第08話 前屋敷の生活
「やあ佐々木君。どうだい? 風花とはうまくヤってるかい?」
ニセ初夜から数日後、孝由さんが俺に話しかけてきた。
結局俺は、風花様と近いところにいた方がいいだろうという事で、自分の部屋のものを、ほとんど前屋敷に持ち込み、そこで孝由さんの研究を手伝う事にした。孝由さんも、俺がいろんなデータ処理を手伝ってくれるので助かるらしい。秘密保持の事もあって学校もしばらく休学としたのだが、拓真は当然怒っていた。
「はい、ぼちぼち。ですがこの部屋って、隣が孝由さんですよね? 声とか聞こえちゃってたら……とかちょっと思っちゃいますけど」
「ああ、ご心配なく。風花が君の部屋に行く日は、僕、外に出てるから。自慢じゃないけど、外に秘密の恋人もいるんだよ」うわー。でもそれ、浮気にはならないのか?
「それでね。江田地区の調査なんだけど、君のお父さんが頑張ってくれててね。結構いい感じで調査が進んでいる様だよ。この前は、君にどこまで話していいのか分からなかったんで、あんな言い方したけど……イブ・メイカーの研究は、今でも僕のメイン業務さ」
「そうだったんですね。でも、イブ・メイカーっていったいどんなもんなんでしょうか?」
「五百年前のやつは、あくまでも理論だけだったしね。だが災禍の後、あれを本気で研究した国は両手で足りないくらいあったと思うよ。そして国連主導で、エデンというところが中心になって、各国の研究成果の統合を始めたと伝承されている。それが日本らしい所までは分かっていたんだけどね。そして各国の研究成果がどれほどのものだったのか……今のところ、全貌は全く分かっていない」
「それじゃ、蓋を開けたらやっぱり使えないとかいう事もありえるんですかね? それにエデンが江田だとして、なんで核攻撃受ける様な所に?」
「そうだね。だが結果がどうであれ、今の世界はこのままじゃいけない。わずかな望みにもかけてみるさ。それに核攻撃だって、エデンが目標だったのかどうかなんて全く分からないよ」
「でも、どうしてうちの荘でその研究を? もっと他の荘にも手伝ってもらったり、国に補助してもらう方がやりやすいのでは?」
「うーん」そういって孝由は、いっしゅん口ごもったが言葉をつづけた。
「今の君にいろいろ伝えられないのだが……まあ、国や各荘が、みんな同じ考えで動いているわけではないという所かな」
そうなんだ。でも俺も国や他の荘の様子はあまり知らない。
「それで孝由さん。あのディスクに入っていた三体のケモミミモデルなんですけど……イブ・メイカーって、人間の女性用ですよね?」
「いやー。今は何とも言えないけど、もしかしたら、モフモフとかしっぽとかもDNAレベルで制御出来るものだったりして……君はそういう方がいいのかな?」
「あ、いえ……嫌いじゃないですけど。出来れば、実家に置いてあるメグたんとかも実体化出来たらすごいかなーとかは思ってます」
「メグたん? はははは……」孝由さんが高笑いをした。
◇◇◇
俺が、前屋敷住まいになってから三ヵ月程経過した。
風花様は、最低週一回。排卵予定日が近いと連日、夜、俺の部屋に来ていっしょにゲームをしたりしている。いろんなゲーム機を持ってきてよかったな。こうしていっしょに遊んでいると、姉というのはこういうものなのかなとも感じられている。もちろん、俺と触れあう努力も重ねていて、最近は肩や背中に俺が触っても大丈夫みたいだ。
そして今日は、二十時過ぎには来ると連絡があったのだが、風花様が部屋にお客様を連れてきた。
「鏡矢―。今日のスペシャルゲストー」
風花様がそう言い、後ろからちょっと背の高い女性が入ってきた。
「えっ!? 皐月嬢?」
俺は慌てて、椅子から跳ね起きた。
「あー、これが生鏡矢君かー。こんにちはー。私の事、覚えてる?」
ビデオ面接の時と変わらない笑顔だ。
「は、はい。もちろん。でもなんで皐月嬢がここへ?」
「言ったじゃん。皐月姉は友達なんだって! 皐月姉は、あんたが私向きだって思って、せっかく自分の公募候補だったのを、私に回してくれたんだよー」風花様がそう言った。
「えー!?」俺は、心の底から驚いた。
「鏡矢君、ごめんね。私、風花様から子種の事相談されてて、君なら相性よさそうかなーって思って、泣く泣くゆずったんだよー」
皐月嬢が、風花様の顔を見ながら恩着せがましくそう言った。
ああ、俺と風花様は、皐月嬢もだましてる事になるんだ……。
「あの、それでご用件は? まさか俺を風花様から取り戻しに来られたとか?」
「ははは。それもありかもだけど……お陰様で、妊娠十週目なんだ。だから女の子が生まれる様にお祈りしてね」
ああ、そうか。あの公募で皐月嬢は懐妊されたんだ。
「それで、今日の要件は、これ!」そう言って、皐月嬢は以前、明さんが海中から回収したディスクと同じ様なものを出した。
「これ。ハネダ沖で前に見つけた奴と近い所にあった別のコンテナから出て来てね。佐々木さんには、泊りで青葉区にいってもらっちゃってて、それなら私が直接あなたに頼んだ方が早いかなって思ったんだ。ああ、でもあなたの顔が見たかったのも本当だよ」
「……ハネダ沖の遺物をなんで皐月嬢が?」不思議そうな俺に風花様が説明した。
「何言ってんのよ。あんたの父親の上司は皐月姉でしょ?」
あっ! そう言えば……土木課って、発掘調査も管轄だったんだっけ。
明さん。最初から皐月嬢が自分の上司だって分かっていて俺を応援してたのか。
「という訳で、トップシークレットものの可能性があるから、とっとと解析しなさい。私は、あのゲームのステージ進めておくから!」
「あれ? 風花様。鏡矢君とエッチはしないの?」皐月嬢が不思議そうに尋ねる。
「な、何言ってんのよ! するに決まってるでしょ!! でも、まずは解析が先よ……」
「はいはい。そんなに照れなくも……お邪魔虫は退散するわね」
そう言って、皐月嬢は部屋を後にした。




