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まぼろしの跡  作者: 樹歩
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第63章―彼女の逆襲その3―

 車を喫茶店の駐車場に止めた頃には時計は20:30を過ぎていたと思う。なんだか無性に煙草が吸いたかった。

 私たちは無言で車を降りた。富田さんも私たちの車のすぐ後ろに着いて、車から降りてきた。

「禁煙席と喫煙席とありますが。」

「喫煙。」

店員の言葉に志生が不機嫌そうに答える。私はまたいつもの疑問が浮かび上がる。

 いつもの疑問。どうして喫茶店なのに禁煙席と喫煙席があるんだ?ダジャレか!?フランス料理とかのレストランなら仕方ない。100歩譲ってファミレスでも許そう。でも喫茶店でこれを言われるのは納得いかない。煙草を飲み、お茶も飲むから喫茶店ではないのか?私たち喫煙者は、特にここ何年か前から何処へ行っても禁煙ばかりで、喫煙所で煙草を吸ってもなんだか肩身の狭い思いを虐げられている。

「禁煙席ですか、喫煙席ですか。」

と訊かれて、

「喫煙。」

と答えるのが、なんとなく相手に許可を求めているという感じが否めない。悔しい。日本の経済を少しばかり支えてるくらいなのに。ああヤダヤダ。(ここの部分は萌に言わせてますが、作者の個人的感情を訴えているのを素直に認めます、申しわけありません:作者)・・・愚痴はこのへんにしよう。今はもっと大切な事がある。


 私と志生が並んで座り、向かい合って富田さんが座った。なんだか昼ドラみたいだと思う。夫に愛人が出来て、それを見つけた妻が二人を呼び出し問い詰めている図。それとも富田さんは少し年上に見えるから、弟(または妹)に恋人が出来て、初めて姉に紹介する図。

 本当に緊張する重大な場面に当たると、私は逆に普段は思わないつまらない事をつい描いてしまう。現実逃避かもしれない。そんな事をしたって目の前の緊迫した場面からは逃げられない。重症患者が運ばれてきた時、血を見たくないからとトイレに閉じこもる訳にもいかない。わかってる。過去からだって逃げられないのに、現実(いま)の富田さんを避けようと思っても不可能だ。だからこそこんなくだらない空想が浮かぶのかもしれない。でも、少なくとも今は今朝より楽だ。志生がいるのだから。私は余分な口出しはしない方がいいだろう。


 店員に適当に飲み物だけ注文し、その飲み物が来るまで、3人とも口をきかなかった。私は座った途端煙草を吸いだし、志生も水を一気に飲み干した後、煙草に火を付けた。富田さんは下を向いたり志生を見つめたりして、多分、私の存在を自分の視界に入らないようにしているんじゃないかと思われた。私も煙草の火を消した後は、極力窓の方を向いて、二人の会話に入らず、彼女からは顔が見えないように、“どうぞ私の事はお気になさらず”というオーラを醸し出そうとしていた。とはいえ、この作戦には失敗と言うか1つ弱点があって、私は顔を隠すつもりで窓を向いているのだが、窓ガラスにしっかりと私の顔と向かい合っている彼女の顔が映っているのだった。

 テーブルのうえにコーヒーカップ(私は紅茶党だが、二人がコーヒーと即座に言ったので同じものにした)が3つ並んだ時、富田さんから口を切った。

「・・あなたと別れたこと・・、ずっと後悔してたわ。結婚すると聞いた時、今動かなければ本当にあなたを失ってしまうと思った。」

「それは聞いた。俺も知沙さんが離婚しているとは知らなかったから、あきらめるしかないと思ったし、あきらめた。」

「それも聞いたわ。」

ダジャレか?どうして他人ひとの恋愛の会話はどんなにシリアスな場面でも、どこか滑稽に見えてしまうのだろう?

「あなたが暁星さんと結婚する気でいる事もわかってる。でも私を忘れきれてないとも思ってるの。」

「・・知沙さんとは、本当に添い遂げたいと思ったから。時間はかかったよ。もう恋愛はできないかなって思った。」

「私、あなたを忘れたことなかったわ。今ならすべて捨てる。家も、親も。」

「この前もそう聞いたけど、それ以前に俺の気持ちは・・。」

「本当に?」

志生が返事に詰まるのがガラス越しにも見えた。

「本当に私との時間を忘れてしまったの?」

「忘れたとは言わないよ。」

私が隣にいるからだろう、志生は言いにくそうに言葉をつづけた。

「終わった事なんだ。」

「私には終わってない。」

富田さんも負けてない。

「今さらかもしれないけど、私は穂村君がこんなに早く恋人を作るとは思わなかったの。ましてや結婚なんて。」

「でも1年は経ってる。」

「暁星さんの事愛しているのね。でも私もあなたしかいないの。このままだとまた親の決めた結婚に従うしかない。」

「また?」

「父が見合いをさせるって・・。でもそんなのは建前よ。もう結婚させる気でいるもの。」

「嫌だって言えばいいじゃないか。」

「誰も私の話なんて聞かないわ。いい恥さらしだと思われてるし。」

「それと俺とは関係ない。」

「私はもう、愛情のない結婚は嫌なの。」

「俺が知沙さんに持てるのは、もう愛情じゃない。同情だけだ。」

「!」

キツイ・・。今の言葉はキツすぎるよ。窓越しに顔を伏せて泣いている富田さんが見えた。私はいたたまれなかった。ちょっと・・、と志生に言いそうになる。

 でも富田さんはここからも凄かった。涙でいっぱいの顔を上げたかと思うとこう言った。

「同情でもいい。暁星さんと付き合っていてもいいわ。私とも会ってくれれば。」

「何言ってる?」

何言ってるの?どういう意味?

「二股かけてくれれば。それから答えを出してくれれば。」

ふたまた?さすがの私も振り向いてしまった。富田さんと眼が合った。

「どう?暁星さん。私のお願いを聞いてもらえるかしら?」

・・どうしてこうなるんだ?






















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