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第04話 当て馬面接

 俺はそのまま待機施設に留まり、二日後の夜、領主様のビデオ面接が行われた。さすがに最初の時程緊張はしなかったが、相手は御領主様。なにか粗相(そそう)でもあれば、家族共々どうなる事か分かったものではなく、違った意味で緊張が走る。


 そして予定の時間になり、目の前のモニタに、よく見知った御領主様の姿が映るはずって……あれ? この人誰だ? 黒髪で後ろを三つ編みおさげにした、俺と同い歳くらいに見える眼鏡っ子女子が映っている。


「あ……あの。私、佐々木鏡矢と申します。それで、あなたが御領主様?」

「…………………」

「あれ? 音声つながってますか? 聞こえていないのかな?」

 俺は大きな声でしゃべりながら、慌てて身振り手振りで、口や耳を指し、相手に聞こえているか確認する。


「うっさい!! ちゃんと聞こえてる!! あんたいくつ?」

「はい!? あ、よかった。聞こえてましたか。私は、佐々木鏡矢。十六歳です」

「なんだ。四つも下か。まっ、いいわ。私が風花(ふうか)木之元風花(きのもとふうか)。この町田荘の領主よ!」

「はいっ? そんな……ネットのお写真とは全然別人……」

「あんなのは適当でいいのよ。ある程度威厳がないとダメだって、周りがうるさいから……いろんな化粧を試して一番それっぽいのをアイコラして張っただけ」

「ああ、そうなんですか。それにしても、ご本人はすっごくお若くて可愛らしくて……年下かと思っちゃいました」

「ば、ばかっ! 褒めても何も出ないわよ!」

 そう言って御領主様は顔を真っ赤にしてまただんまりになってしまった。


 一分、二分と時が経過するも、まだ何もしゃべってくれない。

 仕方がないので、俺の方から話を切り出した。


「あの、御領主様。失礼かとは存じますがお尋ねします。今回はまたどうして公募などを?」

「あっ……そ、それはまあ……あんた。私が既婚者なのは知ってるでしょ? 

 だけど結婚して三年も経つのに旦那との間に子供が出来なくて、周りがうるさくて……」

「それは、ちょっと風のウワサで耳にしましたが、でもよろしいんですか?」

「うるさい! 庶民が口挟むな!! 佐々木鏡矢……あんた、結構ずけずけ言うわね。皐月(ねえ)のレポートには『優しい』って書いてあったけど」

「ああ、それは光栄です。それで御領主様は皐月嬢とお知り合いで?」

「あんた、小学校で何習ってきたのよ。この町田荘には女性が現在、私含めて213人しかいないのよ。私は全員の顔を覚えているし、全員と友達になろうと努力してるわ! だから、出産も彼女達ばかりに負担をかけないで、私自身も頑張らないと……」

「そういう事でしたか。生意気言ってすいませんでした。私が御領主様のお役に立つとお思いでしたら、何なりとお申し付け下さい」


「ふん。最初からそう言えばいいのよ! でもあんた……やっぱり失格ね。どうせ今回の公募が私のものだって知って、結構みんな敵前逃亡したんじゃないかと思うんだけど、あんたそのアテ馬でしょ? でもわたし、まぐろだから童貞だとちょっと……」

「まぐろ? あー、なるほど。それは残念。

 しかし御領主様のそんな生々しい性癖まで教えていただき、光栄の極みです」

「ばかっ! でも、あーあ。本当はあんた位の年齢の方が付き合い易いのよねー。お姉さん風吹かせてさ……人工受精だとなぜか女子が生まれないから直接身体を重ねるしかないんだけど、子をなすために旦那以外と夜を供にするなんて、結構メンタルに来るのよ」

「そうでしょうね。あまり無理なさらない方がいいですよ」


「そういうとこだけ『優しい』のね。ところで……ねえあんた。なんとかこの状況を、パーっと解決する様な方法ないの!? 

 なんか私ばっかりが悩んで考えてるみたいで、すっごく辛いんですけど!!」

 ああ、ついに日頃の憤懣(ふんまん)が爆発したみたいだ。こりゃ早々に退散しよう。


「あの、ご領主様。面談時間もそろそろ押してますし、私はこの辺で……女性もゾウリムシ見たいに単性生殖で増えたりしたらよかったんですがねー」

 そう言って、面談室のドアノブに手をかけて、戸を開けようとしたら、いきなりガチャリと鍵がかかった。


「えっ!?」


「あんた……今、何て言った?」

 モニタの向こうから、御領主様がドスの利いた低い声でお尋ねになられた。

「はい? 何って……」

「だから、ゾウリムシが云々(うんぬん)って……」

 しまった! 軽口が女性蔑視発言ととられたか!?


「あっ! 申し訳ございません。決して女性を侮辱した訳じゃなくて、なんか昔の記録に、そんなのが載ってたのを覚えていただけでして……あー、確かイブ・メイカー?」

 すると御領主様がモニタの向こうでいきなり立ち上がり、カメラの範囲外につかつかと移動されてしまった。ドアには鍵がかかったままで出られない。俺、不敬罪とかで処罰されるんだろうか。


 ◇◇◇


 戸を叩いても外からの応答はなく、途方に暮れていたらガチャリと鍵があき、マネージャーさんが入ってきた。


「佐々木君。君一体何をしたの?」

「いや、俺にもとんと……なにか御領主様を怒らせましたかね?」

「わからん。だが、直ぐに前屋敷に出頭せよとの事だ」

「前屋敷?」


 それが何の事か知らない俺に、マネージャーさんが教えてくれた。

 前屋敷というのは、パレスとこの待機施設の間にある、女性が直接男性と会うための施設なのだそうで、公募で採用された男性とパレス内の女性が逢瀬(おうせ)を重ねる場所であるだけではなく、パレス内の女性の旦那さん達も住まう所との事だった。

 「それじゃ佐々木君。私の案内はここまでです。あとは、音声指示に従ってこの廊下を進んで下さい」そう言ってマネージャーさんは、前屋敷に続く渡り廊下の手前で俺を見送った。


「佐々木鏡矢。住民ID:96X8264176WE。認証完了。

 衣服を全て脱いでこの先にお進み下さい」

 機械音声の指示に従い、一糸まとわぬ姿になり廊下を進むと、途中でシャワーやらシャンプーらしきものやらが振りかけられ、身体が洗浄された。そしてその先の壁の両側が大型ドライヤーになっており、その温風で身体が乾いた先に衣服一式が用意されており、それを着用する様指示された。


「点滅しているランプに従い、所定の部屋に入って下さい」

 そして俺はランプの点滅を追って廊下を進み、目的の部屋に入った。

 いやー。まさかここで御領主様とエッチする……訳じゃないよな?




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