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第47話 駅前集合

 諏訪湖の対岸に到着し荘の市街に入ったらまた雪が降り出した。やはりさっきの御神渡りの時、一瞬雪と風が止んだのは神様が俺達に手を貸してくれたのだと信じよう。


「どうやら街の人達も眠ってる様ね。それじゃ鏡矢。打ち合わせ通り手分けするわよ。あんたとマイカは食料を調達。私は移動手段を探すわ。集合場所は旧上諏訪駅ね。日の出までには集合なさい」


 諏訪湖横断に結構時間を費やしたので、明け方までそんなに時間の猶予はなさそうだ。俺とマイカさんは商店がありそうなところに目星をつけて、真っ暗な街中を走る。


 しばらく行くと雑貨屋の様な建物が目に入った。看板をよく見ると確かに雑貨屋の様だが、薄い戸板だけで俺でもぶち破って中に入れそうに思える。中に目的のものがあるかは分からないが、もう時間もそんなにないはずだと思い、思い切って入り口の戸板を蹴破る。

「マイカさん急いで! この家の人に気付かれる前に早く!!」

 

 その後の事はあまりよく覚えていない。こんな押し込み強盗みたいな事は、まあ経験がない。だが中身はよく分からないが缶詰の様なものが棚に詰まれており、俺はそれをとにかく持っていた袋に詰め込んだ。逆の棚にはお菓子の袋みたいなものがあり、マイカさんはそれを袋に詰めている。ややもして、家の奥が騒がしくなってきた。どうやら押し込み強盗に気付かれた様だ。

「マイカさん。この位でいい。逃げよう!」そう言って俺はマイカさんの手を取り、一目散にその雑貨屋を後にした。五百mほど走っただろうか。細い路地に身を隠しマイカさんが無事な事を確認する。どうやら人も追いかけては来ないみたいだ。


「はあはあ。鏡矢さん。すっごくドキドキしちゃいました!」

「俺も……でも、ゆっくりもしていられないよ。早く集合場所に向かおう」

 遠くに薄暗い街灯が一つだけあり、走って上気したマイカさんの顔が艶めかしく見える。どうやら向こうも何か俺の顔をじっと見ている様で……これって吊り橋効果ってやつか? いやいや鏡矢。ダメだダメだ。俺には風花様が……。

「鏡矢さん。ぼおっとしていないで! 行きますよ!!」

 我に返った様に、マイカさんが声をあげた。


 ◇◇◇

 

 旧上諏訪駅は大きな通りに面していてすぐに判った。もちろん今は鉄道も通っていないが、今だにこのあたりが荘の中心として機能しているのだろう。建物も大型なものが多い。まだ日の出には少しありそうだが、風花様の首尾はどうだったんだろう。辺りを見渡すが見当たらないな。人目に付くとまずいので、マイカさんと駅舎そばの公衆便所の影に隠れていたら、人の気配がしたのでそっと様子を伺ったら風花様だった。


「風花様。こっちこっち……」小声で風花様を呼ぶ。

「おお鏡矢。首尾はどう?」そう言って近寄って来る風花様にブツが詰まった袋を掲げて見せた。

「まっ、ざっとこんなものです。それで風花様の首尾は?」

「うん。大丈夫。それより鏡矢、マイカ。こっち来てみてよ」

 風花様に手を引かれ、駅舎の中に入る。ここって昔の鉄道のホームだよな。

「こっちよこっち」

 ホームの中ほどに進むと何やら懐かしい匂いがした。

「ああ風花様。これって温泉?」

「そうなのよ鏡矢。なぜかここに足湯があるの……凍った湖渡って木枯らしに吹かれて、もう身体も冷えっ冷えだし……ちょっと浸かっていかない?」

「何言ってんですか!? 一刻も早く、ここからトンズラしないと危ないでしょ!!」

「ちぇっ。鏡矢のケチ……」

「あー、私もちょっと浸かりたかったです」

 風花様の温泉好きは知ってたけどマイカさんまで……。


「しまった!! 人の気配だ!」風花様のケモ耳がピンと立った。

「ほら言わんこっちゃない。それで風花様の成果はどこですか?」

「ああそうだった。こっちよ」


 ◇◇◇

 

 日が昇って一時間位だろうか。俺達は旧茅野の市街地にいた。ここはもう諏訪の荘からは外れていて人も住んでおらず、街の残骸があるだけだ。風花様が見つけたのは自転車だった。駅近くの役場っぽいところに数台置いてあり、その鍵を壊して奪取したのだが、俺は自転車も初めてだった為、直ぐには乗れずここまで押してきてヘトヘトだ。風花様とマイカさんはすでに経験があるらしく、問題なく乗れている。


「あー、鏡矢。あんた何やってんのよ!」

 廃墟の影に身を潜めながら戦利品を確認していた風花様が叫んだ。

「何って?」

「あんたが盗んで来たこれ……清掃用のワックスじゃない! 食べられないわよ」

「えっ? ああ……道理で缶詰にしちゃ、ちょっと大きいとは思ったんだよな」

「焚きつけには出来そうだけど……マイカが盗って来たのは、おせんべいとかき餅か。これはまあこれでよし。だけど……食料が心許ないわね。でも盗みに入るにしてもまた諏訪に戻るのは危険だし。先を急ぐにしても鏡矢は自転車乗れないし……」


「あのー。よろしいでしょうか?」

 マイカさんが俺と風花様の会話に割って入った。

「何か考えがあるの? マイカ」

「鏡矢さんに自転車の練習もしていただきたいですし、この辺りのほとぼりが冷るまで、山の方に一時身を隠すのはどうでしょう?」

「はあっ? でも自転車じゃあんまり雪深い所は無理だし……それに何より、時間が惜しいわ。ガーデンがいつ浮上してきちゃうか、実際の所、気が気じゃないのよ」

「そうですか。蓼科なら温泉もあるし、丁度いいかなって思ったんですけど……」

「温泉? マイカ、それを先に言いなさいよ。ねえ鏡矢。こうして美女二人がひと月以上、お風呂も入らずに山の中を獣見たいに徘徊して、あげく足湯さえNG出されて……ちょっとは休んでもバチは当たらないと思わない? あんたはその間に自転車の練習だけどね」

「ははは……風花様。分かりました。地図で見る限り、そんなに遠くもなさそうですし、ちょっとの寄り道は構わないですよ。ですが……ほんとにちょっとですよ」

「あはっ、鏡矢。大好き!!」


 マイカさんによると、蓼科も須坂の隠し湯の一つで、たまに宗主様も避暑で訪れミネルバもご一緒したらしいがそれは夏場の事で、冬期は閉鎖されているのではないかとの事だ。草津といい、宗主様も大概温泉好きなんだな。

「それなら保存用の食料とかもあるかもね」

 風花様の顔がちょっと明るくなり、俺達は旧茅野市街から進路を北に変更し、雪の中、自転車を押しながら蓼科を目指した。


 ◇◇◇


 蓼科まではかなりの上り坂であり、途中どんどん雪深くなって来て、自転車を押して進む事もままならなくなってきた。幸い昼過ぎから雪が降りだしており、俺達の足跡は多分一時間もしないうちに隠されるだろう。


「いやー。これはキツイわ。ねえマイカ。宗主様の別荘まであとどのくらいかな?」

「うーん。地図で見る限り、あと二~三kmだと思いますけど……」

「そうか。それじゃ仕方ない。鏡矢。自転車はここに置いて徒歩で行くわよ」

「えー。風花様。それじゃ俺の練習は?」

「こんな雪じゃ練習自体が無理でしょ。自転車を持って上がるだけの体力が勿体ないわ。温泉で休んだ帰りにまた回収しましょ。あんたの練習はまた下に降りてからね」

「はーい。分かりました! それじゃ風花様。雪も強くなってきましたし、急ぎましょう」

 

 そこから雪をかき分けて歩く事三十分程で、大きな建物が見えて来た。

「あれが宗主様の別荘です」マイカさんが指さす」

「あーあ。ほんとに不公平よね。須坂はこんな立派な温泉抱えていて、町田なんか……私はユニットバスだったのよ!」

「怒らない怒らない。さあ、暗くなる前に中に忍び込みましょう!」



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