1 モンスターバスター参上!
離れの礼拝堂に到着するなり、「伯爵」はせせら笑った。
(そんなもので隠れているつもりになっているとは…)
今度の「モンスターバスター」とやらは前回返り討ちにしてやった精悍な男と違い、若い女性のようだ。
(吸血鬼用の特殊技能でも持っているということか。
だが、「五〇〇年以上生きる真祖」の一人たる私に聖水や十字架など大した効果などない。)
もう一人分の若い女の血が吸えるという「おまけつき」か、くっくっく)
デニム伯爵は嬉しそうに一人ごちると「モンスターバスター」の隠れている柱に音もなく忍び寄っていった。
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(来た!?)
今までは感じなかった「気配」を遥は感じ、背筋を冷たいものが走った。
二度も噛まれたせいか、今までよりずっと感覚が敏感になっている感じがする。
「まだ人間である」と判定されたとは言え、少しずつ人間でないものに
変わりつつあるような気がして、まだ一七の少女は震え上がった。
同じく気配に気づいたのか、遥の目の前のほぼ同じくらいの年格好の「モンスターバスター」は任せておけ、と言わんばかりに右こぶしを立てて突き出した。
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綾小路家では一人娘の遥が吸血鬼に襲われて血を吸われたとわかると、ただちに「モンスターバスター」に救援を求めた。
だが、翌日護衛に入った精悍そうな「Å級モンスターバスター」はあっさり「伯爵」に倒され、またしても遥は血を啜られた。
「今度こそ大丈夫」という協会からの連絡があった後、遥と同い年くらいのハーフの女性のモンスターバスターが到着した時、両親は「形だけの護衛」が来たのではないかと半狂乱になりそうになった。
「ここにいるのは確かに私だけですが、ちゃんと手は打ってあります。」
と自信満々にいうその「瀬利亜」というモンスターバスターの言葉に両親は藁をもすがる思いで何とか自分達を落ち着かせた。
遥もそのあまりに落ち着き払った態度、そして今までよりずっと鋭くなった感覚が「この人なら大丈夫」と強く感じていた。
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「それで隠れているつもりか!!」
女性のモンスターバスターの前に躍り出た「伯爵」は驚愕に言葉を失った。
先ほどまで感じていた気配と姿がまったく消えていたのだ。
(ど、どこへ行った!?)
きょろきょろとあたりを見回す「伯爵」の後ろから女性の力強い声が響き渡った。
「愚かなり!!
吸血鬼・デニム伯爵!
その方、可憐な婦女子の血を強引に吸った上、
護衛のモンスターバスターに重傷を負わせるとは不届き千万!!」
振り返ったデニムは礼拝堂の二階に立っている「彼女」を呆然と見つめていた。
銀を基調としたボディスーツ(しかもへそ出し)と仮面をかぶり、銀色の髪をなびかせた女性は男爵の前にふわりと舞い降りた。
「シードラゴンマスク、ただいま推参!!
天に代わって悪を撃つ!!」
しばらくあっけにとられていたデニムだが、ようやく我にかえると『シードラゴンマスク』に牙をむいて襲いかかった!!
「ふざけるんじゃない!!」
だが…。
「シードラゴン百裂拳!!」
シードラゴンマスクの右拳がデニムの目にもとまらぬ速さで動くと、デニムは礼拝堂のたくさんの椅子と共に後方に吹っ飛ばされた。
「やるな。だが、私は不死身の真祖、そんな攻撃では…」
「シードラゴン百裂拳!!」
デニムは再び礼拝堂の椅子を巻き込みながら大きく吹っ飛ばされた。
「無駄だというのに。私は不死身の…」
「シードラゴン百裂拳!!」
デニムは再び礼拝堂の……。
「人の話を聞けい!!」
デニムはブチ切れて叫んだ。
(このくそ痛いのに何で、何度も立ち上がって同じことを言わないと…)
そこでデニムは気付いた。
全身のブチ切れんばかりの痛みは止まず、あちこちからの出血は止まる気配が全くないのだ…。
「どうやら気づいたようだな」
シードラゴンマスクは笑った。
「『シードラゴン百裂拳』は相手が改心するか、『百に裂けるまで殴り続ける』究極の技。
そろそろ改心する気になったかな。」
(いろいろおかしすぎる!!)
デニムは頭の中でツッコミを入れた。
(その技はどんな技やねん!!そもそもこの不死身の吸血鬼に直らない傷を負わせる理由にぜんぜんなっていないし!!)
だが、その「ツッコミを入れたほんの数刻」がデニムの生死を分けた。
「なるほど、さすがは『伯爵』。どんな相手だろうと降参はしないということか。
その誇りに免じて『奥義』の一撃で葬らせてもらおう!」
圧倒的なオーラを出したシードラドンマスクの「死刑宣告」を耳にしながらようやくデニムは目の前の相手が自分とは比べ物にならない「モンスター」であることを感じとった。
「…ま…ちょっと待っ…」
デニムがようやく言葉を絞り出したが、一歩遅かった。
瞬時に間合いを詰めたシードラゴンマスクの右拳がデニムの顎を
あっという間に捉えていた。
「シードラゴン昇竜拳!!」
天井をぶち破って建物の外に飛びだしたデニムはそのまま星になった。
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「これで、もう大丈夫。それでは、私はこれで。」
シードラゴンマスクは遥の手を取って立たせるとそのまま立ち去ろうとした。
「あ、あの、あなたは…」
「申し訳ない、ヒーローは正体を明かせない」
遙に優しく微笑むと、シードラゴンマスクは天井に空いた穴からふわりと
屋根の上に舞い上がるとそのまま夜の闇に消えて行った。
(「石川瀬利亜」様、正体は私とあなたの秘密ということですね♡)
初対面時に見せてもらった「Å級モンスターバスターの身分証明証」をしっかりと心に焼き付けながら遥はいつまでも天井に空いた穴を見つめていた。