第29話 漏洩
二日後の夜、拓真が俺の家を訪ねて来た。もう面識はあるので風花様もいっしょだが、その正体はまだ拓真には内緒だ。
「ここのアパートの一室を借りて来た」そう言って拓真が賃貸物件の資料を出した。
「借りたって……お前が借りたのか?」不思議そうな顔をしている俺に、拓真が言う。
「何言ってんだよ。この間、高校卒業してもう僕も成人だよ。お金さえ払えば部屋位借りられるさ。それに僕。今、働いてて結構収入あるんだぜ」
「そうなんだ。お前、成績よかったからてっきり大学にいったんだとばっかり……」
「君が事故にあったって聞いて、なんだかむなしくなっちゃってね。一時期、勉強も手につかなくなって、そのまま高校卒業さ」
「そっか……すまなかったな。そんでいまどんな仕事してるんだ?」
「えっ? まあそれはいいじゃないか。もうこの部屋使えるから、早い所移動した方がいいよ。ここは何かと目につくからね。なんならこれから僕と二人で行こうか?」
「あっ、それって約束の……」
「うん。そっちの中坊には明日にでも来て貰えばいいじゃない」
そう言われて俺は風花様と眼を合わせたが、変な含み笑いをしながら「この場所ならわかるから、行ってきなよ」と言う。そうだな。ウジウジしてちゃせっかく部屋を用意してくれた拓真に申し訳ないよな。そう腹を決めて俺は、拓真と自宅を後にした。
拓真に案内されて行ったアパートはパレスに程近く、隙をみて皐月様に会うチャンスを伺うには絶好のロケーションの様に思えた。そしてアパートもまだ築が浅いのか小ぎれいで何かと暮らしやすそうだ。
「いいとこ見つけてくれたな拓真」俺は、本音でそう礼を言った。
「役に立てたならうれしいよ。それじゃ早速はじめようか。心配ないよ。寝具なんかもちゃんと用意してあるから……夜が明けたらあの中坊が来ちゃうかも知れないし」
「ああっ……」
そして俺は、拓真といっしょにアパートの浴室でシャワーを浴び、そのまま居間にひいた布団に二人で潜り込んだ。
「ははは。ようやく鏡矢とひとつになれる。本当にうれしいなぁー」拓真が感極まったかの様にすすり泣いている様にも見えた。
「それじゃ鏡矢。お互い、後悔のない様に……思い切り愛し合おうね」
そう言って拓真は俺の股間に手を伸ばした。
◇◇◇
朝が……来た様だ。結局、日の出近くまで二人で愛し合い……いや、正直に言おう。俺はどうしていいか分からず、ほとんど拓真のなすがままのまぐろ状態だった。
男同志と言う事自体に嫌悪感などはまったくないのだが、女性といたすのに比べかなり勝手が違って正直とまどった。いや、もしかしたら拓真の方が風花様より俺のツボをしっかり押さえて的確に攻めて来ていた様に思える。そりゃそうか。同性の方がツボは分かりやすいのか。これはこれでクセになりそうだな。拓真も一晩中俺をねぶって満足したのか、軽い寝息を立てている。だが一時間もしないうちに起きて来て、昨夜のうちに用意していたおにぎりを二人でつまんだ。
「あはは。新婚さんみたいだね。でも僕、仕事だからもう行かなきゃ。それにあの中坊もそろそろ来る頃かも知れない」すこし名残惜しげに拓真が言う。
「そうか。いろいろありがとな拓真」
「ううん……そんで鏡矢。聞きたいんだけど。あの中坊とはどんな関係なの? まさか恋人じゃないよね?」
「ぶっ。そんな訳ないだろ! あの子はちょっとワケ有りで……とにかくエッチな事を絶対しちゃいけない存在なの!」
「そっか……よかった。僕ちょっと嫉妬深かったかな。それじゃ鏡矢。また一緒にしようね」そう言って、拓真は部屋を出て行った。
俺も昨夜の疲れがちょっと残っていて、ぼーっとしていたら玄関チャイムがなった。風花様が来たのだ。
「うわっ、鏡矢。眼の下クマになってるよ。そんなに激しく求めあったんだ」
「いや、それは……はい」
「うーん。なんかうらやましいというか。私もそばで見て勉強したかったというか……男性同士の方がツボを心得ていて気持ちいいって、昔、孝由さんが言ってたんだよ」
「いやいや。人に見せるものではないと……」
「でもここなかなかじゃない? 綺麗だし、台所もユニットバスもしっかりあるし。何より布団まで敷いてある……何かイカ臭いけど……」
「うわっ、風花様。匂い嗅がないで下さいよ!」
「あははは。悪い悪い。それじゃ私、早速だけどシャワー浴びるわ。いやー。箱根の時も叶わなかった夢がこの町田荘でかなえられるとはうれしいよ!」
そういいながら、風花様はいきなり脱ぎだし、すっぽんぽんで風呂場にいって、シャワーを出しながら湯舟にお湯を張っていた。
二十分程して風呂場の戸が開き、風花様の声が聞こえた。
「お湯溜まったよ。鏡矢も一緒に入ろうよ……大丈夫だよ。襲ったりしないからぁ」
「いや。狭くありません?」
「いいじゃん。親子なんだから、密着しようよー」
「いや親子って……」そう言って俺も服を脱ぎかけた時の事だ。
バーン!!
ものすごい音がして、いきなり玄関の戸が半分ふっとんだ。そして間髪入れず、銃を手にした警官の様な恰好をした男が数名入ってきた。
「動くな!! 反乱準備罪の現行犯として拘束する!」
えっ? 一体何がどうなってるんだ? 反乱準備罪? なんだよそれ。まだ何もしてないぞって、あっいかん。警官隊が風呂場の戸を……
「きゃーーーーーー!!」ものすごい音量の風花様の悲鳴が聞こえた。
「お前も動くなって……なんだお前……なりそこないか?」裸の風花様の異形に、さすがの警官隊もたじろいだ様だ。その間隙をついて俺は風呂場に飛び込み風花様の前に立って「この人に手を出すな!!」とそう叫んだが、その声は、警官の銃声にかき消された。威嚇射撃の様だ。
「動くなって言っただろ! それにしてもこのなりそこない……メスなのか? どうする?」
「とりあえず、二人とも引っ立てるしかなかろう。後の事は……」
警官たちがそう話していたら、戸の外から女性の声がした。
「全員そのまま。銃口は降ろしなさい。その二人に傷をつけてはダメよ」
そう言って部屋に入って来たのは……皐月様!?
現御領主様の登場に、警官たちも慌てふためいている。
「あらー、鏡矢君。久しぶりね。てっきりエデンで水死したと思っていたのに。それにそっちのなりそこないのメス……一体どういう事かしら……」
「あ、あの皐月様。これは……」そこで風花様にしゃべるのを遮られた。そして俺の耳元で小声でささやく。
「今は私の正体は秘密! なんとか、私が二人きりで皐月姉と会話出来るまではね」
そうか。確かに今の状況を俺達もちゃんと把握してから動かないとまずいかもしれない。
「あの皐月様……いろいろお話したい事があるんですが、こんなに大勢の前だとちょっと……」
「そう? でもまあ。それもそうかもね。いいわ。あなたに何があったのか、後でゆっくり聞いてあげる。この二人を丁重に前屋敷に連行しなさい。ただし、秘密裏にね」
皐月様の指示で俺と風花様は、上から布の様なものを巻き付けられ誰だか分からない様にす巻きにされ、そのまま徒歩で前屋敷に連行された。そして警官隊から女官に引き渡され、別々の部屋に監禁された。
「あの……俺達は一体……出来ればタチバナさんとかとお話を……」
「誰にも会わせる事は出来ません。今ここでじっとしていなさい。そのうちご領主様が直々にお取調べをなさるとの事です」
ああ。ここってあの公募の面接の後に通された部屋だよな。風花様は大丈夫だろうか。もちろん部屋からは出られないし、どこかから監視されているだろう。迂闊に動くより、皐月様のお取調べでちゃんと事情を説明したほうが話は早そうだ。
簡単な食事も出され、部屋でマンジリともせずゴロゴロしていたら、外の見張りから風呂に入って寝ろと指示された。今夜はお取調べはないのだろうか。 そう思いながら風呂を使い、ベッドの所に戻って眼の玉が飛び出るほど驚いた。
「さ、皐月様。いつここに?」
「あー。あなたが長風呂だったから待ちかねたわよ。どう、いいお湯だったでしょ?」
「あ、はい。とても気持ち良かったです。それで皐月様。取調べの事なんですけど……」
「しゃべるな下郎!! 今からお前は、私が許可した時だけ発言が許される。私の質問に答えない事は許されない。そして私の命令には全てイエスだ!! ユーアンダスタン?」
「えっ。下郎? 皐月様それって」
「だから許可なくしゃべるな!! お前は今から私の性奴隷だ。尋問はその後だ」
「一体何の話で……」
「答えはイエス!」皐月様がそう言ったかと思ったら、どこから出て来たのがムチが飛んできて、俺の太腿にぴしゃりと当たった。
「だからさー鏡矢君。状況は変わってんのよ。今は私がり・ょ・う・し・ゅ。どうしてあなたが助かって、あんななりそこない連れているのかもちょっと気にはなるけどぉ。今の私は、あなたとエッチしたい気分なの! せっかく好みの男の子だったのに、あんなチンクシャ風花が領主だってだけで譲っちゃったんでぇ……今度こそ私の欲望を満たすのよ」
そんな……領主になって皐月様変わっちゃった? だけど……
「ほらほらぁ。そんな顔しないでさー。私に気にいられた方が長生き出来るよぉ」そう言いながら、皐月様が俺の上にのしかかってきた。




