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まぼろしの跡  作者: 樹歩
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第28章―過去までの距離その3―

 ・・・あの人は、富田知紗子さんといって、君の前に付き合ってた人だ。でも、もう2年近く前に別れたんだ。・・・俺の実家は昔からあるボランティア団体に入っていて、俺も活動していた。富田さんとはそこで知り合ったけど、全然話をする対象ではなかったんだ。年も離れてたし・・・え?ああ、彼女は俺より10歳上だよ。うん。

 ある時、なんかのイベントでやっぱ手伝いに行って、その夜は珍しく打ち上げがあったんだ。みんな結構飲んでて盛り上がってたんだけど、富田さんがなんか元気なくて、俺もいつもなら話しかけることはなかったんだけど、その時はたまたま席が向かい合わせで。で、気になって声掛けたんだ。具合でも悪いのかと思って。

 そしたら、まあ、つまり、その時彼女離婚したばかりで・・うん、そう。結婚してたんだ。だって俺がその時25だったから。まあ、何で離婚したのかは・・あとで話す。とにかく彼女がすげえ落ち込んでいて、なんというかこう・・、大人の人なのに小さく見えたんだ。・・・その夜をきっかけに俺たちは個人的に会い始めて、付き合うようになったんだ。仲間からもずいぶんいろんなこと言われたよ。何も好き好んで35のおばさん(35以上の女性の方々、本当に申し訳ありません。私も35を過ぎてます。ご勘弁ください:作者)と付き合う必要ないだろうって。でも、俺は好きになっちゃったんだ。向こうも年のことは気にしていたけど、俺を求めてくれてた。

 付き合ったのは2年あるかないかだと思う。付き合って1年くらいで俺は結婚を意識するようになった。彼女はためらっていたけどね。でも、結婚したいとは思っていてくれてた。だけど、ある理由が障害になった。それが彼女が離婚した理由でもあったんだけど・・・つまり、子供が産めなかったんだ。なんでだか詳しくは俺も訊かなかったけど、とにかく妊娠が不可能だったらしくて、それが理由で前のご主人ともうまくいかなかったらしい。え?・・ああ、そうだね。酷い理由だ。結婚してからわかったんだよ、子供が無理なのを。もちろん1番ショックなのは彼女だったと思うよ。・・・俺は、それも承知で彼女との結婚を決めていた。俺以外にこの人を守る人はいないとまで思った。

 当然俺の両親は大反対した。俺が長男だったからというのもあるけど、離婚経験のある、10も違う、しかも子供が産めない人とは絶対駄目だと。目を覚ませと。・・・うちの親は彼女のことももちろん知ってたけど、母親はもともと富田さんは気に入らないというか、合わなかったらしい。だから余計反対された。俺は家族に祝福される結婚をしたかったから、何度も説得を試みたんだけど、聞く耳を全く持ってくれなかった。ん?何?ああ、そうだね。確かに年齢的には親の承諾なく結婚できるさ。だけど俺はそれだけは避けたかった。彼女のためにもね。でも、そうこうしているうちに富田さんが俺と会ってくれなくなった。携帯の番号も変えられて、団体活動にも来なくなった。ひとり暮らしだったから彼女のマンションも何度も行ったけど、留守か居留守で出て来てくれない。うちの親だけでなく、団体の人たちも誰もかれもが反対してたから、身を引いたんだと思った。もちろん俺は簡単にはあきらめなかったよ。半年近く何とか連絡を取ろうとした。色々調べて、彼女の実家まで電話した。そしたら・・、彼女の父親が出た。そしてこう言われた。”君のような若いだけのただのサラリーマンにすぎない男に娘はやれない。うちの娘は子供は産めないかもしれないが、かといって君にくれるほど落ちぶれちゃいない。失礼だが君の実家もごく普通の家庭だね。商売をやってるわけでもない。君は娘にはふさわしくない。”・・・おい、萌が怒ることないだろ。言われたのは俺だし。富田さんの家は資産家だったんだ。お祖父さんが代議士もやったいた。俺もそれは知っていたけど、彼女の父親に言われるまで問題視してなかった。あくまで俺側の事情で結婚できないと思ってた。だから、彼女も実家から反対されてると知って愕然とした。さすがにこれは無理かなと。・・それに仕事も出張が主流になって、だんだん彼女のマンションにも行けなくなった。俺も疲れ果てていた。しばらくしてから携帯に彼女から伝言が入ってた。さよならって。公衆電話からだったからかけ直すこともできなくて、それで終わり。俺も忙しくなってボランティアもあまり行けなくなって・・・。そして今年萌と出逢ったわけだ。・・・だから、どうして今頃富田さんが俺に会いに来たのかわからない。え?いや、話がしたいとしか言わなかったよ。で俺が、後ろの車の人は俺を待ってるんだと言ったらわかったと言って行っちゃったんだ。本当だよ、約束なんかしてない。萌、前にも言ったけど、俺は誤魔化すのが自分で言うのもなんだけど下手くそだ。上手くない。全然ダメ。だからさっき萌を怒らせた。ここまで話して今さら嘘つかない。約束はないよ。うーん、そうだね。また会社に来ることはあるかもね。でも俺が会社に来ることがそんなにないし・・、いや、ほっておくよ。気にならないと言えば嘘になるけど、どうにもならないよ。それに向こうも車越しに萌を見たら恋人だと気づくだろ?このまま何もないんじゃないかな。・・・・ゴメン、本当にゴメン。嫌な思いをさせたね。でも、信じてほしい。俺にはもう萌しかいないし、何があっても変わらない。過去は過去だ。・・ああ良かった。やっとうなずいてくれた。じゃあ、気を取り直して飯食いに行こう。さっきのレストラン?金払ってきたけど、食ってないよ。食えるわけないじゃん。しばらくあそこは行けないなあ・・、いや、萌のせいじゃないよ。俺が悪い。気にしないで。それより、スゴイ顔だよ。いや今さら隠しても・・。いいじゃん、顔洗ってくれば。いいよ、すっぴんで。萌は充分可愛いよ、化粧しなくても。だから嘘じゃないって。なあ、腹減ったよ。早く行こう。

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