コウの音
カツカツカツ
濃い緑の板に私は白い棒で文字を書いていく
カツカツカツ
踊るように動くその棒の軌跡は意味ある言葉になって行く
ハラハラハラ
けれど、書いたそばから落ちていく
棒の軌跡は残らない
それでも気にせず書き続ける
カツカツカツ
一定のその音は前にいる生徒たちには良い子守唄のようだ
カツカツカツ
私は最後に二点を打つ
一息着いて、振り返る
全員が伏せった室内は驚くほどに広く、誰もいない部屋よりもひと気がない
私は彼らに満面の笑みを向ける
身体は温かく、柔らかくても
お前たちの心は冷たく硬い
お前たちは亡者よりも死んでいる
生きていると胸を張れるものはいないでしょう
にっこり笑って濃い緑の板を叩く
広い広い板には隅っこにたった二点打たれているだけで、何もない
これは、私が見つけた幸福理論
全世界の全ての人間がきっと幸せになれる方法
私はただ、何もない板を満足気に見つめる
これは、全ての人の幸福の音で、その正体だ
そんなものはどこにも存在しない