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第20話 狂焔の強襲

「おらよ……っ! まずは挨拶代わりだ。“弾け飛べッ(ヴァン・ブレイズ)!”」


 低く唸る詠唱。


 直後――地面が裂けた。


 爆ぜるように噴き上がる紅蓮の火柱。


 轟音と共に空気が歪み、熱が暴力的に膨張する。


 視界が揺らぐ。


 焼けつく熱が皮膚を刺す。


 終司たちは反射的に左右へ飛び退いた。


 次の瞬間、炎が弾ける。


 地面に叩きつけられた衝撃が遅れて伝わり、黒く焦げた痕が無残に刻まれた。


「な、なんでいきなり攻撃してくるんですか!?」


 旭の声が震える。


 怒りと恐怖が混じった叫び。


「ん? 挨拶代わりだって言っただろうが」


 炎の向こう側。


 ラルスが気怠げに肩を竦める。


 青い髪が揺れ、毛先の銀が火の赤を受けて鈍く光った。


「そんな物騒な挨拶があるわけないじゃないですか!」


「なら、俺を呼び捨てにした罰ってことでいいぜ」


「そ、そんな理由で――!?」


「ははっ、冗談だよ」


 笑う。


 だが、目は一切笑っていない。


 ゆっくりと視線が、終司へと戻る。


 ――獲物を値踏みする目。


「こいつが言ってたんだろ? 腕試しがしたいってよ」


 空気が沈む。


 重く、粘つくように。


「俺はよぉ、昨日の模擬戦を見てねぇんだ」


 一歩。


 靴底が焦げた地面を鳴らす。


「俺にはお呼びがかからなくてよぉ……まぁ、聞いてたとしても興味は無かったかもしれねぇ」


 足元に魔法陣が展開される。


 赤。


 濁ったような、濃密な赤。


「なのによぉ――」


 圧が、膨れ上がる。


「あの最強の証明(エリューシア)と引き分けた、なんて話が耳に入ってくるじゃねぇか」


 空気が焼ける。


 肌に刺さる熱が、明らかに一段階上がる。


「俺ですら届かねぇ、あの能面女とやり合えるやつが……腕試しで来たって言うんだぜ?」


 魔法陣が脈打つ。


 ドクン、と鼓動のように。


「そんなの――この俺が試さずにいられるわけねぇだろうがッ!」


(……戦闘狂(そういうタイプ)か)


 終司は静かに息を吐く。


 理屈は通る。


 だが順序が逆だ。


 この男は、"戦うために理由を後付けする"側の人間。


「壊れるか、耐えるか……どっちでもいい。楽しませろよ」


「先輩、ここは逃げましょう! 下がってください……!」


 旭の声。


 だが――


「おら、行くぞぉ……ッ! “燃え尽きろッ(ブレイズ・アッシュ)!”」


 爆ぜる。


 火球が至近で弾け、炎が一気に膨張する。


 逃げ場を潰すように広がる熱の檻。


 ――だが。


「――遅い」


 終司は、正面からそれを斬り裂いた。


 断。


 熱が割れる。


 炎が左右へ吹き飛び、空間に一瞬の"道"が生まれる。


 そのまま踏み込み、一息で間合いを詰める。


「――お前か?」


 抜刀。


 閃光のような一閃。


 それは、ラルスの胴を薙ぐ刃。


 だが――


 ガキィン!!


 火花が爆ぜた。


「あぁんっ!?」


 籠手ガントレットが刃を受け止める。


 衝撃が弾け、空気が震える。


「お前が、夕緋さんを連れ去ったのか?」


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


 ラルスの動きが止まった。


「……は?」


 間の抜けた声。


「ははっ!!」


 ラルスはただただ笑う。


「俺があの女を攫う? ねぇよそんなの!!」


 蹴りが飛ぶ。


 終司はそれを流し、地面を滑るように後退する。


 靴底が焦げた砂を削る。


「この俺が誘拐犯に見えんのかよ?」


「見えるな」


 即答。


 終司のその返しに、ラルスの笑みが歪む。


「根拠は!?」


「このタイミングで襲ってきた。それだけで十分だ」


 踏み込む。


 一歩で距離が消える。


「ははっ! 雑すぎだろ、その推理はよ……っ!!」


 拳と刃が激突する。


 鈍い衝撃が骨を軋ませる。


「俺は確かめに来ただけだ。あの女には興味ねぇよ」


 押し込みながら、吐き捨てる。


「あいつはダメだ」


「だ、ダメってなんですか!? お姉ちゃんの何が……!」


「滾らねぇ」


 即答。


「闘争心のカケラもねぇあいつじゃ、俺を満たせねぇんだよ」


 そこに嘘はない。


「いきなり襲いかかって来るようなやつの言葉を信じろと?」


 終司は構え直す。


「ああ。俺はただ楽しみたいだけだ。お前みたいに良い匂いのするやつは久しぶりでよぉ……上がってくるぜ……っ!」


「先輩、気を付けてくださいっ!」


 旭の声。


「その人、エリューシア先輩の次に強いですから!」


「ラルス・アングヴァルド。特級序列第二位……四耀の一人」


 リトリが続ける。


「戦闘狂で問題児。規則無視の常習犯」


「おい、本人の前でそれを言うか?」


 ラルスが笑う。


「っていうか! ここは魔法禁止区域ですよ!?」


 旭が叫ぶ。


「規則上は即ペナルティ。それも、かなり重めのね」


 リトリが補足する。


 だが――


「は? だからなんだよ」


 ラルスは鼻で笑った。


「バレなきゃ問題ねぇし、バレてもどうせ止められねぇ」


 魔法陣が膨れ上がる。


 赤が濃く、濁る。


「それに――」


 歪んだ笑み。


「止められるやつがいるなら、そいつと戦えるってことだろ?」


(展開位置は――後方。巻き込み前提か)


 その狙いに、終司は気付く。


「……最初から、それが狙いか」


 踏み込む。


 一直線に炎の中心へ。


「ほらよ!」


 ラルスが嗤う。


「避けりゃそこの二人が焼けるぜッ!? どうする!!」


 放たれる。


 紅の奔流。


 逃げ場は、ない。


「――っ!」


 旭が息を呑む。


 リトリは動かない。


「……決まってるだろ」


 ――断。


 炎が裂けた。


 真っ二つに。


 左右へと弾け、灼熱の中に道が生まれる。


 その中心を――終司は駆け抜ける。


 一瞬で間合いを奪う。


 刃が閃く。


 それはそのまま、ラルスの頬を浅く裂いた。


「……ッ!」


 ラルスの目が見開かれる。


 そして。


 歪む。


 歓喜に。


「――ははっ」


 肩が震える。


「最高じゃねぇか……!」


 そのまま距離を取る。


 だが視線は外さない。


「やっぱ当たりだわ、お前」


 炎が膨れ上がる。


 空気が熱で悲鳴を上げ、景色が歪む。


「四耀だろうと関係ない」


 終司は静かに言う。


「俺が知りたいのは、お前が犯人かどうかだ」


 一瞬の静寂。


 そして。


「ははははっ!!」


 ラルスが笑い出した。


「意味分かんねぇよ……!」


 だが、その笑みは狂気に近い。


「でもよ――」


 魔力が爆発的に膨れ上がる。


「おもしれぇ……」


 空気が唸る。


 聖堂前の空間そのものが軋む。


「もっと見せてみろよ……ッ!!」


 その瞬間。


「――そこまでです」


 感情のない声が、二人の間に割り込んだ。


 二丁の拳銃の銃口が、それぞれの顔面へと向けられる。


「お二人とも、武器を下ろしていただけますか?」


 有無を言わせない距離。


 その一瞬で、先ほどまで渦巻いていた熱が――嘘のように、消えた。


 まるで最初から、何も起きていなかったかのように。


 ただ一人。


 突如として現れた彼女――エリューシアの存在だけが、この場のすべてを支配していた。

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