第15章ーデジャヴー
夜中に目が覚めた。一瞬どこにいるのかわからず、そして隣にいる志生を見て「あ、そうだった。」と思った。
…この人に抱かれたのだ…。あたらめて志生の寝顔を見る。初めて会った日、一目で私をとりこにしたあの綺麗な寝顔がそこにあった。そしてやはり、死んでる(この言い方が嫌だけれど他に言い方が見つからない)人の様に寝息も静かだった。"私いびきかいてなかったかなぁ"…と不安になる。昨夜の夜勤もあまり仮眠がとれなかった。帰宅してから少し寝たけれど、志生との約束が気になり深く眠れなかった。しかも酔っていた。"ああ…失敗してないといいけど"。考えたって遅いことをぐずぐず思う。
「どうした?」
突然声がしたのでビックリした。
「ごめんなさい・・、起しちゃった?」
「いや・・まだ夜中だよ・・、眠れない?」
言いながら私を抱きなおす。腕枕ってこんなに心地よくて安心できるものだったっけ・・・。
「ううん。大丈夫。」
私も志生の胸に腕をのばす。ずっとずっとこうしていたい。時間が止まってしまったらいいのに。そしてまた眠りの波がやってきた。
どこまでもどこまでも砂浜が続いている。海は凪いていてとても静かだ。私はぼんやりと遠くの水平線を眺めながら立っている。ふと思う。私はどうしてここにいるんだろうか。何かを探しに来たのか?それとも探すのに疲れて波間に消えるためか?・・わからない。ううん、生きて来て本当にわかったことなんてほとんどない。わからないことばっかり。どうしてなんだろ・・。考えても仕方ないか。今さらわかった所で取り返しがつかないことの方が多いのだ・・。そして歩き出す。ふと、かすかに声が聞こえる気がする。振り返ると遠くの方で誰かが手を振っている。でもそちらの方は陽が差していてよく見えない。それなのに私は反射的に手を振り返す。
「待ってたんだ・・」
やはりその声には聞き覚えがあるような気がする。でも、どうしても思い出せない。私は立ち止り、その声の方へ歩き出そうとする。実際に歩きだす。だけど歩いても歩いても手を振るその人に近付けない。まるで私が一歩歩くとその人が一歩下がっていくかのような感じで、二人の距離は縮まらない。
また私は思う。本当に間に合わないのだろうか?本当に取り返しがつかないことばかりなのだろうか?まだ間に合うものもあるのではないだろうか?ではそれは何なのだろうか?あの人はその答えを知っている。あの人はだれなのだろう?逢いたい、あの人に逢いたい。どうしても逢いたい。今逢えなくても、いつか必ず巡り逢いたい・・・。私は重い足を引きずりながら、捉えるように纏わりつく砂にも構わず歩いて行った。お願い・・・逢わせて・・・あなたに逢わせて・・・!
「萌、萌・・。朝になるよ。」
前触れもなく目が覚める。今のは何?夢?でもあの景色前にも何処かで・・・。どこだっけ?いや、現実だっけ?夢じゃなかったっけ?
「萌?大丈夫?寝ぼけてる?」
志生が心配そうにつぶやく。まだ私は砂浜に立っている心地がする。もちろん私は温かい布団の中いる。砂なんてどこにも付いていない。
「大丈夫。」
絞り出すように声を出す。私は現実を理解している。でも、その一方で私はあの海辺にいる気がする。デジャヴ・・。夢のデジャヴなんて初めて。
ふいに志生の唇が私の頬に来る。一瞬目が合い、お互いの唇を重ねる。深く深く重ねる。体勢が変わり、彼のすべすべした身体が私に覆いかぶさる。全身が炎がついたように敏感になっていくのが分かる。
”志生・・・・・!”
私はすべてを彼に預けながら、頭の奥の意識の中で思った。夢に出てきたあの人は・・、志生なのかもしれない・・・と。