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第05話 秘密プロジェクト

 不安半分。期待半分で部屋に入ると、そこには三十歳前後の優しそうな細面(ほそおもて)の男性がいた。


「いらっしゃい佐々木君。私は、木之元孝由(たかよし)風花(ふうか)の旦那です」

 えっ!? この人が御領主様の旦那様!? やっぱり俺、叱責されるのか……。

 ビビッて緊張しまくっていた俺に、孝由氏は優しく声をかけた。

「ああ、そんなに固くならないで。大丈夫。取って食ったりしないから」

 いえ、そんな事はあんまり恐れてはいないんですが……むしろ男性の方がちょっと気持ちが落ち着いたりして。


「呼び出してごめんね。君に聞きたい事があったんだ。風花から聞いたんだけど君。イブ・メイカーなんてどこで聞いたの?」

「はい? ああ、それでしたか。それは、ちょっと前に、ネットで検索したら出て来て……」

「そんな事を聞いているんじゃない! 

 検索するに至った動機の部分を教えてほしいんだよ」


 あのデータの事は、明さんにも話しているし構わないだろうと考え、その事を孝由さんに説明した。


「何だって? 地図があったって!? それに3Dモデリングデータ?」

「はい。でも父が言うには、そのあたりは既に湿地になっちゃってて今は何もないとか……それがどうかされましたか?」

「いや……実は私も、その単性生殖理論とかにちょっと興味があって調べた時期があってね。君の言葉に風花がびっくりして、私に連絡をくれたんだよ。だが君の話からして、美少女フィギュアでは……それとは関係ないみたいだ」


「そうでしたか。あの、差支えなければ読み込んだデータも提出しますが……」

「ああ有難う。でも今更役立つかもわからないというか、フィギュアのデータじゃね。それでその地図の場所っていうのは、どの辺なんだい?」

「えっと、確か横浜市青葉区江田って」


「何!? 江田(えでん)だと?」

「あー、多分当時は()()って呼んでたと思いますが………」

「あ、ああ。そうだね。私とした事が……はは、今日は有難う……そうだ佐々木君。せっかく前屋敷まで入って来たんだから、今日は泊まって行かないか。うん。そうしなさい! 夜は風花を同衾(どうきん)させてもかまわないから……」


「はいーーー!? いやいや。いくらなんでも旦那様がそんな事おっしゃっては……御領主様は私だと役不足だとおっしゃってましたし……今日はこれで失礼します!!」俺はそう言って、慌てて部屋を後にした。


 いったい何が何だってんだよ。御領主様も旦那様も……。

 訳がわからず混乱したまま、俺は帰路を急いだ。


 ◇◇◇


「なんだ……帰っちゃったんだ」風花がちょっとがっかりした様にそう言った。

「いやいや。いよいよ切羽詰まっての子種(こだね)目当ての面接で、まさかこっちがひっかかるとはね。だがお前、あんな子がよかったんだ。そうそう旦那持ちの領主が公募かける訳にもいかないし、気にいったなら招集令状出せばいいじゃないか」

「ばかっ! でもまあ、初めて同志ならいいかなっとはちょっと……で、何か分かったの?」

「ああ、どうやらラボの場所の地図がある様だ。それに実体データもある。土木課も事の重大さには全く気付いてなくて報告が上がってこなかったのだろう。何処の誰かは知らないが、百年前にも、僕と同じ様な事を考えていた者がいたんだろうな。だが、このまま何も手を打たないのは悪手だ。他の荘園に下手に先を越されても困る。佐々木家には僕から手を打とう。彼の父親は探索チームらしいし都合がいい。それで鏡矢君だけど……彼はああしたデータにも強そうだし、やっぱり招集令状でお前のしょうとして囲い込むのがスマートかな」


「そ、そんな……妾とか……でもそうね。

 父親も使えそうだし、彼もいっしょに働かせるなら、秘密保持には最適かも」

「ああ、そうするといい。お前が秘密裏にイブ・メイカーの調査を進めるため、わざわざ僕を旦那にした様にね」

「そうね。今度の男の子はどっかの同性愛者と違って、ちゃんと私の初めてを貰ってくれるかもね。でも、私の妾に手を出しちゃだめよ」

「ふふっ。すまんね。それは約束しかねるかな」

「ばかっ!」


「それにしても、ずっと謎だったエデンの場所が、まさか江田だったとは……早速、調査を開始しよう」

「……あるといいわね。ラボ」


 ◇◇◇


 自宅に戻り、とりあえず皐月嬢の公募は落ちたと言う事で報告したが、領主様との件は両親にも内緒にした。


「そうか。今回は選ばれなかったか。残念だったね」

 明さんが、俺を慰めてくれた。

「でも鏡矢はまだまだこれからだよ。男を磨いていけばいつかはそのチャンスが来るさ」進さんもそう言って励ましてくれた。

「二人ともありがとう。それで……二人は、公募に参加したりした事はあるの? あっ、変な事聞いてごめんね」

「何遠慮してるんだ。僕たちは家族だからそういったナイーブな話も突っ込んで出来るし、するべきだ。私も十代の時、数回チャレンジした事がある」そう言ったのは明さんだ。

「でも同じ時期、私も全敗で、お互いによく励まし慰めあったものだね」と進さん。


 うちの両親は、中学からの同級生で、昔からの友人って感じでなんかいいなと思う。俺も将来、拓真とそういう関係を築き上げるのも悪くないかもと、ちょっと思っている。

 でも、そうした社会的な人間・家族関係とは別の所で、生物のオスとして、メスとつがいたいという本能の叫びみたいなものものが確かにあり、拓真には申し訳ないのだが、まあ当分は公募へのチャレンジを続けるつもりだった。


 そう意気込んでいた所、数日後、俺に赤紙(あかがみ)が来た。


 これは所謂(いわゆる)召集令状で、荘園が男性の一般市民に対し役務を強要する際に使用する命令書であり、ちゃんと法で認められていて、よほど基本的人権や生存権、公序良俗等に反したものでない限り拒否権はない。(まあ(あらが)っても大抵裁判で負けるらしい)


 それにはこう書かれていた。


『佐々木鏡矢殿。貴殿を現領主、木之元風花の(しょう)として採用する。

6/10 午前十時に、指定場所に出頭されたし。持ち物一切不要』


 これには両親もびっくりしていた。もちろん俺も驚いたのだが、あの時の旦那様との会話に何か関係があるのだろうか? ともあれ、もう隠してはおけないので、あの日の話をすべて正直に両親に打ち明けた。


「なるほど……そういう事か……」明さんが、一人納得した様にうなずいた。

「いや。昨日の事なんだが、土木課のボスから、今度、立ち入り禁止地域の旧青葉区江田地区で内密な調査を行うので、私にも参加してほしいと指示があったんだ。今の鏡矢君の話と合わせると、多分、この間の地図の件が、御領主様になにか引っかかったんだろうね。そして内密に何かをなさろうとしている。まさか美少女フィギュアの工場を復活させようという話ではないだろうから、その単性生殖とやらに関連があるんだろう」

「ということは、佐々木家は何か厄介ごとに巻き込まれた可能性があるという事?」進さんがそう言った。


「そうかもね。その……イブ・メイカーってやつ? でも、闇から闇に口封じと言う事ではなく、こうして親子ともども味方に引き入れようとしていると言う事は、そんなに悪い話ではないのかもしれんし、どうだろう。一口乗ってみるのもありじゃないかな。だいたい鏡矢君が御領主様の妾なんて、全男性の羨望(せんぼう)の的だし、名誉な事には違いない」

「あーあ。またギャンブル好きの悪いくせが出てるよ。でも僕も明君に賛成だな。鏡矢は?」進さんがそう俺に尋ねた。

「いやこれ。俺に拒否権はないんでしょ?」

「ははははは。そりゃそうだ!」両親がそう言って笑った。



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