潰す
三題噺もどき―きゅうひゃくきゅう。
時計を見ると、まだ時間は半分も経っていなかった。
室内に聞こえるのはシャーペンの走る音と、紙をめくる音。
時折秒針の動く音まで聞こえてくる。
「……」
教師は一通り見て終わったのか、教壇に座って自分の仕事をしているようだ。
今日のあなたの仕事はこの試験の監督だと思うが、それでいいのか。
まぁ、まだこんな早いタイミングでカンニングなんてものをする人はいないか。
「……」
実際にする人が居るのかどうかは知らないが。
生憎この目で見たことはないし、聞いたこともない。
テレビやアニメではカンニングで止められたとか聞くけれど、身近にいないとあまり現実味はないよな。
「……」
そんなことは、どうでもいいのだけど。
今、現実問題として在るのは、残りの時間をどうしてごまかすかという事だ。
教科が国語だったこともあり、引っかかることもなく今回の問題は解けた。
それはいいことだし、見直しもすればさらにいいことだろう。
「……」
しかしその見直しをしたとしても、有り余る時間があるわけで。
こんなに時間が経っていないとは、思ってもいなかった。
せいぜい三分の二くらいの時間は経っているだろうと思っていたのに……まぁ、いい具合に集中できていたという事だろう。
「……」
それはいいことなんだけど、これから先が苦痛になる。
やることがなくなると眠くなるものは、皆同じだと思うのだが。
試験中に寝るのは極力避けたい。教師は見ていないから別にいいと思うのだけど。
―あの子は、いっそ寝ると言っていた。その辺なんというか、抜けている?
「……」
なんとなく、時間をつぶしてみようかと。
ちらりと外を見ると、綺麗な青空が広がっている。
毎日毎日、いい天気ばかりでそろそろ飽きてきた。暑さも相まって、外に出るにも一苦労だ。
「……」
その中で今日も元気に歩いている親子がいる。
暑そうだが、首には何かを巻いているし、日傘もさしている。手にはハンディファンも持って、楽しそうに歩いている。
夏休みに入ってよく見る親子だ。きっと決まった時間に散歩しているのだろう。―いつだったか、子供が片手に風船を持っていて、散歩に?と不思議に思った。きっと休みの日にテーマパークのようなところに行った、そのお土産だろう。
「……」
子供は元気だなぁ……とぼんやりと思う。
私もまだまだ大人から見れば子供だが、あんなにははしゃげない。
散歩ひとつであんなに楽しそうにしてくれるなら、きっと親も楽しいんだろうな。
「……、」
ぼうっと眺めているだけで、ジワジワと汗をかきそうになる。
基本的に窓側の席がよく当たるのだが、試験は名簿順に座るので確実にこの席に座る。
夏は少々暑く、冬場は寒い。
「……」
集中するにはあまり適さない場所だ。
日が当たると眠くなるのもよくない。
集中が切れた途端に睡魔と言うのは、一気に襲い掛かってくる。
「……」
ぼうっと外を眺めていても、徐々に瞼が重くなる。
なんとか持ち直して、とりあえず外を眺めるのはやめて答案用紙とにらめっこをしてみる。
しかしそれもすぐに飽きて、視界の上の方から暗くなってくる。
「……」
手だけでも動かしておこうと思い、問題用紙の隅の方に落書きをしたりしてみる。
あれ、でもこれ回収するんだったか……描きっぱなしにしておくわけにもいかないのか。
思いだし、描いては消して描いては消して、を繰り返してみる。
こういう時に限っていい感じに描けるのは何なのだろう。我ながら可愛い猫が描けたのに消さないといけないなんて……。
「……」
なんとなく、動く気配を感じ、時計を見る。
残り半分。
教師もそれに気づいたのか、もう一度見回りを再開していた。
「……」
横を通り過ぎるときには、一応、それっぽくしていたが。
まぁ、もう答案用紙は埋まっているし、やることないんだろうなと気づかれただろう。いや、案外見てないからなあの人。ただ教室内を散歩しているだけの可能性もある。
「……」
もういっそ寝てしまおうか。
「……」
とりあえず、見直しだけもう一度しておこう。
お題:風船・猫・時計




