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第51話 生き別れ

「鏡矢達、うまく逃げられたかな。取り合えず私があいつら引きつけておかないと……」

 三人の中では自分が一番身軽であり、獣人としての身体能力もある。自分があの追手を引き付ける事で、鏡矢とマイカを出来るだけ遠くに逃がしてから合流すればよいと風花は考えた。案の定、追手の連中は岩場の中では大層動きが鈍い。草履なんか履いてくるからよ。スニーカーで来られたら危なかったわね。

 

 だがしばらくして状況が変わった。追手とは一定の距離を保って挑発していたはずなのだが、いつの間にか間合いが詰められている? なぜだ!? 不思議に思って遠目で観察すると、あっ、あいつら裸足じゃん! 一応脳みそはついてたか……。

 しかし動ける様になって調子に乗ったのか、一人、火山灰に足を取られて岩場の隙間に飲み込まれた様だ。他の連中が慌ててるわ。あーあ。ざまぁ無いわね。それじゃこの辺でいいかな。私も先を急いで鏡矢達と合流しなきゃ。

 

 そう考えて逆を振り返って踏み出したその瞬間。風花の足元の火山灰がサーッと崩れ落ちた。

「しまった!! 下が空洞だ!!」

 慌ててどこかに捕まろうとするが、手が届く所に何もない。

「いや。このまま飲み込まれちゃう!! 鏡矢……」 

 風花は声も立てずにそのまま大岩の隙間に落ちていった。

 

 ◇◇◇


 すでに陽が暮れて月も出ていない為、周囲はほとんど見渡せない。風花様が指定した集合場所にはまだちょっとあるが、この状態で歩きまわるのは危険だ。追手の気配は感じられないが、風花様はちゃんと逃げられただろうか。彼女は多分、自分をオトリにして俺達をに逃がしてくれたのだと思うと胸が苦しい。

「夜中にこのまま進むのは危険です。マイカさん。今日はここで野営しましょう」

 俺は比較的大きな岩が平らに重なった場所を見つけ、地面ももしっかりしている事を確認して腰を下ろした。マイカさんはさっきから一言も口をきかない。よほど怖かったんだろうな。でも水を一口飲んだら、ふっと息を吐いてからマイカさんが呟いた。

「風花さん。大丈夫でしょうか?」

「多分心配いりません。あの人、見かけ通り獣人ですから身体能力も俺達より数倍上なんです」数倍と言うのは大袈裟なのだが、そう言った方がマイカさんも安心するだろう。それに俺も、そうであれと信じたい。


「それじゃ、とっとと休んで、陽が昇ったらまた移動を始めましょう。マイカさん。今日の所は寝袋を繋がずに一人一つでいいですよね」

「あの鏡矢さん……出来れば繋いで一つにしていただけませんか。私、どなたかに触れていないと不安で……」

 ああ。やっぱりそうなんだ。マイカさんって人肌恋しい甘えん坊なんだな。だがそれって……俺はちょっと違った意味で緊張するな。もちろん、風花様がいないからって彼女を襲ったりは絶対しないけど。


 真っ暗闇の中、寝袋の中に二人で入る。風花様がいない為いつもより広くはあるが、マイカさんと俺は手を繋いでいる。いやー俺。これ、興奮して寝られないんじゃないか? 

 突然、マイカさんが俺の右腕にしがみついて来た。えっ? マイカさん。近い。近いって。

 彼女の柔らかい胸が俺の右腕に密着している。諏訪湖でおぶった時にも感じたが、絶対風花様より大きくて柔らかいのは間違いないのだが……マイカさん。震えてる?


「あのマイカさん。震えてるみたいですけど寒いですか?」

「あっ、鏡矢さん。ごめんなさい。私、今日の事思い出したら怖くなっちゃって……」

「もう大丈夫ですよ。追手はここまで来ません。俺が見張ってますから、安心してお休み下さい」

「ですが私。あんな男達にもし捕まったらどんな事をされるのか。それを考えたら怖くて不安で……私、男にあまり免疫ないですし」

「ははは。でも俺は大丈夫そうですよね。まあマイカさんからは男に見られてないだけかな?」

「そんな事無いです! 鏡矢さんは立派な男性です。私だって信頼出来る男性となら……あの鏡矢さん……いきなりで何ですが、私と交わっていただけませんか?」

「えっ……はいぃぃぃーーっ!? マイカさん一体全体何て事を!」

「あの。はしたない事は分かっています。それに風花さんがいない時にこんな事言って……ですが自分でも分からないんです。さっきからずっと身体の奥が熱くなってしまっていて……」そう言ってマイカさんは息を荒げながらいきなり俺の太腿に手をやり、それを俺の股間の方に這わせようとしたが、俺は左手で、それを慌てて静止した。

 これって、生命の危険を感じると本能的に性欲が高まるってやつか? 寝袋の中は発情したマイカさんの匂いで満たされ、俺も理性を失いそうになる。しかし……。


「マイカさん。お気持ちは大変うれしいです。ですが俺。やっぱり風花様を愛してます。風花様の安否も判らない今の状況で他の女性と関係する気にはなりません」

「あっ……そうですよね。すいませんでした。私、恐怖でどうかしちゃってたんです。さっきの事は忘れて下さい……」そう言ったきり、マイカさんは俺にクルッと背中を向け、そのまま一言も発しなくなった。


 うおーーーーっ。俺、トップアイドルに迫られちゃったぜ。だけどここで手を出したら、人としてダメだろ。すっごく残念な気もするが、これでいいんだ。明日は頑張って風花様と合流しよう。そうは納得したものの興奮冷めやらず、俺はまんじりともせず夜明けを迎えた。


 ◇◇◇

 

 風花様が指定した集合場所で二晩過ごしたが、風花様は現れなかった。はぐれと遭遇する危険もあったので、ずっと河原にいて見張っていた訳ではないが、多分風花様は本当にここに辿りついていない。もしかして捕まった? 以前高崎でも同じ様な事があって、俺は慌てて自首しちゃったけど今回は軽挙妄動はするまいと決めている。


 三日目の晩。あれからマイカさんは俺に迫ってこないが、相変わらず一つの寝袋の中で手を繋いで寝ている。

「鏡矢さん。風花さん、いくら何でも遅いですよね。何かあったと考えるべきではないでしょうか?」

「マイカさんもそう思いますか。あの人の事だから岩穴の隙間に落っこちたりはしていないと思うんですけど……追手に捕まったか、はぐれに遭遇したか……」

「それじゃ助けに行かないと!」

「慌てないで下さいマイカさん。もちろんそうしたいのはヤマヤマですが情報が少なすぎます。俺達の旅の目的は横須賀な訳ですから、前に風花様が言ってた様に、生き別れてもその目的を目指すのも選択肢です」

「よくそんな冷たい事が言えますね。あなたは風花さんを愛してるっておっしゃっていたではないですか。風花さんを放っておいて横須賀を目指すというなら、私と交わっていただいてもいいのではないですか!?」

「あれマイカさん。まだ俺とエッチしたかったですか?」

 俺にそう言われて、マイカさんは、はっと気づいたかの様に真っ赤になってダンマリになった。


「いやすいません。ついからかいました。俺が風花様を見捨てて先に行くはずないじゃないですか。何とかあの追手の状況を探って、風花様が捕らえられているなら助けるまでです」

「よかった。それじゃあ……」

「ええ。明日の朝、風花様を探しに出発しましょう」



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