、少しでも瀬利亜たちの負担にならないようにできるかと思考を巡らせ始めた。
「そもそも、あなたたちはいったい何者なのです!?」
再び遥は強い視線で棟梁忍者を睨みつけた。
毅然とした姿勢を崩さない遥を見て、棟梁忍者は感心した視線を向けた。
「これは、失礼いたしました。
我々は秘密結社『スーパーモンスターズ』の構成メンバーで『闇の忍者軍団』です。
私は忍者軍団の棟梁で、こちらの二人は『忍者五芒星』の『マジカル忍者』と『サムライ忍者』です。
結社の目的は人間たちに虐げられてきた我々『モンスターたち、異形の者たち』がまともに暮らせる楽園を作り上げることなのですよ。
そのためには今ある人間たちの腐った社会を粉砕せねばなりません。
そこの『一応魔王の血を引くという』清正君は我々の気持ちがわかるのではないですか?」
(いや、俺…数日前まで自分も家族も普通の人間だと思ってたんだけど…。)
いきなり振られて何と答えていいかわからず、清正は戸惑っていたが、遥はさらに口を開いた。
「待ってください!うちのクラスは四人に一人くらいは人間でなかったり、人外の力を持っていたりします。でも、周りの人達に優しくしてもらいながら平和に暮らしています。」
「それは『普通の人間に偽装』しているからではないのですか?『本当の姿や能力』を出した途端に人間たちは何もしていないわれわれに牙をむいて来たのですよ。」
「そ…それは…」
棟梁忍者の少し悲しそうな声音の混じった言葉に遥は口をつぐまざるを得なかった。
その時、扉が開いて二人の男が広間に入ってきた。
「我らに至急の用とは何事だ?」
白いローブをまとった黄金マントとドクターフランケンがいぶかしげに清正と遥を見つめた。
「この少年はシードラゴンマスクと一緒にいたことのある『一般人』ではないか。なぜ、こんなところにいるのだ?」
黄金マントがさらに首をかしげる。
「この少年は一応魔王の血を引くというのだが、能力がかけらも感じられなくてね。
あんたたちの力で潜在能力を引き出してもらってあわよくば味方にと考えたのだが…」
棟梁忍者の言葉に黄金マントとドクターフランケンはしばし、清正を見ていたが…。
「棟梁忍者、無理だ。能力面もだが、精神面もこの少年は『ただの一般人』だ。もう少し能力の片鱗があれば、この『ポテンシャルのマント』を使って引き出すこともできようが…現時点では見込みがありそうにない。そちらの御嬢さんならまだ行けそうだがね。」
「わしの『補助・強化機械群』はすでに能力が開花している者の能力を底上げするのに使うのだ。もともと能力が一般人では意味がないぞ」
黄金マントとドクターフランケンは遥をちらと見た後、踵を返した。
去っていく二人を見送りながら棟梁忍者はつぶやいた。
「この二人、帰そうか?」
「そうですね…」
(これは…喜んでいいんだろうか…それとも…)
別にすごい能力に目覚めたいわけではなかったとはいえ、「あまりの扱いのひどさ」に清正は自分の存在価値が非常に大きく揺らぐのを感じていた。
「大変です!!この二人を取り返しにシードラゴンマスクたちが近くまで来てます!!」
下の階から忍者が一人駆け上がってきた。
「なんだって!!そんなに早く突き止めるとはさすがだな!」
「この手紙に『ゴーグルマップ』を付けて渡したのは失敗だったでしょうか?」
マジカル忍者が頭をかいた。
「えー、マジカルくん、よく考えてみて。魔王の血を引いておきながら能力が一般人並のままだったということは『彼らも能力開花法を知らない』と推理できるよね。」
「さすがです!棟梁。 それで、どういたしましょう。」
「現状はどうなっている。マジカル忍者」
「はい、シードラゴンマスクと、神那岐千早、電脳マジシャン、異世界の勇者とA級モンスターバスターで陰陽師の安倍正明が五重の塔の前にたどり着きました。」
「ほお、そうそうたるメンバーが来ているではないか!」
遥たちに話しかけていた時のひょうひょうとした話し方は完全に影をひそめ、忍者軍団の総帥たる覇気溢れる声色に代わった。
「ほお、シードラゴンマスクが何やら取り出したぞ!」
どう動くか興味津々に忍者たちが見ていると……。
「闇の忍者軍団に告ぐ!!君たちは完全に包囲されている!!速やかに人質を解放し、大人しく縄につきなさい!!」
シードラゴンマスクが取り出した『大音量スピーカー』で人質解放の説得を始めた。
「バカもの!!人質になんぞ取らんで、二人ともとっとと開放する!!だから、引き取りに上まで上がってこい!!」
「二人とも無事だったのね!?」
「はい!瀬利亜さ…シードラゴンマスクさん!!」
「…ここにいるメンバー全員に正体がばれてるから…瀬利亜でも大丈夫よ。」
「はい!瀬利亜さん♡」
解放された遥は上がってきた「四人組」の姿を見るなり、迷わずシードラゴンマスクの胸に飛び込んでいった。
「…こういう時、普通はヒーローの胸に飛び込むものじゃないのか?」
あきれたような声で棟梁忍者がつぶやいた。
「あれ、親父は?」
いつまでたっても正明が上がってこないので清正がきょろきょろしていると…。
「正明はんは『ぎっくり腰』にならはったんで、途中で帰ってもろうたわ。」
「…さいですか……。」
散々「一般人扱い」された後、父親の不手際でダメ押しをされた気分になり、清正は深くうなだれた。
「確かに二人とも無事受け取ったわ。」
棟梁忍者を睨みながらシードラゴンマスクが笑う。
「人質も無事だったことだし、この辺で帰らせてもらうわ。」
「ちょっと待てい!!この流れで、スーパーヒーローがそれをするのなしやろ!!」
「人質二人が怪我でもしたら、大変だし、メンバー的もちょっと不利かなと♪」
「前半はともかく、後半はスーパーヒーローのセリフやないぞ!!」
「どうしてもやりあわなければいけないというのね…。仕方ないなあ。
電脳マジシャン、申し訳ないけど、遥さん、キヨマーを保護して、バネちゃん、ちーちゃんと一緒に車まで撤退しておいてくれる?」
涼しい顔をして「言外に一人で戦う」と言っているシードラゴンマスクにその場にいた全員が言葉を失う。
「……いい度胸をしているな。だが、お前さんが一人で残るなら、私が一対一でやるのが筋というものだろう。」
嬉しそうに棟梁忍者が答えると、それに応えるように新たな声が聞こえてきた。
「二人対、忍者さんたち全員というのもありそうだわ。」
下の階からひょっこり上がってきた長身の金髪美女がニコニコしながら答えた。
「アルさん、来てくれたんだ♪」
「『出張のお仕事』にちょっと手間取ったけどね。」
笑顔を交わす女性二人を見ながら、棟梁忍者は表情を引き締めた。
「助っ人が…それも相当強力な助っ人がきてくれたようだな」
一見普通人にしか感じられない女性が「忍者たちに気づかれずに」この階に現れたこと自体がただものではあり得ないことを如実に表していた。
「一応聞いておきますけど、降参とかしてくれるとありがたいんだけど♡」
一切の悪意を感じさせない笑顔でさらっととんでもないことを伝えるアルテアに棟梁忍者は怒りを爆発させた。
「我ら闇の忍者軍団を侮るな!!」
「そうか、残念だわ。じゃあ、瀬利亜ちゃん以外は『命の保障が出来かねる』から早めに退散してくれるかな。」
アルテアが物騒なことを言うと同時に、衣装の中からいくつもの影が飛び出してきた。
二メートルを超す、青く輝く金属製の鎧に包まれた剣士。
青い剣士と同じくらいの大きさの真っ赤に輝く金属鎧を着た四本腕の射手。
黄金色に輝く金属でできているライオン型のゴーレム。
白銀色に輝く金属製の人間サイズの鷲型のゴーレム。
そして、当のアルテアは表情を失い、代わりに現れた真っ黒い衣装を着た「老魔女」がニヤニヤと笑っている。
「イギリスに来た連中よりは手ごたえがありそうじゃな。」
「き、貴様はまさか!?」
「わしはリディア・アルテア・サティスフィールド。大魔女リディアと呼ぶものもおるがの。」




