少年の日常(2)
———あの日から1週間が経った。聖麗の心には暗い雲がかかっていた。学校に行くまでの道のりがとても重い。逃げ出したい。でも逃げられない。いつもと変わらないイジメ、助けてくれない大人達。
あれから勇気を出して先生に相談しようと声を掛けたが、聖麗を目にした途端、冷ややかな目をした先生から返ってきた返事は
「今、忙しいの。後にしてくれる?」
その後、先生は足早に去っていった。
今まで持っていた希望も打ち砕かれたそんな時、休憩時間に廊下でとある話し声が聞こえた。
「ねえねえ、知ってる?『悪魔召喚』の噂」
「知ってる!何かの配信?がきっかけなんだって?確か、どんな願いも叶うんでしょ?誰も成功した事ないって聞いたよ?」
「でもあのヴァルっていう配信者がやってみたら、めっちゃ変な声入ってたんでしょ?きっとただの噂じゃないよ」
悪魔召喚?聖麗は初めて耳にする言葉に興味を持ち、つい聞き耳をたてる
「確か手順は………」
何故かは分からないが、覚えておかないといけない。そんな勘が働いた聖麗は必死に覚える。
今日、帰ったら挑戦してみよう。聖麗は決意した。少しでもチャンスがあるのなら、悪魔でも何でも縋りつきたい。
その時誰も気づくことはなかったが、何かが導くように外では黒い影が目の前を通り過ぎ、窓を揺らした。
「?気のせい?なんか一瞬窓が揺れなかった?」
「えー?風が強いんじゃない?校舎めっちゃ古いし」
「それもそっかー。あ、ヴァルの配信で思い出したんだけどさ………」
弾んだ会話から離れた後、もう一度聞こえた悪魔召喚の手順を頭の中で反芻する。ノートに書きたいところだが、聖麗の目の前でノートをビリビリに破られた日の事が頭によぎる。書いた瞬間を誰かに見られてしまえば破られるのは確実だ。
聖麗は教室に戻り、授業が始まる前にノートを破った後、名札の裏に小さな文字で手順が書かれた紙を糊で貼り付けた。名札なら触られることはないだろう。今までの経験から聖麗は行動した
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授業も無事に終わり、下校する時間になった。空は曇っているが、雲の隙間からは光が差していた。光の差す空を見上げた聖麗は、楽しみと緊張が混じった感情に戸惑いつつ帰る。いつもは帰りたくない思いから重かった足取りが今日は何だか軽かった。
家に着くのも足取りが軽かったからなのか、思ったより早く着いた。
ドアに鍵を差し込もうとした時、聖麗は父親の恐怖が脳裏によぎる。もし父親が家にいた場合、悪魔召喚の儀式を試すことが出来ない。
大きな物音を立てようものなら、自室に怒鳴り込んできて頭を殴るだろう。あの頭にきた衝撃を思い出すだけで、過呼吸になりそうだ。
大丈夫。今日は何となくだけど大丈夫な気がする。
なぜかそう確信が持てた聖麗は家に入る。
「ただいま」
家に少し震えた声が反響する。薄暗い家の中には人の気配がない。聖麗の勘は当たったようだ。
緊張が解けて小さく息を吐く。
今のうちに、父親が帰って来る前に試してみよう。
成功するはずがない
そう心の中に渦巻く感情と
願いを叶えたい
という感情がごちゃ混ぜになりながらも、聖麗は儀式に必要な物を探す。家の中が泥棒に漁られたかのような惨状になるほど探したが、
いつ父親が帰って来るか分からない。きっと怒られるな、と思いながら自室に入った。
このチャンスは逃したくない、その一心だった。
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