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第8話 交渉

 終司は一度小さく息を吐いた。


 この場で答えを求めても、意味はない。


(……そんなことよりもだ)


 終司は軽く肩をすくめると、アヴレインへ視線を向けた。


「学院長」


「なんだね?」


「これから調査を進めるにあたって、一つお願いがあります」


 アヴレインは興味深そうに首を傾げる。


「聞こうか」


 終司はポケットから携帯端末を取り出した。


「これの使用許可をもらえませんか」


 エリューシアの青い瞳がわずかに動く。


「外部との通信ですか」


「ええ」


 終司は頷いた。


「俺には助手が一人いまして」


 少しだけ口元を緩める。


「妹なんですがね」


 アヴレインは目を細めた。


「冴鳴くんか。確か、魔女狩り事件の後……魔力不全になったと聞いていたが」


「知っていたんですね」


「あの事件の後、私は都市の復興と第二世代の対策に追われ君たちとは疎遠になってしまった。だが、忘れたことは一度たりともない」


 アヴレインは静かに言った。


「俺も冴鳴も、目を覚ましたのは事件から三ヶ月くらい経った後でしたからね。退院してから何度か師匠へ接触を図ろうとしたんですが」


 それが叶うことはなかった。


「すまなかった。結果的に、君たちを放置する形になった。それについては謝罪しよう」


「いえ、どのみちお互いにそれどころでは無かったでしょう……話を戻しましょうか。端末の使用、許可して貰えませんか?」


「この学院では基本的に外部との通信は制限している。それは知っているね?」


「ええ、政府直属の施設ですから」


 終司は頷く。


「生徒に配っている端末も、基本的には学院内の人間としか通信できない仕様になっている。旭くんに君と連絡が取れるようにしたのは特例なのだよ」


「その特例を、俺にも許して頂きたい」


 終司は端末を軽く指先で回した。


「事件解決はスピード勝負です。今回みたいな行方不明のケースなら尚更だ。それに……」


 少し肩をすくめる。


「ご存知だとは思いますが、妹は優秀ですよ?」


 エリューシアは興味深そうに終司を見ていた。


 その視線は、どこか値踏みするようでもあった。


「妹さんのこと、随分信頼しているのですね?」


「家族だからね」


 終司は淡々と言った。


「もちろん無制限にとは言いません。外部の通信先は妹一人だけ。それなら管理もしやすいはずです」


 アヴレインはしばらく考えるように沈黙した。


 やがて静かに頷く。


「いいだろう。特例として許可しよう」


「助かります」


「ただし」


 アヴレインは指を一本立てた。


「外部との通信は冴鳴くんのみ。君の端末回線はこちらで管理する」


「何なら、通話内容も録音されますか?」


「いや、そこまではいい」


「ありがとうございます。これで調査が捗ります」


「ああ、期待しているよ」


 アヴレインは穏やかに言った。


 そして少し間を置いて続ける。


「ところで、終司くん。代わりと言ってはなんだが私からもお願いしたいことがある」


「なんでしょう?」


「久しぶりに君の実力を見てみたい」


(……来たか)


 終司は心の中で呟いた。


「探偵として、随分と活躍していると耳にしている。師として、弟子の実力が気になるのは当然のことだ」


「大したことは……」


「魔法を斬る」


 終司の言葉にアヴレインは被せて言う。


 終司の動きが、ほんの僅かに止まった。


「噂で聞いているよ。是非、私に君の成長を見せてほしい。そうだな……」


 アヴレインの視線がエリューシアへ向く。


「娘と模擬戦をしてみないか」


 エリューシアの青い瞳が終司へ向いた。


「私ですか?」


「そうだ。エリューシアなら適任だろう」


 アヴレインは頷く。


「……構いません」


 エリューシアは迷いなく答えた。


「私も、興味があります」


 静かに終司を見る。


「あなたの実力がどれほどなのか」


 終司は肩をすくめた。


「あまり期待されてもな」


「父はあなたのことを高く評価していますから」


(……それはどうも)


 終司は心の中で呟く。


「分かりました。受けますよ、その模擬戦」


「ありがとう。楽しみにしているよ」


 アヴレインは満足そうに頷いた。


「では、場所は私で手配しておこう。時間は今日の夕刻とする」


「それまでは?」


「寮に部屋を用意してある。まずは荷物をおいてゆっくりしたらいい。さて、そろそろかな……」


 アヴレインが言った、その時。


 コンコン、と扉が叩かれた。


「入りたまえ」


 扉が静かに開く。


「失礼します」


 入ってきたのは旭だった。


 終司の姿を見ると、ぱっと表情が明るくなる。


「話はもう終わった。終司くんを寮に案内してあげてくれるかな」


「はい、任せてください。先輩、行きましょうか」


「ああ、お願いするよ。それでは、俺たちはこれで」


「終司さん」


 踵を返す終司にエリューシアが静かに言う。


「楽しみにしてますね」


 その青い瞳はまっすぐに終司を見る。


「……お手柔らかに」


 短く答える。


「それじゃ、行くか」


「はい」


 旭は頷いた。


 二人は学院長室を後にする。


 夕方には模擬戦。


 そして——


 この学院のどこかにいるはずの少女。


 あとは、辿るだけだ。


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