あの日から
小説を書き始めたのは高校に入ったくらいからだったと思う。人と会話するとしょっちゅう言い争いを起こす程、言葉がたりずズバズバ言ってしまう彼女からは想像もつかない上手い文章を書いた。思えば、読書感想文なんかもよく入選していたような気がする。
ネット上では「月子」というペンネームを使い、小説も結構人気がある。そして、月一に更新していたのが、『あんだーぐらうんど』。ファンタジー小説で、国家保護下「アンダーグラウンド」にいた主人公が、ある日外の世界へに辿り着き、世界を見て回りはじめるというあらすじである。人物のキャラ設定や世界観が上手く、何よりもキャラ同士の会話がそれぞれの性格をよく掴んでいた。
今にして思えば、会話の苦手な彼女の練習場所のような感じもする。もう確かめる術はないが。
私も、月子のファンの一人と言えるかもしれない。毎日家に帰ると更新を確かめて、新しい話がでていると真っ先に読んでいた。そこは思いのほか更新がマメな方で、月にニ、三話は更新していた。
学校に来なくなってからは、さらにその頻度は上がった。
里香が学校に来なくなったのは三学期に入った頃だった。原因はあれだろうか。ただ一言で表すならば、里香の『不器用』が招いたことかもしれない。
里香と私は幼なじみで、高校まで一緒ということもあって、彼女の性格は大体把握しているつもりである。典型的な「大人しい」子と言われる私とは対称で、喜怒哀楽の変化が強かった。そして、よく笑っていた。
彼女が学校に来なくなってから、私は毎日里香の家に寄った。彼女の母親が迎えてくれて、部屋に着けば、所謂「引きこもり」とは無縁のような笑顔の里香がいた。お菓子を持って来ないと口を尖らせたその顔は、高校生と呼ぶには少々子どもっぽかった。しかし、毎日外へでる訳でもないのに化粧はきっちりされていて、どうしてか嬉しかった。
昔と変わらない里香を見ては、いつかまた、一緒に学校に行って馬鹿らしい話をして笑って……そんな日常が戻ってくると、そう思っていたのだ。
里香が死んだと思われるその日、桜の芽が少し出始めた頃だった。冬の空気が去りつつあったその日、暖かさに浸る前に、永遠の冷たさに身を投じた。
葬儀には私も参加して、焼かれる様をただぼんやりと眺めていた。クラスメートが数人、それと担任の先生もいた。彼らが涙ぐむその姿も、ただ眺めていた。
現実感がなかったのだ。こんなに日差しが暖かくて、少しだけ眩しくて、人々は少し浮き足立っている。そんな日に人が一人自殺したなんて、信じる方が難しい。
結局涙がこぼれたのは寝る前だった。彼女がいたら、「タイミングずれてるじゃん」なんて笑っただろう。なぜそのとき流れたのかも、どうすれば止まるのかも、分からなかった。
数日後、里香のお母さんが一つのUSBを手渡しながら、
「いつでも来てね。待っているから、私も。……里香も」
と言って微笑んだ顔は固かった。
受け取った一つのUSBを手に、歩きだした。
自分でも固いのが丸わかりな文書……。更新遅くなりました。