2 傾向と対策
「というわけで、『第1回愛情瀬利亜はんバレンタイン対策会議』開催や♪」
光ちゃんが嬉しそうに黒板に文字を書いていく。
……『愛情瀬利亜はん』はやめなさい!!
光ちゃん、『私を食べる気満々』だよね!!!
食べるなとは言わないけれど、『黒板に書くのはダメ』だよね?!!
「あら、黒板に『愛情瀬利亜はん』て書いてあるということは『リボンで瀬利亜ちゃんをくるむ作戦』は実行するということかしら?」
「実行しません!!」
「じゃあ、私が実行しようかな♪ほらほら、巧さんへのプレゼントが豪華になったでしょ♪」
アルさん、そんなセリフをドヤ顔で言わないで下さい!!
「瀬利亜はん、無理にリボンを使われへんでも大丈夫や。14日は日曜日やから、ちゃんと前日にフレンチレストランのディナーコースとホテルも予約済みや♪」
チョコレートが完全にどこかへ行ってしまったよね?!ちなみに欧米では『男女を問わず、チョコに限らずお互いに色々なものを贈り合う日』なのだそうで、本来の意味に近いのかもしれないけれど…。おっとっと、この話は他ならぬ光ちゃんから教えてもらったのでした。
「光ちゃん、ということは、学校では12日にチョコレートが飛び交うと予想されるわけね。」
「そうやね。せやから『チョコレート確保』のアイテムボックスとかは12日には瀬利亜はんの下箱前にしっかり用意しとこうな。
それから、シードラゴンザップマン事件の際やけど、バレンタインでもあらへんのにえろう大量のチョコレートが用意されとったよね。そこから人工知能も使って大雑把に予測して…チョコは千個くらいやないかと思うんや。」
「…千個デスカ…。光ちゃんと二人でも全然食べきらないよね…。」
「瀬利亜はんが愛情込めて作ってくれはったものや、瀬利亜はん自身はいくら食べても嬉しいだけやねんけど、瀬利はんがもろうたチョコは…基本食べたいとは思わへんのや。」
愛情表現は嬉しいのだけれども、ここにはトラミちゃんがいるので、その『薄い本のネタになる発言』は控えてほしいと思う。
「ふっふっふ、安心するのにゃ♪瀬利亜さんはそれぞれのチョコをちょこっとだけ食べて、あとは私が全部いただくにゃ。一日百個は楽勝にゃので、一〇日もあれば、楽勝だにゃ♪」
「トラミちゃん待って!いくら人造人間とは言っても一日にチョコを百個も食べていてはさすがに体がおかしくなったり、故障したりはしないの?」
「安心するにゃあ。人造人間は『おやつは別腹』これは、お茶菓子や宴会に付き合うことで人間関係を円滑にするためににゃんと『胃袋を四つ』標準装備にしてあるにゃ。
だから、未来の猫耳アイドルグループ・スーパーキャッツはにゃんと一日千個のチョコを食べても平気なのにゃ♪」
接客というのは未来になっても大変なのだね…。しかし、胃袋が四つとか、ほとんど牛だよね…。
「それと、今回バレンタインにちなんで、SDシードラゴンマスクぬいぐるみの販促キャンペーンを進めております。具体的には『バレンタインにはチョコ付きSDシードラゴンマスク』で愛をゲットしよう…というCMを今日から流していますが、反響がすごいです。現在『名状しがたき生産ライン』を増強して、急ピッチで発送を続けております。」
ニャントロさん!!それはここの議題とは反対の対策ですよね?!バレンタインに向けて必要なことが大幅に増えてしまうんですが!!
「…えーと、いくつか疑問があるんですが、一番の問題は…男性がSDシードラゴンマスク&チョコを贈ってもらって嬉しいものなの?!」
「ふっふっふ、ご安心を。今回はあくまで『ホワイトデーの前振り』ですよ。今回の反響で『SDシードラゴンマスク&キャンディ』をどれだけ作ればいいかが予測できますからね♪
ちなみにホワイトデイにはSDシードラゴンマスク『通常版』と、『魔法少女版』、さらに『シードラゴンザップマン版』の三種類があります。通常版が一番たくさん出ると思いますが、他の二つも『複数購入』される方もおられそうですから、相当個数が見込めると予測しています。」
ニャントロさんが嬉しそうに笑っている。ちなみに今は素顔です。
……はい、バレンタインデーもホワイトデーも想像を絶する未来になりそうな予感しかしません。
ちなみにSDぬいぐるみのモデル料が数百億円の単位になりだしたので、せっかくなので『発展途上国の子供たちの支援プロジェクト』をモデル料で運営していくシステムを立ち上げてもらいました。匿名でお願いしておいたのですが、いつの間にか『シードラゴンマスクが支援した』という情報がどこからか漏れたようで、寄付金がどんどん集まったり、『子供たちの心のケアのために大量のSDシードラゴンマスク』が購入されたりと…予想を大きく上回る動きになってきております。
さらに販売元でもある『わくわくランド』を誘致してくれ…という話がアメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシアなどあちこちから来ているようです。
『忍者村』とか『ニャーカムハウス』は本物がいないと絶対に再現できないですよね?!
「そうそう、それに関連してですが、瀬利亜さんもご存じだと思いますが、『わくわくランドを世界各国に誘致』する話が順調に進み、夏くらいにはアメリカで、秋から冬にかけて、ロシア、中国、イギリスにそれぞれの国に合わせてアレンジしたものが誘致されることが『正式決定』しました。」
「なんですって!!…でも、『忍者村』とか、『ニャーカムハウス』は再現できないからそこは似たような感じにアレンジされるんですよね?」
「ふ、ご安心を!現在すでに各国で『忍者格闘』できる人材育成を始めてもらっていて、それぞれの国の開園には間に合う予定です。
また、ニャーカムハウスですが、なにしろ私はは邪神ですから、『各国に同時に存在』するくらいわけはありませんよ♪もちろん、モンスターも『全て本物』をそろえる予定です。」
……忍者村は構わないけど、いえ、ニャーカムハウスも構わないけど、『モンスターは本物』にするんじゃない!!!
そして、あっという間に12日になりました。
私はクラス全員分のクッキーを焼いて、半分戦々恐々としつつ、みんなと登校しました。
光ちゃんと巧さんの分は翌日に回してますので、今日はクラスのみんなの分だけです。
結論から言えば、『予想以上』でした。
まず、校門のわきに特大サイズの『瀬利亜さん専用プレゼントボックス』がわかりやすく設置してあって、すでに中に大量のチョコや『ぬいぐるみセット』が入っているようでした。
…私に私自身のぬいぐるみを贈ってどないせいちゅうんですか?!!!
チョコだけをトラミちゃんと山分けした後、ぬいぐるみは『世界の恵まれない子供達』に『名状しがたい配送ライン』を使って贈らせていただきました。子供たちが喜んでくれるに違いないと『シードラゴンマスク本人から』と明示したところ、たいそう喜んで頂けたようで、ブログに子供達からの反響とぬいぐるみ運動を進めていただいているみなさまへのお礼を書いておきました。
ついでに風流学院高校のブログに『ある個人へ贈られた大量のぬいぐるみ』はぬいぐるみ運動を通して世界中の子供たちの手に渡った…と記入してももらい、送っていただいた方への義理を一応果たしました。
その結果は予想通り、『SDぬいぐるみ』のさらなる人気拡大と、『恵まれない子供たちにSDぬいぐるみ運動』が大きく広がることとなりました。
たくさんの子供たちが喜んでくれること自体はとても嬉しいですよ。
ただ、『自分のぬいぐるみ』がどんどん拡散していくのは『悶え死にそうになるくらい恥ずかしい』ですが…。
それからシードラゴンザップマンになっていた時、『何度かテレビで私が前口上を語るシーン』が放送されたせいで、子供たちの間に『シードラゴンマスクごっこ』が流行ることになりました。
もちろん、子供たちが『この熱く燃え盛る正義の心のある限り!』とか叫ぶわけです。
こちらもそんな話を聞くたびに悶え死にそうになります。
私は特に他の人と比べて『自己顕示欲が強いわけではない』のですよ。単に『スーパーヒーロー(ヒロイン)の様式美』を大切にしていただけなのですが、想像以上にシードラゴンマスクの知名度が上がったのが、誤算でした。
それと、『髪の毛の色は変身後に黒く染まる』とかもう少し工夫をするべきでした。
まあ、それを逆手にとって、『本来黒い髪が変身後に銀色に染まっているらしい』という偽情報を光ちゃんに流してもらったおかげと、アルさんが広範囲にわたって軽い『認識阻害の魔法』をかけてもらっているおかげで、直接会ったことのない人だとほとんどが私の正体に気付いておられないそうです。
我が風流学院高校の場合も『人外や特殊能力者』の人達以外はほぼ気付いておられないのも光ちゃんとアルさんのサポートのおかげなのです。
そうでないと、街をオチオチ歩くこともできませんから…。
結局合計で二千個になったチョコをトラミちゃんは一〇日で食べきってしまいました。
もちろん、家に来て『夕食もお代わりまで忘れることはなかった』です。
食いしん坊万歳!!
バレンタインの前日にはリボンをしようがしまいが、結局『食べられる』結果には変わりはありませんでしたが(笑)、遥ちゃんから編み方を教わった手編みのベストを渡したところ、『人生で最高のバレンタインデーや!』と泣いて感動してくれました。
こうして無事大きなイベントも乗り切り、いよいよ私自身の結婚式か?!
という時に大きな『事件』が起こったのですが、それはまたの機会に。
P.S. アルさんが『自身をリボンにくるんでのプレゼント』は予想以上に好評だったそうです。…そうですか…。男性とはそういうものなのですね…。
バレンタインをあまり引っ張っても仕方ないので、
今回で終了です。
また、新たな章が始まります。
少々お待ちください。




