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まぼろしの跡  作者: 樹歩
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第45章―招かれざる客その2―

 「穂村君と別れてもらえないでしょうか。」

富田さんは敷いてあるカーペットぎりぎり一杯頭を下げ、そう言った。

 いったい何を言ってるのだろう、この人は?私は目の前で何が起こっているのか理解できなかった。いや、どういうことなのかは理解できる。でもどうして私にこんなことを言うのかが理解できなかった。私に言ったところでどうにかなる問題ではない。たとえ私が身を引いても志生が富田さんの所に戻る保証もない。増してこんなことをするのは返って富田さんにとってマイナスじゃないのか?

「・・顔を上げてください。」

とりあえずそう言った。これでは私が彼女を取って食おうとしているかのような構図に思えたからだ。富田さんはおずおずと顔をあげ、その綺麗な顔が真正面にこちらを向いた。

「おっしゃっている意味が理解しかねます。」

「・・お怒りはごもっともです。」

怒り?私が何に対して怒りを覚えているというの?

「怒ってなどいません。でも、その話は私にしても意味がないと思います。あなたと志生の問題ですから。」

「でもあなたは穂村君の婚約者でしょう?そう聞きました。」

「確かに結婚の約束は交わしました。お互いの親にも会いました。」

そう伝えると一瞬彼女の顔が引きつった。志生のお義母さんから好かれていなかったという志生の話を思い出した。

「ですが正式に婚約は済んでません。何も決まってません。というよりも、それ以前の問題ですよ。」

「でも・・。」

「だってあなたはこの前志生と一晩中話したんでしょう?私が夜勤の時に。それで私たちは大モメにモメました。でも、それは私と志生の問題です。私たちは話し合って(と言っていいものか迷うが)これから先も一緒に頑張ることを決めました。あなたが志生をあきらめられないのなら、それはあなたと志生の問題です。あなたと話し合って志生がどうするかの問題ですよ。私に別れろとあなたはおっしゃってますが、それでもし万一私たちが別れたとしても志生があなたの所へ行くかどうかわかりませんよね。」

「・・穂村君は私との事をなんてあなたに話したんでしょうか?」

「それは・・」

私は志生から聞いてたことを思い出しながら彼女に伝えた。所どころ記憶に自信のないところもあったけど、おおかた合っていたと思う。彼女は時々記憶をたどるような顔をしたり、ため息をついたりしたけれど、黙って私の話を聞いていた。

「・・と、こんなところですが。」

「・・その話にはちょっと間違いがあります。」

間違い?志生が嘘を言ったとでもいうの?何を言いたいの?私はなるべく表情を出さないようにしていたつもりだったが、その言葉にはさすがに反応し、眼をしかめた。

「私が前の主人と離婚したのは穂村君と付き合ってからなんです。」

「!!」

「確かに私たちは、私に子供が産めないことでだんだん上手くいかなくなりました。もともと見合いのような結婚だったので、それを乗り越えるだけの愛情や思いやりも持ち合わせていませんでした。ですが夫は市議会の代議士でしたから、離婚なんていう後々出世に響くダメージはご法度です。私もそれはわかってましたから離婚はできないとあきらめていました。」

「・・・・。」

「ですが、穂村君と個人的に会うようになって・・、最初はお遊びというか、年下のボーイフレンドくらいにしか思ってなかったのですが、だんだん自分の気持ちが穂村君に傾いてきてしまいました。もちろん穂村君は初めから私を一人の女性として扱ってくれましたが、私はあえてそれを避けようとしていました。穂村君にも自分は離婚できないと伝えました。」

・・なんてこった!志生は嘘を言ってたのか。私に気を使ったんだろうけど、どうして嘘なんかついたんだろう・・。それにどうしてそれをこの人から聞かされなくてはならないのだろう・・。何の罰なんだろう・・。    私は言葉を失い、視線も定まらない気持ちになった。もう、何もかも信じられない。志生のことも。自分のことも。できれば目の前の人の言ってることも信じたくない。だけど・・、悲しいけど・・、志生の言ってることはもっと信用できない・・!

「・・穂村君はいつまでも待つと言ってくれました。主人に会うとまで言ってくれましたが・・、その前に興信所を使った主人の親に穂村君のことを知れる所となりました。」

「!(バレたのね)」

「今思えば無理もありません。それまでボランティア活動か主人の用事くらいしか私が一人で出歩くことはありませんでしたが、穂村君と会うようになってから外出が増えましたし、携帯電話も持つようになりました。私はこっそりマンションの1室も借りました。さすがに外を歩くのは憚られたからです。出かける度にいろいろ言い訳を考え、主人は取り立てて疑いもしなかったのですが・・舅姑は私が思うより早くおかしいと思ったようです。穂村君と付き合うようになって半年を過ぎたころ、私は姑に呼ばれ、写真を見せられました。・・あの時のことを思い出すと今でも背筋が寒くなります。全身の血がすべて引いていきました。私は詫びて、こうなったからには離婚してほしいと懇願しました。ですが、先ほども言ったとおりたとえ市議会という小さな集まりでも政治家は政治家です。妻のスキャンダルは夫の不始末と扱われ、夫の出世の大きな妨げになります。姑は離婚は許さない、息子には黙っていてあげるから早く男と手を切ろと言いました。出ないとその男も会社にいられなくなるとまで言われました。」

「・・・・。」

「私は何とか穂村君を忘れようとしました。でもできませんでした。穂村君がマンションで待ってると聞くと、なんとか時間を作って会いに行きました。でもそれも長く続きませんでした。マンションが姑に知られてしまい、しかも私の実家に話を持っていったのです。私の実家と嫁ぎ先はそれこそ祖父の時代からの付き合いでしたから、私一人の不始末でどうこうなる間柄ではなかったのですが、さすがに姑は自分の息子が可哀想になったようでした。それで息子・・、主人に私との離婚を勧めたのです。子供が出来ない理由で。後継ぎがいないのは困ると。私では妻の役目を果たせないと。」





























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