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まぼろしの跡  作者: 樹歩
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第12章ー煙草と世界観、もしくは運命ー

「まぼろしの跡」をお読みくださるみなさん、長い間のお休み本当にすみませんでした。今日、こうしてまた志生と萌をみなさんにお会いさせることができて、私もとても嬉しいです。これからも頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします。樹歩

 その日、私達は街を散歩し、小さな和食の店で食事をしながら軽くお酒を呑んだ。彼は、その見た目とは似合わずに酒好きだった。私もそこそこ呑めるが、彼のペースにはついていけない。しかも酔っている感じがしない。

「お酒強いのね。」

「まぁね。でも、君も女性のわりには呑める方じゃない?」

「そうかな。看護婦ってみんなけっこう呑むしね。」

「あぁ、そうらしいね。それに煙草も吸う人多いんでしょ?」

「…そうね。」

「君は?吸わないの?」

実はずっと煙草を我慢していた。昼間彼が一服する姿を見て、煙草を吸う人だとわかったのだが…男性の多くは女性が喫煙するのを嫌う。正直者が馬鹿を見る、というセオリーが頭を掠める。

 でも、志生に対してはそういう嘘も通じない気がした…というより、必要性を感じなかった。彼が

「煙草やめなよ。」

と言ったらすぐにやめればいいこと…ちょっと待って、私はそんなに聞き分けのいい方ではないので…、

「なんで私だけ?」

なんて突っ掛かってしまうかも…と、いけないいけない。また考え込んでしまう悪い癖。とりあえず、彼の意向を聞いてから考えればいいのだ。

「…あなたは?煙草を吸ってるけど、女性の煙草はどう思ってる?」

言った途端心臓がバクバクと音を立て始めた。これでは自分が吸う人間だとバラしてるようなものだし、いちいちお伺いを立ててるような感じもする。彼の意向を聞く・・・なんてそれはそれで自分の意志が弱いみたいで・・・と、またまた悪い癖が出てしまう。

「え?別にいいんじゃないの?子供じゃあるまいし、俺の関知する所じゃないよ。」

一瞬言葉に詰まる。関知しない・・。

「そ、それは自分には関係ないからどうでもいいってことなの?」

何どもってんだ私。

「ちがうよ。価値観の問題だよ。」

「価値観?」

「つまり、俺の中で女性が、・・つまり、例えば君が煙草を吸う人でも、それは、吸わない人と差がない話なんだ。」

「俺の中での女性を見極める大事なところはもっとほかのことなんだ。それがしっかりしていれば、煙草なんか大した問題じゃない。」

「大事なとこって?」

またもや急に不安になり、思わず志生を見つめる。志生は一瞬うっ、という顔をしたが、すぐに元の優しい表情になり

「大丈夫だよ。」

と言った。

「萌はもってるよ。大事なのを。」

「え、何?それは何?」

「教えないよ。そんなのは俺がわかればいいんだよ。」

「なんで?教えて。もしかしたら志生の勘違いで、私持ってないかもしれないじゃない。教えてくれれば努力するわ。」

彼は頸を横に振った。

「萌、それは努力とか目標とかで造るものではないんだ。自然にあって自然ににじみ出てくるものなんだ。簡単にいえばその人自身の性分の問題だ。・・うまく言えないし、教える気はないけれど、萌はそのままでいい。何も気にしなくていい。煙草も吸っていいよ。」


いきなり話がストンと落ちついていまい、拍子抜けしてしまう。そうだ、もとは煙草を吸う吸わないだけの話だった。でも何か、私は腑に落ちなかった。

「よ、よくわからない・・私に何があるの?あなたにだけわかるものなの?」

「・・俺の説明が悪いんだろうね。言葉も足りないよね、悪い。」

「・・・。」

「簡単に言うと好みの問題かな。いや、こだわりなのかな。」

「はぐらかさないで。」

つい、突っかかったものの言い方になってしまう。心の中に鉛色が広がる。違うの、別にあなたに喧嘩を売りたいわけじゃないの・・。

「はぐらかしてなんかない。萌、俺は何に対してもそうだけど、はぐらかしたり、ごまかしたりしない。もともと下手なんだ、そういうの。たまにあっても、上手くいった試しがないよ。」

彼が丁寧に話そうとしているのが分かる。それを嬉しく思うと同時に、自分の視野の狭さが恥ずかしくなる。彼の言葉が続く。

「誰でもそうだと思うんだけど、好き嫌いとか、正しい正しくないとか、白黒とか、そういうことではなくて、その人独自の世界観があると思うんだ。俺にもあって、俺の好きになる人にはそれを理解できないと無理だし、逆にいえばそういう人じゃなければ俺は惚れない。」

・・・言葉が出ない。

「萌と俺は、確かに出会ってから日も浅い。そんなに話らしい話もしていない。でも、そんなことは関係なくて、萌はまっすぐに心に入ってきた。入ったというより、いつのまにか心にいたんだ。土から芽が出るように自然に。」

志生の話を聞いていると、なんだか不思議な気分だった。私が志生に感じたものと近い気がする。不思議な、でも、輪郭のはっきりした感覚。運命・・。そんなもの、今まで生きてきた中で信じたこともなかったけれど。

「・・ありがとう・・。」

なぜかそう言いたくてつぶやく。彼も黙っている。この”間”をどうしたらいいのか考えていると、彼が尋ねた。

「ところできみは煙草を吸うの?」

























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