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第49話 異種タッグ

「あの……ヴェロニカ執行官様。ご滞在されるお部屋はこちらでよろしいでしょうか?」

「うん。なかなか日当たりもいいじゃないか。気に入ったぞ皐月領主殿」

 町田荘のパレスの一画で、北米トロントの執行官ヴェロニカを、領主皐月自ら案内している。

 

 ヴェロニカはすでに風花から、ガーデンから須坂までのいきさつを事細かに事情聴取済であり、皐月の所業もほぼ把握しているのだが、素知らぬ顔で接していた。

(こういう野心だらけの馬鹿はうまく使うに限るからな)


「それで執行官様。大体いつ頃まで町田にご滞在予定で?」

 皐月は恐々とヴェロニカの顔を覗き込む。

 彼女は、突然の北米執行官の到来に驚きと戸惑いを隠せないでいた。須坂のサザレイシからは、万事粗相の無い様丁重におもてなしの上、お手伝いをしろとだけ言われていて、ヴェロニカの目的は全く不明だ。だが同時に、サザレイシからは、ヴェロニカの行動を逐一報告する様にも指示されており、須坂としても彼女に全面的な信頼を置いている訳でも無さそうだが……一体何をやらされるのか不安しかない。


「なんだ。須坂から何も聞いていないのか? ちょっとばかり極秘任務で、まだ期間の見通しは立っていないが、まあ年内にはケリを付けたい所だな。町田荘は東京湾の羽田沖あたりから旧三浦半島の海沿いまでが直轄領なのだろう。作戦遂行にも何かと都合がいいので手を貸してほしい」

「あ、はい。中央からは全面的に協力する様、仰せつかっております」

 

 皐月にとって一番の懸念事項は、風花達を取り逃がした事の顛末が一体どうなったのかが全く見えていない事であり、須坂も何も言って来てはいない。風花は須坂にたどり着いたのか。はたまたそれで北米が動いているのか。たまたま東京湾で何か別のプロジェクトがあって偶然町田荘が前線基地として選ばれただけかもしれないが……いやいや極秘任務と言うからには、やはりガーデンに関する事の確率が限りなく高い。判断を誤れば、自分のみならず娘にも災厄が及びかねないと考え、皐月はヴェロニカに気に入られる様、心掛ける事を決めた。

 

 数日後、パレス内でヴェロニカとその同行スタッフの歓迎晩さん会が催され、皐月はしきりにヴェロニカに盃を勧めご機嫌を取る。ヴェロニカもアルコールが回ってご機嫌になり、だんだん口数が多くなって来たので、皐月は思い切って突っ込んだ質問をしてみた。


「あの。ヴェロニカ執行官様の極秘任務って……もしかしてイブ・メイカー絡みですか?」


 その瞬間。皐月には、一瞬ヴェロニカが固まった様に見えたが、次の瞬間、笑顔になりバンバンと皐月の肩を叩き始めた。

「御領主殿。その言葉は口にしない方がいいぞ。だが……さすがは共犯者だな。ちゃんと分かっているじゃないか」

「き、共犯者ですって? あの、それは一体どのような事で?」

「しらばっくれるなよ御領主殿。あなたは風花と結託してあれを牛耳ろうとしたのではないか? それで風花を須坂まで送り届けたが、風花と宗主殿の交渉が決裂したのを知り、今は知らぬ存ぜぬを決め込んでいる……違うか?」

 もちろん事実がそうでない事は、ヴェロニカは百も承知だ。


「そそそそ、そんな滅相もない! 私は、中央に対する反乱分子として風花をとらえて処罰すべく行動し、部下さえ失っております。決してそのような事は……」

「ふん。それとて事が成らない時の保険と取れなくもないが……御領主殿。すでに風花は須坂を追われ、宗主殿はあなたにも猜疑の目を向けているぞ。私にちゃんと協力するかを須坂は監視していると思った方がいい」

「そ、そうですか。ですがそんなお疑いは見当違いも甚だしいかと……ですが、私はちゃんと須坂と執行官様のお役に立ちますよ!」

「それは頼もしいな御領主殿。それでここだけの話なのだが……あなた。私側に付かないか?」

 ヴェロニカはここが皐月の首に鈴をつけるタイミングだと判断し、一気に勝負に出た。皐月は何を言われたのかあまり理解出来ていない様だが……。


「まあ、このまま私に協力してくれていれば、そのうち須坂もあなたへの疑念を解くだろう。だがそれだけだ。多分、そう遠くない日に、あなたは領主を追われる。あのサザレイシとかいう女官長は厳しいからな。一度でも疑念を持った者をそのまま領主には据えておかんだろうさ」

「そんな!? では私は一体どうすれば……身の潔白の立てようも無いじゃないですか」

「だからあなたは、これから北米のやる事に協力したまえ。それはもちろん須坂の指示でもあるのだが、実際の所、あなたは須坂ではなく私をボスとして働くのさ。そうすれば私はあなたの地位と将来を保証しよう」

「そんな……私に須坂を裏切れとおっしゃるのですか?」

「ああ。無論強制はしない。考える時間をあげよう。もちろんこのまま須坂に密告し(チクッ)ても構わないさ。須坂がそれを信じるかどうかは分からんがね」


「……それで……執行官様は一体何をなさろうとしているのですか?」

「例のものを北米の支配下に置く。今後、須坂に手も口も出させん」

「そんな事をしたら須坂と争いになるのではないですか?」

「ならんさ。一か月後には東京湾の地下深く隠れているアレを調査する為の船団が北米からやってくる。すでに、須坂はアレに関わらないという宗主サクヤヒメ殿の言質も取ってあるが、船団の目的は、名目上、アレの廃棄処理だと須坂には説明してある」

「それではやはり須坂を騙している事になるのではないですか! 私にそれに加担しろと!?」

「だから選択しろと言っている。須坂に従ってどこかでレールを外されて終わるか。私と一緒の列車に乗って、将来、世界を牛耳る側に回るか……」

「あっ…………分かりました執行官様。一晩考えさせていただいてよろしいでしょうか」

「もちろんだ。ささ御領主殿。顔色が良くないぞ。どんどん呑みたまえ」そう言ってヴェロニカは皐月の杯に酒を注いだ。


 ふふ。かなり動揺しているな。この皐月という女が、自分の利益の為に手段を選ばない人間なのは風花の話ですでに分かっていた。だから手駒にするならこいつだと目星をつけて町田に来たのだ。須坂がこいつに細かいいきさつをちゃんと説明してやらないのも悪いのだが、こうも簡単に私になびくとはな。まあこいつの頭では、私につく選択肢以外は思いつくまいが……こんな奴に(たばか)られるとは、風花も存外間抜けだったな。そんな事を考えながらヴェロニカは盃を重ねた。


 はたして翌日の朝。皐月はヴェロニカに忠誠を誓った。彼女にとって、寄るならば北米の方が太い樹木なのは自明なのだ。


「それでは皐月殿。これから仲良くやって行こうではないか。ガーデンの浮上までそれほど猶予はないと見ている。早速お願いしたい事がいくつかあるのでよろしく頼む。まずは……多分中央道をこちらに向かっていると思われる風花一行の確保かな」

「風花ですか……生死問わず確保でよろしいでしょうか?」

「こらこら、何を言っている。絶対に生かして確保だ。ガーデンに侵入するにあたり、あの鏡矢には同行してもらわんとならんし、風花は貴重な実験サンプルなのだよ。まあ、あとの一人は町田の女官にでもしてあげたまえ」

「あとの一人? まあいいです。ですがそれならなぜ風花が須坂にいる時に、執行官様自らあいつを確保されなかったのですか?」

「あの時点では、まだ須坂と表立って対立する訳にはいかなかったからな。本国も対応が決まっていなかったし……だが風花が自力で逃亡した後、状況が変わった。今度来る北米船団は護衛空母付きだ。須坂と対立する事になろうが問題はないのさ」




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