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第06話 御領主様

「なんでそうなるのさ!?」

 領主様の(しょう)になる事を話したら、拓真が顔を真っ赤にして怒っている。

 そりゃそうだ。領主様の妾になるという事は、将来、拓真と所帯を持つのが難しくなる。


「すまん拓真。何がどうしてこうなったのか俺にも実はよく分からないんだ。なぜか偶然が重なって領主様に気にいられちまったみたいで……赤紙なんで拒否も出来ないし」明さん達とも話し合ったのだが、今回の詳細な顛末(てんまつ)は外では秘密という事にしている。


「そんなの拒否っちゃえば!? でなければ僕がどっかから何か病気貰ってうつしてあげるよ。梅毒でもAIDSでも……」

「おい、そんな短絡的な事はやめろ! お前も無事じゃすまないだろ。それに、あくまでも妾だ。ずっとお側にいっぱなしという事でもないだろ。様子が分かったら、必ず連絡するからさ」

 

 拓真はしばらく考えこんでいたが、やがてこう言った。

「……キスして……」

「えっ?」

「だから、キスして!! 僕の事を忘れないおまじない!」

「ああ……わかったよ」

 そして俺は拓真と唇を合わせ、当面の別れの挨拶とした。


 ◇◇◇


 俺は指定された日時に、前屋敷に出頭した。

 検疫こそなかったものの、前回同様全身消毒の上、着衣を替えて中に入った。

 そして今回は、個室ではなく大きな応接に通された。

 

「佐々木鏡矢様。ようこそいらっしゃいました」

 後ろから声がして振り返ると、かなりご高齢だが和装で整った顔立ちの上品なおばあさんが立っていた。


「私は、女官長のタチバナと申します。最初はいろいろ戸惑われるでしょうが、分からない事は何でも聞いて下さいね」

「はい。こちらこそ宜しくお願い致します。本当に分からない事だらけで……」

 女官長って事は領主様の側近中の側近だ。でも優しそうな人でよかったな。


 荘園の女性は基本的に一生をパレス内ですごす。出産適齢期を過ぎても女性はパレス内で仕事を続け、その一生を終えるのだ。


「御領主様がお見えになる予定なのですが、会議が押してしまっている様ですので、しばらくここでお待ち下さい」そう言われて応接に腰を掛けお茶を戴いていると、タチバナさんが話掛けてきた。


「あの。大変失礼な事をお伺い致しますが、佐々木様はまだ女性経験をお持ちでないのですよね?」


「あっ、はい……」

「御領主様は、何と申しますか……草食系とでも申しましょうか。性行為にあまり積極的ではございません。ですから経験の少ない方がお相手しても……その……うまくいくのかがちょっと心配でございまして……」

「ああ、先日のビデオ面接の時も、そんな事をおっしゃってました。まぐろだって……」

「まあ、なんと。殿方にそんなお下品な事を……でも、佐々木様もご承知とあれば問題ないでしょう」

「はあ。一体なんのお話で?」

率直(そっちょく)に申し上げます、佐々木様。

 御領主様と(まじわ)われる前に、私で性技の練習をいたしませんか?」

「えっ!?」俺は混乱した。

 いやでも、タチバナさん……おばあちゃんだけど、確かに上品で優しそうだし……最初にいろいろ教えてもらうにはいいのかな?

 そんな事を考えながらドギマギしていたら、いきなり後ろで扉が開いた。

 

「こら、タチバナ!! 何、私の妾を口説いてんのよ!!」

 あっ、風花様だ……。


「あ、あの。風花様これは……」タチバナさんがめっちゃ慌てている。

「もう、しょうがないなー。若い男性が目の前に現れたら即、入れ食いとか……それならあなたも、ちゃんと公募かければいいじゃん!」

「いえ、そうは申しましても、女官長ともなりますと、この歳でおいそれと公募は……」

「だからって、前屋敷(ここ)の中で勝手に男食っちゃだめだよ」

「はい……以後、気を付けます」

 タチバナさんは、しゅんとなって部屋を退出した。


「はは。びっくりした? 佐々木君」風花様が、俺の向かい側にトンっと座った。

「でも私も、もう少しタチバナを見習わないとなとは思ってるんだ。何歳いくつになっても現役でありたいって……なんかかっこよくない?」

「そうですね……それで領主様。今回の招集令状の件ですが、これってやっぱり、あのイブ・メイカー絡みですよね?」

「おお。君やっぱり賢いね。お父さんとも話をしたのかな?」

「はい。それがどんなものかは分かりませんが、御領主様と旦那様がひそかに調査・研究されているのだろうという事は理解しているつもりです。それで私は何をすればいいのでしょうか?」


「私を呼ぶときは風花でいいよ。ご領主様とか堅苦しいし。それで、君を呼んだ理由の第一は、私と交わって子供を設ける事。そして第二が、イブ・メイカーの調査・研究の手伝い。

 君、メカとかデータ処理に詳しいんだってね。今のご時世、うちの荘園内でそんなスキル結構レアなんだよ。頑張って協力してね」

「あの……第二はまあいいんですが、その第一って……私が御領主もとい風花様とエッチするという事ですか?」

「他に何があるのよ。女子を妊娠するには直接身体を交えるしかないんだし……面接の時にも言ったけど、領主としては他の女性にばかり出産を押し付ける訳にもいかないのよ。それとも何。あんた、私とじゃ嫌だと!?」


「いえ、決してそんな事は……ですが先日旦那様にもお会いしたばかりで、何と言いますか……」

「なんだ。孝由さんに遠慮してるの? なら心配無用よ。

 あの人()()だし。私もまだ()()だし……」

「はいっ?」俺は眼が点になったのが判った。


「ああ、これは絶対秘密だかんね。私、あんたとエッチするつもりだから先にバラすけど、タチバナにも言っちゃだめよ……ちょっとワケ有りで、孝由さんとは偽装夫婦みたいになっちゃってて、まだ性交渉も一度も……それでさすがにこれだと荘園のみんなを騙しているみたいな感じになっちゃってて……」

「それで、取り急ぎ子造りもという事ですか?」

「まあ、取り急ぎっちゃあ取り急ぎなんだけど、相手が誰でもいいって訳じゃなくて……あんたならいいかなって……あの皐月姉が結構推してくれてたし」

「ああ……なんかすごく光栄です……」俺は自分の頭から湯気が噴出しているのが判った。


「それじゃ鏡矢君。今夜、よ・ろ・し・く・ね!」

 そう言って、風花様は応接室を出て行かれた。



※今のところ一週間置き位で、のんびり連載予定です。気長にお付き合いいただければ嬉しいです。

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