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ザップマンの憂鬱 その2

 前回までのあらすじ


 「おお!誠也(せいや)!あなたはどうして誠也なの?」

 出逢って恋に落ちてしまった二人の男女・北壁誠也(きたかべせいや)土御門美夜(つちみかどみや)

 だが、運命は「身分違い」の恋に落ちた二人を引き裂こうとしていた!!


 「俺なんかが、彼女を幸せにできるはずがない!」

 己の無力さに嘆く誠也、だが、キューピッドの瀬利亜(せりあ)のささやきが二人に大きな力を与えた!


 「この熱く燃え盛る愛する心がある限り!愛さえあれば『星の差』なんて!!」


 二人は様々な障壁を乗り越えて、真の愛を守ることが出来るであろうか!?


 あの日以来三日間、誠也が美夜に対してどう距離をとっていいのかわからなくなっていたこともあり、美夜の方も少々ぎこちない感じだった。


 だが、四日目に「外部会議」から帰った後は美夜の誠也に対する接し方は一見いつも通りになった。

 おかげで誠也もどうにか普通に接することができるようになっていた。



 「なあ、誠也。ちょっといいか?」

 任務終了後、やや逡巡(逡巡)したのち、(あずさ)が声を掛けてきた。


 いつもきついくらいに誠也に体当たりのコミュニケーションをかけてくる梓がめずらしくもじもじしているようなのだ。

 「…ああ、かまわないが。」

 「…こんなことを聞くのも何なんだが、もしかして、美夜副隊長と付き合うようになったのか?」

 「待ってくれい!!誰にその話を聞いたの!?」

 「…誰にも聞いてないけど、ここ数日二人がすごくぎこちなかったし、その後、美夜さんの誠也に対する態度が明らかに前より優しくなってたから、もしかしたらと思って。」

 「…え、美夜さん前より優しくなってたの?」

 「……気づいてなかったんだ。……ということは付き合ってはいないんだね…。

 いや、いいよ。僕の勘違いだったみたい。邪魔して悪かったね。」

 少し顔色がよくなった梓はそそくさと走り去っていった。

 心なしかいつもより少し顔色が赤いようだが…。


 「…せ・い・やーー!!」

地獄の底から湧き上がるような怨念に満ちた声に思わず誠也が振り向くと、真っ黒なオーラに包まれた哲也(てつや)が眼鏡から怪しい光を発しながら近づいて来ていた。


 「この『リア充』が!!

 明るく清楚で仕事もできる長髪和風美女の上司と『両想い』なだけでも許しがたいのに、 ショートカットの赤毛で勝気なボーイッシュのツンデレボクッ娘からも懸想(けそう)されるとは羨ましすぎてけしからん!!」

 負のオーラを全開にしながら哲也が心の底から叫んだ。

 「せめて、梓ちんを俺にまわせ!!」

 哲也のあまりの迫力にしばし、後ろずさった誠也に思わぬ助けの声がかかった。


 「あかんでえ。そんな他力本願ではぜったいに彼女はゲットできへんで♪」

 「く、出おったな光一め!俺の敵、スーパーリア充が!!」

 「そんなこと言おるからもてへんのや。もてようと思ったら、きちんと努力せなあかん。」

 「…もてるようになるのはいいんだけど、『継続させる』努力ももう少しした方がいいみたいだよ?」

 従兄をからかっていた、錦織光一(にしきおりこういち)は傍に立っていた相棒からの「ツッコミ」に思わず沈黙した。

 「瀬利亜はん、痛いとこ突くなあ。そんなにわてはあほかなあ…。」

 苦笑いしながら光一は瀬利亜の方を見る。

 「アホというより、『同じ失敗』を繰り返してるからねえ。今度の人とは明らかに結婚を意識してるでしょ?」


 「待てい!光一!今度の人とは完全に行き着くとこまで行ってしまったのか!?」

 「哲也はん、くやしかったら、頑張って彼女をゲットしてみいな♪」

 「二人とも、そろそろお遊びは切り上げて、『本題』に入らないと。さあ、会議会議」

 放っておくと永遠に続きそうだったので、瀬利亜は二人を引きずって、会議室の方に向かいだした。

 「そうだ、俺には瀬利亜たんが居てくれたんだ♪ぼくとおつきあいしてくれないかな♪」

 「30過ぎたオタク科学者がなに『女子高生』にちょっかい出そうとしてんねん!身の程を考えんかい!」

 「電脳オタク教師に言われたくないわい!!」

 仲良さげにじゃれ合いを続ける「オタクコンビ」を軽々ひきずって、瀬利亜は去っていった。

 (まさか、速水さんまで俺に好意を持ってくれているとは…。)

 休憩室に入ると、誠也はバタンとソファに倒れ込んだ。

 (本国(星)では、いわゆるヒーローとしてのエリートコースを走っていたはずの俺が、辺境の星でまさかこんな風にいろいろ想定外のことで悩むようになるなんて…)

 しばし誠也が考え込んでいると、30過ぎの精悍な男性が休憩室に入ってきた

地球防衛軍隊長・『元御庭番忍者』風魔自来也(ふうまじらいや)が誠也に笑いかけてきた。

 「どうした。ここ数日いろいろ悩んでいるようじゃないか」


 情け無げに顔を上げて、誠也は苦笑いした。

 「ここしばらくいろいろありて…。今日は速水さんに…」

 「なに!速水君がついに君に告ってきたのかね?

 「どうしてそれを!?いえ、厳密には告られたわけでは…」

 「告られたわけではないけど、好意を持ってくれているのにやっと気付いたというわけだね♪……速水君はわかりやすいからね。

 散々君に突っかかっていったのはもちろん『好きな人にかまってほしい』からだし、厳しい話が多かったのは『好きな人に頑張ってほしい』からだからね。

 ただ、ここは『職場恋愛』は大丈夫だけれど、『両手に花』とか、ましてや『修羅場』は完全にNGだから。その辺だけわきまえてもらえれば、あとは個人の自由だからね。

 君の気持に正直に、なおかつ十分な良識をわきまえて、行動をお願いするよ。」

 にっこり笑うと自来也は休憩室から出て行った。


 自来也が出て行った後も誠也はしばらく扉を呆然と眺め続けた。

 (…いつの間にか悩みが完全に「恋愛」に代わってしまっているような気がするのだが…。

 いや、そもそも「異星人」の俺が美夜さんと付き合うとか言う話にいつの間になってるんだ!!ましてや『結婚』とか、そもそもできるものなのか!?)


 悩みがおかしな方にどんどん「悪化」していることに気づかないまま、さらに誠也は悩み続けた。


 しばし、悩んでいた誠也は目の前の空間が大きくゆがんだのに気付いた。

 (何者かが転移してくる!)


 誠也が素早く銃を抜いて身構えると、黒ローブの存在が姿を現し、空中に浮かんだまま誠也を睨みつけている。顔ははっきりしないが、鋭い眼光と、強烈なオーラから只者でないのが感じられた。


 「おっと、貴様はザップマン!いきなり貴様と出会えるとはな!」

 「お前は邪悪な宇宙人か?!」

 くっくっくとローブの男は笑った。

 「その通り、俺は地球を侵略に来た『ファンタジー星人』だ!!」

 「待てい!!そんな名前の宇宙人なんか聞いたことないぞ!!」

 顔を真っ赤にして誠也がツッコミを入れた。

 「ちっ!!……じゃあ、宇宙ファンタジー海賊!!」

 「『じゃあ』ってなに!?それに取ってつけたようなそのネーミングおかしくない!?」

 目の前の相手は強敵であると感じられるにもかかわらず、誠也はだんだん相手にするのがばかばかしくなってきた。

 「我ら宇宙海賊ゴメラ団が、魔法を使う能力を手に入れたのよ!

修行して強くなった我々『新生ゴメラ団』の初陣だから、かっこいい新ネームを名乗ってみたかったのだ!」


 「最初からゴメラ団を名乗れ!!」

 叫んだあと、誠也は素早く変身した。いくらアホとはいえ、強敵なのは間違いないのだ。


 「ふっふっふ、わざわざ『地球防衛軍最終兵器・チートすぎる怪物』こと土御門美夜がいない時を狙ってきたかいがあったわ!!」

 (なるほど、そういうことか。だが、美夜さんはいなかったが、この俺がいたということだな)

 内心にやりと笑うと、ザップマンは戦闘態勢に入った。


 「ここで恋人である貴様を人質に取れば、土御門美夜をコントロールできよう!!」

 「待てやコラ!!おれを人質要員扱いか!そもそもなんでそんな情報を持っている!?」

 「基地のトイレの清掃のおばさんが知っていたぞ。」

 (殺す!噂を流したやつは絶対に殺す!!)

 ザップマンの戦闘力が怒りで大きく跳ね上がった。


 「喰らえ、拡散雷魔法!!」

 海賊魔導師の魔法を素早いステップでかわすと、ザップマンは強烈な左ストレートを連続で叩き込んだ。

 「ザップマン百列拳!!」

 「グヌハーッ!!」

 部屋の壁に思い切り叩きつけられると、海賊魔導師はずり落ちて動かなくなった。

 (ふー、何とか倒したか…。)


 一息ついた時、海賊魔導師がすっと立ち上がった。

 「喰らえ!最後っ屁の呪い!」

 ザップマンの体が閃光に包まれると、すぐに消えた。

 「く、貴様何をした。」

 「自分の命と引き換えにかけられる強烈な呪いだ。俺にも解くことはできん!」

 「どんな呪いがかかったというのだ!?」

 「呪いの効果はランダムに決まるから俺にもよくわからない。

 『トイレが近くなる』『赤面症になる』『運が悪くなる』『結婚が遠のく』などの

非常に強力な奴だ。」

 (地味に嫌な呪いばっかりだな…。)

 「し、しまったー!!今の効果は地球人に対するもので、相手がザップマンの場合は全然見当もつかんのだー!!」

 思いきり叫んだあと、海賊魔導師は息絶えた。


 (とりあえず、誠也にもどらないと)

 誠也の姿をイメージしていつものように念じたが、全く変化がなかった。

 いや、ほんの少しずつだけ変わっているようだ!!

 (しまった!これが呪いの効果か!?)

 ザップマンは焦った。こんな姿を見られるわけにはいかない。

 (どこかに隠れる場所は!?)


 その時、自動ドアがさっと開いた。そして、美夜が慌てて飛び込んできた。

 「誠也君、大丈夫!?」


 二人の視線がたがいの顔に向けられて…二人とも沈黙した。



 「美夜。僕は、僕はね、人間じゃないんだよ。N88星雲から来たザップマンなんだ。」

 意を決して誠也は語った。

 右手と右足以外は完全に人間に戻っていた。


 しばし、誠也を見ていた美夜はようやく口を開いた。

 「よかった、誠也君無事なのね。ちょっとした変な呪いがかかっているようだけど、あとは全然何ともないようだし。…あ、呪いは後で解いておくね♪」

 ほっとした様子で美夜は誠也ににっこりとほほ笑みかけた。

 「……あの、この右手とさっきの俺の話…」

 「大丈夫、右手と右足はすぐに元に戻る…」

 美夜ははっと気づいた。そして非常にばつが悪そうな顔になる。


 「…こめん!誠也君が宇宙人だとは最初から気づいてました。」

 初対面から人間ではないとは気づいていたものの、誠実でやる気のありそうな雰囲気からそのことを美夜は問題にしなかった。

 そして、ザップマンが登場した時、その正体に納得したのであった。



 「まったく、あの宇宙海賊魔導師にも困ったものだわ」

 美夜の話に固まっていた誠也は扉を開けて入ってきた瀬利亜の姿にぎょっとした。

 そして、瀬利亜も誠也の右手と足を見て固まった。

 「誠也さん、その右手!」

 混乱する中、誠也が何とか言葉を絞り出そうとしたが…。

 「早く隠さないと正体ばれちゃうよ!とりあえずこれを…」

 シードラゴンスーツの銀色の長手袋を取り出した後、瀬利亜は美夜に気づいた。

 「なんだ。美夜さんいるんだ。早く治してあげないと♪」

 瀬利亜は安心すると、そばにあった椅子に腰かけた。


 「あの、瀬利亜さんはいつから僕の正体に…」

 「1年前に会ったあの最初の日からだけど。ザップマンと同じオーラを出していたから、『誠也さんがザップマンの人間体』だとすぐわかったよ。」

 (そんなに簡単にバレるものだったんだ…)

 呆然と誠也は立ちすくんだままだった。

 「あと、隊長と出田さんも知ってるんじゃないかな。反応を見ている限り梓さんだけは知らないようだね。」


 瀬利亜の言葉に誠也は大きな謎が解けた。

 梓以外は誠也の正体及びもちろんザップマンとしての活躍を知っているから、『人間としての誠也』が活躍しなくても十二分に優しく労わってくれていたのだ。

 もちろん、性格上誠也が仮に普通の人間だったとしても間違っても邪険には扱わなかったであろうが。


 「…もしかして、誠也さん、美夜さんがわかっていないと思っていたんだ!

 道理で告らないわけだわ。」

 やれやれといった感じで手を振る瀬利亜に「あること」に気づいた誠也が叫ぶ。

 「美夜さんと俺が恋人同士という噂を流したのはもしかして…瀬利亜ちゃん?!」

 「えー!わたしそんな『まわりくどい』ことはしないよ。

 するんだったら、直接誠也さんに『告れ』とつつくから♪」

 「瀬利亜さん!美夜さんの前でなんてことを!」

 慌てて叫んだ誠也は自分が「地雷を踏んだ」ことにようやく気付いた。


 後ろを振り返るとニコニコしている美夜が「期待するような視線」でじっと誠也をみつめている。


 「愛さえあれば星の差なんて♪ 男なら、スーパーヒーローなら行くっきゃない!

 では、『邪魔者』は退散しますね♪」

 誠也の助けを求める視線を軽くかわすと、瀬利亜はにこやかに去っていった。



 振り向いて「一言発する」までの一分間は誠也にとって生涯で一番ドキドキして長い一分となった。


 美夜と誠也が恋人という噂を流した犯人は「哲也」だと後程わかった。

 「二人が付き合えば、梓チンが俺を向いてくれるかも…と思ってやりました!」

と白状した哲也を梓が思い切りボコった。


 地球防衛軍「二組目のカップル」はまだ誕生していない。


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