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第48話 別荘

 草津同様。ここは以前ホテルか何かだった建物に手を加えて維持しているのだろう。宗主様の別荘と言うだけあって手入れも行き届いているが、やはり冬期閉鎖の様で人の気配はない。防犯装置の類もなく、窓を壊して難なく侵入出来たのだが、まあこんな所に今時期忍び込もうなんて輩はそうそういないだろう。だが……案の定というか予想通りというか、火の気がまったくなく滅茶苦茶寒い。もちろん電気も来ていない様で、とにかく温泉に浸かろうと、風花様がマイカさんをせっついている。


 真っ暗な通路をペンライトで照らしながら進み、ほどなく大きな引き戸の前に到着した。

「ここがお風呂だったと思います」マイカさんがそう言って引き戸を開けると、確かにほんのり温泉の匂いがする。

「さあ、行くわよ鏡矢!」風花様はもう我慢出来ないと言った様子だ。

「箱根の時みたいに慌てて入らないで下さいよ。それじゃ女性お二人が先にどうぞ。俺、ここで待ってますから」

「えっ。でも私は鏡矢といっしょに……ああ、でもそうか。マイカは男といっしょじゃ嫌だよね?」

「はいっ? いえ別に、鏡矢さんなら私……毎晩同じ寝袋ですし、浴室も真っ暗ですからご一緒でも問題ありません。ここで待っていたら、鏡矢さん凍えちゃいますよ」

 ああ。マイカさん天使……でもそれって、俺は男として見られてないって事かな? でもせっかくトップアイドルとの混浴だ。風花様には悪いけど、いい経験かも知れないな。


「あっ、そうだ。あれを使おう」そう言って風花様が、背負っていたバッグから何かを取り出した。あれ。それって俺が食料と勘違いしたワックス? 風花様がワックスの真ん中にマッチ棒を差し、火をつけると……おお。簡易燭台か。ペンライトの電池は貴重だし、炎に照らされた浴場は本当に幻想的だ。


 お湯はちょっとぬるめだったが、須坂を脱出してからひと月以上風呂に入っていなかった事もあり、体中の筋肉が音をたててほぐれて行く様な気がする。広さもそれなりにあり、マイカさんがちょっと離れた所で入浴しているのがちょっと残念かな。

「こら鏡矢。マイカばっかり見るな!」そう言って風花様が近寄って来て、湯舟の中で俺に寄りかかった。

「ふわー、生き返るねー」

「そうですね。ですがこれから先の事を考えると……」

「こらー。それは明日考えましょ。今は……もっとあんたに甘えたいな……」

「風花様……」

 お湯で体が綺麗になった風花様からは、何かいい匂いがしている様で、俺も思わず発情しそうになるが、あっちにマイカさんがいる事を思い出して、風花様に延びかかった手を引っ込める。


「あー。お二人とも本当に仲良しさんなんですね。うらやましいです」そう言いながらマイカさんが近くに寄って来た。

「そうだよマイカ。私と鏡矢はラブラブなんだから……でも。あなたも今は大事な家族よ。私の隣にいらっしゃい」

 風花様に導かれて、マイカさんも風花様の隣に座り込み甘える様な仕草をした。


「ありがとうねマイカ。あなたが一緒に来てくれなければ、私達絶対ここまで来られなかったわ。あなたにどんな恩返しが出来るか分からないけど……いっしょに頑張ろうね」

「有難う御座います。でも私……こうして風花様に甘えさせていただければ幸せです。私、結構甘えん坊なんです」

 うーん。これはいわゆる百合と言う奴だろうか。パレスの女官の中には女性同士で愛に目覚める人もいるって、昔、武田が話していたな……だが、男同志に限らず女同志で人を愛し合うって言うのもいいものだなと俺は思った。


 ◇◇◇

 

 温泉で体が温まっているうちに布団を何とか見つけ出し、三人で転がり込んだ。当然、火の気はないため、部屋の中とはいえ気温は氷点下ではなかろうか。こうして三人でくっついていないと、凍死は間違いないだろう。普段は寝袋の中で窮屈に寝ているが、今日は比較的身体が自由に動かせる。ここでも風花様に手を伸ばしたい衝動に駆られるが、そのすぐ脇にマイカさんが寝ている為、やはり思い留まる。風花様を真ん中にしているのだが、マイカさんは思い切り風花様に抱き着いている様で、お風呂上りのせいもあるのか、風花様ではない女性の匂いもプンプンしていて俺としては興奮しっぱなしだ。かと言って外に抜きに行ったら凍死しそうだしなー。そう思って耐えていたら、風花様がむくっと起き上がった。


「おトイレ……」そう言って風花様が布団を出て行き、俺とマイカさんが残される。暗がりでほとんど見えないとはいえ、すぐそこにマイカさんがいる気配は濃厚に感じられ、俺は思わずつばを呑んだ。いかんいかん。男の本能よ。鎮まれ!


 その時、突然マイカさんに肩を掴まれた。

「えっ。マイカさん?」

「……ごめんなさい鏡矢さん。ちょっとだけ……こうしてていいですか?」

「えっ、えっ。それって……」

 しかしマイカさんはそれ以上何も言わず、ただただ俺の左肩に触れている。もしかして風花様がいなくなったけど、何かに触れていないと落ち着かないタチなのかな?

 あれこれ妄想しているうちに風花様が戻って来て、マイカさんは何事も無かったかの様に、また風花様にしがみついていた。


 ◇◇◇ 


 翌朝。雪も止んでおり、厨房で若干の保存食も入手出来た。最後にもう一度、みんなで温泉に入ったが、浴室内は朝日で眩しい位で、それ以上に女性二人の裸体が俺の眼に焼き付いたのだが……なんかマイカさんが、俺に対してだんだん無防備になって来ている様な気がする。


 自転車の所まで戻り、ちょっとした広場を見つけて俺は自転車に乗る練習を開始した。最初はうまくいかず、ただ押したり精々立ち漕ぎが関の山だったが、草津志賀ルートでバイクを練習した甲斐もあってか、昼過ぎには何とか乗れる様になった。


「ですがどうします。このまま地図上の旧街道に沿って移動しても、見つかって車で追いかけられたらアウトですよ?」

「本気で追ってくるかな。私達、誰もその姿を目撃されてないわよね。諏訪の押し込み強盗も、ただのはぐれの仕業とか思ってくれないかしら」

「甘い考えは命取りですって……」

「それもそうね。それじゃ仕方ないから、昼間休んで夜間に移動する様にしましょうか。夜は追手も動きが鈍いはずよ」

「確かに。夜は寝ていても寒すぎるし、動いていた方がいいかも知れませんね」

 

 そうは言ったもののだんだん昼間の時間が長くなってきている様にも感じられる。春はもうすぐそこまで来ているのだろうな。だとしたら急がないと。ガーデンが浮上してくるのは夏位だと予想している。だが……どうやって潜り込むんだ? 風花様には何か考えがあるのだろうか。だが自分は風花様について行くだけだと心に近い、鏡矢は甲府方面を目指して進んだ。



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