第22章―恋愛のパワー、そして漕ぎだす舟―
出逢って僅かながら、大切にお互いを思ってきた志生と萌。とうとう今回運命が動き出します。頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。
男と女って・・というより人間の性別って本当によくできている。
SEXするたびにそう思う。男と女(同性愛者もしかり)が互いに一番求め合い交わるところは、排泄という日常嫌悪感をもたれやすい行為をするところとほぼ同じなのに、愛する(もちろん世の中にはそれとはまったく関係ないこともあるが)人の身体ならそんな意識は吹っ飛んでしまう。凹凸が重なり合った時の一体感は、SEXだけが持つ、時に言葉をはるかに超えた幸福感をもたらす。キスにしてもそうだ。食物を入れ、咀嚼をし、唾液を出す口の中は、誰でも知っての通り細菌の温床だ。だからもともと匂いがするのは当たり前なのだが、病気の時や内臓疾患があるとさらに臭う。便秘でも臭うときがある。個人的に私は、残念ながら口臭は時に人間関係にも影響が出やすいものだと思っている。だが。しかし。それでさえ愛する人のなら慣れる。最初ちょっと困ってもいつか慣れてしまい気にならなくなる。そして尚お互いの愛情を確かめ合うために、舌までも深くまさぐりあうようになる。恋愛のパワーはそれほど強い。もし神様というものが本当に存在したとして、神様が人間というものを創ったのなら、愛情を表現するところと汚い行為をするところを一緒にしたのは、何らか意図があったように思えてならない。
志生はありがたいことに、体臭も口臭も男性のわりには(男性の方、すみません。一般的にという意味です:作者)少ない方で、体毛も男性にしては少なくて、そのすべすべした筋肉の腕や背中は私を一層とろけさせた。私たちは、ふだん私が一人で寝る一人用のベッドに二人、狭い中を逆に楽しむかのように絡みあっている。それは私に、志生に抱かれながらもまるで大海原に小舟をこぎださせるような気持ちにさせた。・・・やがて彼は世界の果てまで行き、私という海に沈み、そのまま静かに眠りについた。二人の間には刹那の隙間もなかった。
また夢を見るかもしれない・・・。なぜかそんな気がした。あの、海辺の夢。私を呼ぶ声。あれは志生なの?・・・どうか他の人でありませんように。そして眠りがやってきた。
次に目が覚めたのは朝方の4時だった。さすがにまだ暗い。夏なので5時くらいには明るくなり始めるのだろうが、あたりはまだ夜中に近かった。志生はずっと腕枕をしてくれてたようだった。”痛くないのかな”。心配になり頭をずらす。
「トイレ?」
志生が声を出す。
「ううん。腕、痛くないかと思って。」
ずらそうとした私の体を引っ張り
「全然。痛くないよ。」
また私たちはぴったりと寄り添う。
「あ、でもゴメン。トイレ。」
志生が起き上がり、私に覆いかぶさるようにしてベッドの下の下着を取る。私の顔の上に志生の胸がいて、それはそれでなかなかの感じ。
彼が戻りまた腕枕をされて私も彼の身体に手をまわしたとき、突然それはやってきた。
「萌。俺たちずっとこうして生きていくんだ。」
薄暗がりの中で、聞こえた志生の声はなんだか現実味がなく聞こえた。
「え?」
言ってる意味がよくわからなくて聞き返す。
「何度も言わないよ。俺たち、ずっとこうして生きていこう、萌。」
思わずガバッと起きて志生を上から見つめる。と同時に涙がこみ上げる。
「・・・私と?」
「うん。」
「ずっと?本当に?」
彼が私を引き寄せる。
「本当に。もう、嫌だって言ってもだめだよ。」
彼の肌の匂いに包まれながら私はあふれる涙を止められなかった。昨日思ってたことがもう現実になるなんて・・、こんなことって・・。そして志生は私に優しく口づける。私も彼の背中に腕を回す。この人さえいてくれれば何も要らない。何も望まない。
「志生・・・。」
私たちは二人で大海原に舟を出すのだ。二人分の舟を。
・・・・・今思えばあの抱擁が私の人生の中で一番倖せなぬくもりだったかもしれない。