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第7話 出会い

 二日後の昼過ぎ。


 机の上の携帯端末が震えた。


 終司は椅子座ったまま、それを手に取る。


「はい、橘守です」


『もしもし、終司先輩ですか?』


 朗らかな元気な声。


 旭だった。


『学院側の受け入れ準備終わりました。学院長先生から、いつ来てもらっても構わないと言われてます』


「了解。準備は済ませてあるから、これから向かうよ」


『あ、それとですねー』


 旭が続ける。


『制服って、届いてますー?』


「あー、そういえばさっき荷物が届いてたな……」


『学院へはそれを着て来てくるようにと』


「すぐに開けて確認する。学院へは二時間後くらい……か」


『分かりました。学院長先生にはそのように伝えておきますね。それでは終司先輩、学院でー』


「ああ、また後で」


 通話が切れる。


 それから数秒後。


 また端末が震え始めた。


「今日は人気者だな」


 そのまま端末の通話ボタンを押す。


「もしもし」


『学院の受け入れ準備が整ったそうですね』


「ああ、これから着替えてすぐに行く」


『兄さん』


「ん?」


『……いえ、忘れ物はしないように』


「分かってる」


 終司は笑う。


「案外優等生になれたりしてな?」


『それは流石に無理では? 私は他の生徒の方に悪影響を与えないか心配ですよ』


「妹が辛辣なんだが?」


 終司は苦笑する。


「それじゃ、冴鳴。行ってくるよ」


『お気をつけて』


 通話が切れた。


 終司は部屋の隅に置いてあった箱を開ける。


 中に入っていたのは、フロリス魔法学院の制服だった。


 黒のジャケットとズボンに白のシャツ。


 シンプルだが、首に巻くネクタイも高級感のある黒で気品がある。


 そして胸元には学院の紋章。


「今更、学校の制服に袖を通すことになるなんてな」


 服に袖を通す。


 サイズはぴったりだった。


 そのまま鏡の前に立つ。


「……俺、ちゃんと学生に見えるのか?」


 肩をすくめて部屋を出た。


      ♢


 フロリス魔法学院。


 校舎に入り、そのまま学院長室へ向かう。


 扉の前で立ち止まり、ノックする。


「失礼します」


『どうぞ』


 穏やかな声。


 終司は扉を開けた。


「よく来てくれたね、終司くん。よく似合っているよ」


「こんなものまで用意してくれるとは思わなかったですよ」


「期間限定とはいえ、君は今日からここの生徒だからね。当然だよ」


 アヴレインは、制服姿の終司を見て柔らかに微笑む。


「さて、話の前に紹介しておきたい子がいる」


「紹介?」


 終司が首を傾げたそのとき。


 窓のそばに立っていた少女が、静かにこちらを振り返った。


 長い髪がさらりと揺れる。


 淡く光を含んだような桃色の髪は腰のあたりまで伸び、窓から差し込む光を受けて柔らかく輝いていた。


 整った顔立ちに、透き通るような青い瞳。


 その澄んだ瞳が、まっすぐに終司を見つめる。


 黒い制服のジャケットに身を包み、細い首元にはきちんと結ばれたネクタイ。


 どこか気品のある立ち姿に、儚さを感じさせる空気を纏っている。


「私の娘だよ」


 その言葉に少女は一歩前へ出た。


「エリューシア・フラウレスです」


 丁寧に頭を下げる。


「初めまして」


 顔を上げたエリューシアの青い瞳が、まっすぐこちらを見る。


 その瞬間。


 終司の思考が一瞬だけ止まった。


(……嘘だろ)


 胸を貫かれ、血を吐きながら倒れた少女。


 あの光景が脳裏に焼き付いている。


 忘れるはずがない。


 忘れられるはずがない。


 あのまま成長したら、きっとこんな容姿になっていたに違いない。


 それが目の前にいる。


 終司はゆっくりと瞬きをした。


 呼吸を整える。


 表情は変えない。


 動揺も、驚きも、何も見せない。


 終司の視線は一瞬だけアヴレインへ向いた。


 学院長は、いつもと変わらない穏やかな表情で立っている。


(……本当に何もなかったみたいな顔だな)


 あの日。


 迷いもなく、エリューシアの胸を貫いた男。


 終司はその瞬間を、今でもはっきり覚えている。


 血。


 崩れ落ちる身体。


 そして、動かなくなった少女。


(……どういうことだ)


 疑問は山ほどある。


 だが。


 ここへは、旭の依頼を受け調査の為に来た。


(今ここで聞く話じゃない)


 終司は静かに結論づけた。


「……どうかしました?」


 エリューシアが小さく首を傾げた。


「いえ、こちらこそ初めまして。橘守終司です」


 その言葉にエリューシアは少し考えるような表情をした。


「橘守……終司さん」


 一瞬だけ、言葉を探すような間があった。


 小さく名前を繰り返す。


「もしかして、この方があの?」


 エリューシアは静かに言った。


「ああ、幼少の頃に君と共に魔法の鍛錬に明け暮れた私の弟子だよ」


「そうですか……この方が」


「終司くん。エリューシアは、あの時の事故が原因で魔女狩り事件以前の記憶をほとんど失っている」


 それはつまり、今のエリューシアには終司との思い出は何一つ無いということだ。


 終司の表情は、それを聞いても顔色一つ変わらない。


「おそらく、事件のショックによる……精神的なものだと私は考えていてね」


「……そうですか」


「申し訳ありません」


「いや、君が謝ることではないよ」


 終司はその言葉に肩をすくめた。


 やはり、目の前にいるのは——


 あの日、死んだはずの少女……のはずだ。


 そしてその胸を貫いたのは。


(……あなたですよね、師匠)


 終司は一瞬だけ、視線をアヴレインへ向けた。


 これ以上考えても、今は答えは出ない。


(……今はまだいい)


 無理に答えを出す必要はない。


 だが、この再会が何かを崩す予感がしていた。


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