表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まぼろしの跡  作者: 樹歩
16/141

第16章ー観覧車その1−



「観覧車乗りに行こうか。」

朝食を食べながら志生が言った。

「観覧車?」

 かくして私たちはそのまま駅へ向かい、観光地の港を目指した。そこには何年か前は日本一だった観覧車がある。線路は海岸沿いを走っていて、電車の窓から海が見えた。志生は何も話そうとはせず、私も黙っていた。でも志生の右手は、ずっと私の左手を握ったままだった。それだけで私は満たされていた。



 私は窓から見える海を眺めながら、夕べの夢を思い出していた。・・・あれはなんだったんだ?同じ夢だったと思う。でもちょっと違っていた気もする。あの声の人はだれなのだろう・・志生なのだろうか。でも以前見た夢の時はまだ志生と何の関係もなかった。・・あの人なのだろうか。それとも全く違う人なのか。考えても仕方ないか・・あ、なんか同じことを夢の中でも思った気がする。でも本当に仕方ないよね。結局夢は夢なんだもの、確かめようがない。

 私はそれ以上夢について考えるのをやめた。そしてなんとなく隣の志生の顔を見ると、彼は眠っているようだった。ただ目を閉じているだけのようにも見えた。”相変わらず静かだなあ・・”でも彼の寝顔はどんなに見ていても見あきない気がした。とても穏やかな、落ち着いた気分になれた。この寝顔を守ってあげたい、彼の眠りを遮ろうとするすべてのものから守りたい・・そんな気にさせられた。

 でもそんなことが可能なのはベッドの中だけで、実際は私が彼の眠りを遮ることになった。

「志生、志生。もうすぐ着くよ。」

彼がパッと目を開けたので安心した。キョロキョロ周りを見る。カワイイ。

「ゴメン、俺、寝ちゃった。」

「うん、寝てたみたいだね。」

彼は窓の外を見て目を細めた。いい天気。

「暑そうだね。」

「夏だものね。」

本当に外は眩しいような晴天だった。陽に焼けてしまうだろうな・・なんて思う。もう、太陽が怖くないなんて言える年ではない。日焼けは大敵。そんなことを考えているうちに駅に着いた。電車が止まると一斉に乗客が降り始めた。志生は私の手を引いてどんどん歩き出した。



観覧車の前は、わかっていたことだがすごい人だかりだった。いや、観覧車だけではなくて街全体がどこもかしこも人であふれていた。さすが日曜日。

「すごいね。」

志生は半ばあきれたように言った。

「日曜だし・・。」

そこへ遊園地のTシャツを着た男性が通ったので、どれくらいで乗車できるか訊いてみた。

「1時間くらいかな。まだいい方だよ。これから増えてくるから。」

と、そのお兄さんは言った。

私たちは目を合わせて”それじゃあ、待ちますか”とお互い合図した。

並び始めてすぐに飲み物を何も持っていないことを後悔した。暑い・・。7月に入って間がなかったが、もう梅雨明けしたかのような空だった。

「暑いね。」

と、声をかける。が、いない。志生がいない。”えっ?”周りを見回す。いついなくなったの?トイレかな?一言いってくれれば・・・と、急に頬に冷たいものが当たった。”うっ。”向くと志生がジュースの缶を持って立っていた。

「いやあ、暑くて我慢できなくて・・。これ飲めた?」

「あ、ありがとう。いついなくなったのかわからなかったよ。」

「ごめん。だってすぐそこだし。」

なるほど、彼が指をさした方には飲料水の自動販売機が見えた。

「でも、なかったんだよな。ビール。」

ビール?あれだけ飲んでまだ欲しいのか・・というより、昼間からも飲む人なのか・・。でもそれは言わずに(気持ちが解らない訳でもないので)、

「ビール飲みたかったんだ?」

にとどめた。志生は全く動じない様子で

「だって暑いじゃんか。」

と言った。そしてウーロン茶を飲んでいる。私にくれたのはリンゴのジュースだった。私も缶を開け、喉を潤した。美味しい。はあー、と息をつく。

「美味しい・・、ありがとう。」

「これだけ暑いと脱水が怖いからなあ。なあんて、看護婦さんに言うことじゃないか。」

志生は笑っていた。

「ううん、そのとおりよ。恥ずかしいわ。」

「俺は飲む人間だからさ、余計脱水しやすいし喉も渇くんだよ。」

「そうね。よく覚えておく・・ん?」

「何?」

私は彼の顔を見て言った。

「それだけわかっていて、なぜビールなの?余計脱水するじゃない。」

志生はエヘッとでもいうかのように苦笑いをした。カワイイ・・・。そして観覧車の順番がやっときた。並び始めてから50分経っていた。

























 


































































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ