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第11話 示された実力

 模擬戦が終わっても、第三訓練場のざわめきは収まらなかった。


 観客席のあちこちで声が上がり続ける。


 終司は軽く肩を回した。


「先輩!」


 旭が小走りでやってくる。


「あのエリューシアさんを相手に……ほんとに凄かったです! 先輩は凄腕だとは聞いてましたけど、想像以上でした!」


「それはどうも。身体の方はあちこち悲鳴を上げてるんだけどな」


「大丈夫ですか?」


「なんとか。来て早々に病院送りにならなくて良かったよ」


 終司は苦笑する。


「……観客を用意してくるとは思わなかったな」


 そう言いながら観客席を見上げる。


 視線が集まっている。


 驚愕と好奇心。それと、純粋な興味。


 外から来た魔法使いが、学院が誇る四耀と引き分けたのだ。無理もない。


「完全に注目されちゃってますね」


「みたいだね」


「これ……大丈夫なんですか?」


 旭は少し不安そうだった。


 その時だった。


「いやはや」


 後ろから声がする。


 振り返ると、アヴレインが歩いてきていた。


「実に見事な戦いだった。卓越した剣術に魔法を織り交ぜた戦闘スタイル……見違えたよ」


「恐縮です」


 終司は軽く会釈する。


「これで、そちらの体裁は整いそうですか?」


「十分すぎるほどだ」


 アヴレインは満足そうに頷いた。


 その視線が、一瞬だけ鋭く細められる。


「生徒たちにも、良い刺激になっただろう。並の生徒ではエリューシアを相手に一分ともたないのでね」


「学内戦でも無敗ですからね……エリューシアさん」


 当の本人であるエリューシアは、何食わぬ顔で佇んでいた。


「終司さん」


 彼女がこちらを見る。


「次は本気を見せてくださいね?」


 終司は肩をすくめる。


「出来ればもう君とはやりたくないな」


 エリューシアはわずかに微笑んだ。


「あら、それは残念です」


 アヴレインがその様子を眺めながら口を開く。


「どうだったかな、エリューシア。何か思い出したりは?」


 彼女は首を横に振る。


「いいえ、何も」


 その青い瞳が、もう一度だけ終司を見る。


「そうか、終司くんと戦えばもしかしたらと思ったが……」


「……ごめんなさい」


「気にするな。さて、この場は私とエリューシアで鎮めておこう。終司くんたちは裏から出ていくといい」


「ええ、そうさせてもらいます」


「寮でゆっくり休んでくれたまえ。また何かあれば連絡を入れる」


「分かりました。行こうか、旭」


「あ、はい! 裏口はこっちですー!」


 アヴレインたちにその場を任せ、終司と旭は裏口へと向かう。


 足を進めながらも旭が小声で言う。


「やっぱり、すごい注目されてますね」


 周囲の生徒たちが、裏口へと向かう終司を見ながら何か話している。


 この様子だと、今日の模擬戦の話はすぐ学院中に広がるだろう。


「こんなに目立ったら、調査に影響が……」


 旭の言葉に、終司は少しだけ考えた。


 そして小さく笑う。


「……いや」


「え?」


「むしろ好都合だ」


 旭がきょとんとする。


「目立つのは何も悪いことばかりじゃない」


 終司は観客席を見上げた。


「噂っていうのは広がるのが早い」


「それは……そうですけど」


「なら、その噂に手を加えてやればいい」


「手を加える……?」


 旭はいまいちピンと来ていないのか、きょとんとした表情を浮かべる。


「橘守終司は、霧城夕緋と会いたがっている。その為に学院へ来た」


 旭が固まる。


「え……?」


「例えば、聖女の結界……"結盾プリヴェンティア"に挑戦したい、とかね」


「そ、そんな……」


「実際、夕緋さんを探しているのは事実だろ?」


「つまり、嘘には本当のことを混ぜたほうが信憑性が増す……ということです?」


「正解」


 終司はさらりと言った。


「これから夕緋さんのことを調べて回れば変な噂も立つ。なら、先にこっちから流してやればいい」


 視線を旭へと戻す。


「それに、夕緋さんの話題が出ればどこかで情報が上がってくるかもしれない」


 最近見ていない。

 

 どこかで見かけた。


 そんな小さな噂でもいい。


 人の口に乗れば、情報は自然と集まる。


「あの人のせいでこうなったんだ。こっちも利用させて貰わないとフェアじゃないだろ?」


 旭はしばらく呆然としていたが、やがて苦笑した。


「ふふっ、終司先輩……」


「ん?」


「先輩に依頼して、良かったです」


 終司は肩をすくめる。


「そういうのは、ちゃんと成果が上がった時に報酬と一緒にお願いするよ」


 裏口から外へ出ると、終司は腕をあげて軽く伸びをする。


 既に日は沈みかけていた。


「今日はこれで解散ですか?」


「ああ、戻って冴鳴にも報告を入れておきたいしね」


「冴鳴さん……先輩の妹さんなんですよね?」


「そうだよ。旭が最初に連絡をくれた時に、対応したのが冴鳴。うちの事務は全部あいつに任せてるから」


「普段は事務所にいらっしゃるんです? この間はお会い出来なかったですけど」


「……いや、あいつは実家で暮らしてるんだ。そこからこれを通じて色々とね?」


 終司はポケットから携帯端末を取り出してひらひらと見せる。


「旭も今日は疲れただろ? 明日からは聞き込みもしていきたいし、ハードになる。戻って休んでおこう」


「りょーかいです。では、明日の朝は寮の前で待ち合わせましょう。九時くらいでどうです?」


「問題ないよ。それじゃ、寮へ戻ろう。確か、こっちだったよな?」


「ですです。本当にもう学院内の地図が頭に入ってるんですねー」


「地理の把握は基本だから」


 二人はそんなことを話ながら、寮への帰路へと着いた。


「着きましたねー。では、また明日です。先輩」


「ああ、また明日」


 旭と別れ、終司は寮へと戻った。


 部屋に入ると、静けさが戻る。


 終司は椅子に腰を下ろし、端末を取り出した。


 履歴からその番号を呼び出し、通話を飛ばす。


『おつかれさまです。兄さん』


 三コールと待たずに冴鳴が出る。


「ああ、本当に疲れたよ」


 ため息混じりに椅子の背にもたれながら続ける。


 学院生活初日の冴鳴への報告会は、長くなりそうだ。


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