10 正義の館に集う者たち その1
シードラゴンマスクはドクターフランケンと妖精型秘書ロボット、そして三体の怪人たちと向き合っていた。
「はーはっはっはっはっは!!どうだ、シードラゴンマスク!お前にこの怪人たちを倒せるかな!?」
ドクターフランケンは笑いながら、シードラゴンマスクを見据えていた。
シードラゴンマスクは怪人たちをちらっと見やった後…。
「シードラゴン・旋風脚!!!」
怪人たちの前に飛び込んで倒立した後、南米の格闘技カポエラ風に三人の怪人たち、「パンダ怪人」「コアラ怪人」「ラッコ怪人」をあっという間に蹴りで粉砕した。
「なぜだ!?貴様は『可愛いものに弱い』はずではなかったのか!?」
ちっちっちっとシードラゴンマスクは右手の指を振って言った。
「外見だけ可愛くて、『内面が真っ黒』な怪人には普通の怪人以上に嫌悪感を感じるだけだわ。背後に見える『どす黒いオーラ』が全部台無しにしてくれているわ。」
「ちちーっ!!ただの脳筋ではなかったか?!」
「さて、ドクター。覚悟してもらいましょうか?」
背中に脱出ロケットを背負ったドクターと妖精ロボ・ミーナは『迫りくる圧倒的な脅威』に背筋が凍るのを覚えた。
その時…ボワーンと爆発音とともに大きな煙が上がった。
煙くらいでドクターの居場所を見失うシードラゴンマスクではないが、『煙玉』を投げた相手、そして、上空からドクターに飛んできた相手の強烈な存在感に飛びのいて身構えた。
煙を抜けてドクターたちを救い出したそいつは白いローブを目深にかぶりながら右手にドクター、左手にミーナを抱えて、上空に浮かんでいた。
「隙を見て倒そうかとも思ったが、全然隙を見せないな。さすがだ、シードラゴンマスク。
今日のところは引き上げるとしよう」
白ローブの男はは涼やかな声で笑うと、そのまま飛んで去っていった。
(煙幕を投げた奴にも逃げられたわね…。)
煙玉を投げた相手に瀬利亜がとっさに投げた棒手裏剣(白いセラミックの薄刃で、龍の鱗を模したデザイン)数本は『忍者服を着た丸太』に突き立っていた。
(謎の白ローブに謎の忍者(笑)。どちらもサラマンダーあたりとは比べ物にならないくらい強敵だわね。しっかり対策を立てないと。)
雨の早朝とは言え、6月ともなるともう明るい。
シャワーを浴びた後、瀬利亜は千早の部屋の前で立ち止まった。
(ちーちゃん、いつもならとっくに起きて習練している頃だけど、昨日は別任務で光ちゃんと一緒に出張っていたからね。)
そっと扉を開けると、疲れてベッドに埋もれている千早が目に入った。幸せそうに寝入っている千早に瀬利亜は優しい視線を向けた。
(ちーちゃんは見れば見るほどかわいいわね。さっきのインチキ怪人たちと違って、ちーちゃんは内面がめちゃめちゃ素敵だから、外面のかわいさがさらに引き立つわね…。
ほっぺたむにむにしちゃおうかしら♪)
満面の笑みを浮かべて瀬利亜は千早に近づいて行った。
「きゃははは♡」「うふふふ♡」
夢の中とどこかでわかっていながら、千早は瀬利亜と共に野原をバスケットを持って歩いていた。お花畑を前にして、二人は草むらにシートを敷いた。
「さあ、今日は『ちーちゃんのために』サンドイッチを作ってきたわよ♪」
バスケットから「色とりどりのサンドイッチ」が出てくるのを至福の表情で眺めていた千早は、『気配』に気づいて飛び起きた。
がばっと、ベッドから飛び起きた千早は傍らに瀬利亜が立っているのにびっくりし、
さらにすっかり明るくなっているのに慌てた。
「習練!起きてしゅうれんしなくっちゃ!!」
ばたばたする千早に瀬利亜は笑顔で声を掛けた。
「ちーちゃん、すごく真面目で素敵だね。でも、昨夜は遅くまで任務だったでしょ。ちょうど今日は学校も休日だから、ゆっくりお休みなさい。」
千早のほっぺをむにむに出来なかった残念さを『天使のような満面の笑み』で上手に隠しながら、瀬利亜は優しく声を掛けた。
「瀬利亜さん、ありがとうございます!!」
嬉しさのあまりにへらーーと笑いながら、千早はまだ重たい体の欲求に素直に応じることにした。
(まったく、日本は雨がよく降るよな…。これが『梅雨』てやつか…。)
河原で釣り糸を垂れながら、バネッサはため息をついた。
一応カッパを羽織っているものの、長時間こうしているとだんだん体が冷えてくる。
(そろそろ食費も苦しくなってきたし、「アルバイト」とやらを真剣に考えないと)
後方のテントをちらっと見て、バネッサは再びため息をついた。
「今日は梅雨前線が活発化し、特に昼過ぎから夜半にかけて集中豪雨の危険があります。河川の氾濫にもご注意ください。水が増量した川にはくれぐれも近づかないで下さい。」
遅めのランチを食べた後、応接間で瀬利亜・千早・巧の三人はまったりとしていた。
「大雨で災害になるかもしれないのですね?」
テレビを見ながら千早が心配そうに言う。
「うーん、バスター協会の『予想』だと、被害が出るほどの大雨にはならない感じだわ。」
タブレットを操りながら瀬利亜が答える。
「はっ!!」
なにかを感じた瀬利亜が止まる。
「『河川で事件の予感』だわ。巧さん、申し訳ないけどリムジンを出してもらえる?」
「かしこまりました。すぐにご用意を」
休日のカジュアルの服からあっという間にいつもの黒のタキシードに着替えると、
巧は車庫に向かった。
「瀬利亜さん、あれ!!」
しばらくリムジンを走らせたとき、増水した川に飛び込もうとしているバネッサを三人は見つけた。
「バネちゃん!!何してんの!!」
慌てて、背中に瀬利亜がしがみつく。
「離せ!離してくれ!!テントや私の生活道具一式が!!」
「いくら勇者でもこんな中に入って行ったら死んじゃうから!!どんな超人でも『自然の猛威』には勝てないわ!!」
すごい勢いで流れていく濁流を見ながら瀬利亜は言った。バネッサの足元には泥だらけになった勇者の剣と鎧一色が転がっており、それだけは何とか救出したのが伺えた。
さすがに瀬利亜のひとことで頭を冷やしたバネッサはがっくりと膝をついた。
「ああ、今晩から宿無しか…。剣と鎧と助かっただけでも天佑かもな…。」
呆然と川を見つめるバネッサに瀬利亜が優しく声を掛けた。
「バネちゃん、よかったら家に来ない?衣食住は提供できるし、モンスターバスター見習いとして些少だけど協会から給料も出せると思うわ。」
瀬利亜がにっこりと笑って手を差し出した。
「でかい!!ここ、王宮じゃないのか!?」
家に付いた途端、バネッサは仰天して立ちすくんだ。
「何、このワンちゃん、おもしろい!!」
お掃除&愛犬ロボットるんぼ☆くんを見て、バネッサははしゃいだ。
「なに、その大きさ、何食ったらそんなに大きくなるんだ!?」
ずぶぬれになったので一緒にシャワーを浴びた際、バネッサは瀬利亜の胸に注目していた。
「それ、私も知りたいです!!」
さらに千早まで真剣な目つきで食いついてきた。
「えーとね…」
瀬利亜は困った。性格的に、交際的にも瀬利亜はあまり「女子会」的なものに参加したことがなかった。
仕事上いろいろな立場の人と徹底的に話したり、交渉した経験があるので、かなり機転が利く方ではあるのだが、「同年代の女子」との会話はあまり得意ではなかった。
(「基本遺伝だから」なんて話をしたら墓穴を掘るだけだし…。)
「……そうね、私の『正義の直観』によると、ちーちゃんはもう少ししたらすごく素敵なスレンダー美人になって、モテモテになる予感がするわ。」
これでなんとかごまかされてくれい、と瀬利亜は願ったが…。
「スレンダー美人…て、胸が大きくなっていないということですよね!?」
早くも千早は気付いて半泣きしそうになっている。
(ち、気付かれたか!?ならば…)
ちゃんちゃらんちゃらんちゃんちゃーんと効果音と共に瀬利亜はどこからともなく防水用のタブレットを取り出した。
「『性格のいい男子』百人に聞きました。『あなたは彼女にする男性の胸のサイズを気にしますか?』に対する解答です。」
アナウンサー風にニコニコしながら瀬利亜はタブレットを素早く操作した。
「実に九割以上の『性格のいい男性』」が気にしないと答えてくれてます♪」
だが、その瀬利亜の天使のような微笑みにも二人は騙されなかった。
「その『性格のいい』とはどういう基準なんだ?そのアンケート本当に大丈夫か?」
「この前テレビの番組で多くの男性の方が『小さいよりは大きい方がいい』なんて言ってましたよ!」
(テレビ番組が、余計なことを放送してくれる!!)
内心舌打ちしながら、それでも瀬利亜は笑顔を崩さずに言った。
「知り合いの四〇代の男性の奥さんが言っていたけど、『大きさが大切なのではなく、だれの胸に付いているかが大切なんだ』と言ってくれているそうよ。そこの夫婦は今でもラブラブなんだそうね。
だから、『入れ物を大きく』するより、内面、私たちの『女子力』を磨く方が大切だと思うの。」
最後には「単純な二人」は瀬利亜の満面の笑みと説得に「騙されて」くれた。
こうして、人数の増えた共同生活はさらに楽しさを増してくれたのだった。




