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第03話 公募

「やったー!! やったぞ拓真。一次通過だ!!」

 朝、学校へ行く前にむかえに来てくれた拓真に俺は大声でそれを伝えた。

 公募申請から一ヵ月程過ぎ、俺に公募の一次書類審査通過の知らせが来たのだ。

 拓真は一瞬曇った顔をしたが、今のこの世界。性交・生殖と恋愛・結婚は全く別物であり、生殖可能な若者がその機会を得るのは権利であり義務でもあると言ってくれた。しかし、この事が学校でみんなにバレると、いらんちょっかいをかけられないとも限らないので、拓真には固く口止めをした。


 とにかく出生率。特に女子の出生率を上げるのは国策なのだ。そしてどういう訳なのかいまだに謎なのだが、体外人工授精では何をどうやっても男子しか誕生せず、ちゃんと男女が身体を交えて行為をしないと女子が生まれないと聞く。


 書類審査の通過者は、病院で健康診断を受ける。身心共に健康かの確認はもちろん、変な病気を持っていないかなどは当然調べられるとして、ちゃんと健全な精子が提供可能なのかまで調べられる。その検査に合格すると、いよいよ本面接に向けた待機期間となり、検疫も兼ねて一週間、荘園の全女性が居住する王城パレス脇のサテライトと呼ばれる一角にある待機施設に缶詰となる。この間は学校や仕事も公休扱いとなり、仕事がある人は休業補償まで出るのだ。まさに生殖は国家の一大事業なのだと自覚させられる。

 そしてここでの待機期間中にカメラ越しでの本人面接が行われ、嬢のお気に召さなかった男性はそこで失格となり帰宅する事になる。


「それじゃ、佐々木君は今日の夜九時にビデオ面接があるので心の準備をしておいてね」待機施設のマネージャーさんにそう告げられ、一層緊張する。

 そりゃそうだ。俺は、自慢じゃないがこの歳まで写真や動画以外の女性と会った事も話した事もない。もっともそれはほとんどの同年代男性にあてはまるのだが……。


 夕食後、風呂で念入りに身体を洗い、髪型も自分なりに良いと思う感じに仕上げた。緊張しながら待っていると呼び出しが有り、ビデオ面接ルームに案内された。そこは二十坪くらいのほぼ正方形の部屋で窓はなく、正面に100インチ以上は有ると思われる巨大モニタがあった。そしてそれに相対するかのように、ちょっと豪華なソファーが置かれていて、そこに座って待つ様に指示された。そしてモニタに映された時計が九時を十秒ほど過ぎた所で、画面が切り替わった。


「こんにちは!」

 そう言いながらモニタでは、満面の笑みで皐月嬢がほほ笑んでいた。


「はいっ! こ、こんにちは!!」あまりに緊張して声が上ずった!

 これが皐月嬢……綺麗だ。素直にそう思った。

 モニタには、彼女の上半身が映し出されているが、長い髪の毛もきちんとセットされていて美しいドレスを身にまとい、メイクもバッチリ決めて来ている様に思われる。彼女としてもこの面接に真面目に取り組んでいるのだという印象を持った。


「あー。そんなに緊張しないで。えっと、佐々木鏡矢君だよね。高校生?」

「あ、はい」なんか返事をするので精いっぱいな感じだ。

「はは……えっと。君は公募に参加したのは今回が初めてか。それじゃ、ありきたりだけど、私の公募に参加してくれた動機から聞かせてくれないかな?」

「はい。以前から私は皐月さんの大ファンでして、ネットの画像ではよく拝見させていただいておりましたが、この度、公募されると伺い、もう居ても立ってもいられず……私の初めてを皐月さんに差し上げられるのなら、もう悔いはないと言いますか……」

「……ありがとう。ファンだって言ってくれてうれしいよ」


 手元の資料で俺の事を確認しながら、皐月嬢が面接をリードしてくれている。

 とてもやさしいお姉さんなんだな。

 学校の事。趣味の事も聞かれ、付き合っている人はいるのとも聞かれたので、拓真という同級生に告白されて付き合っているがまだ清い関係だと正直に答えた。

 そんな感じで十五分位話を続け、面接終了の時間になった。


「うん、鏡矢君。君いい感じだよ。今回。最終的には上から五人で足切りしちゃうんだけど、君が残ってくれてるとうれしいな」そう言って、モニタが切れた。

 

 五人……そんなに一度に相手にするのか? その時はそう思ったのだが、実際には、女性の排卵予定日の前後に合わせて、日替わりでお相手をするのだと後から知った。でも、話した感じはそんなに悪くなかったんじゃないか? 

 ああ俺、皐月さんとエッチしたい……その夜はずっと興奮して眠れなかった。

 

 そして翌日。一週間の期限を待たず、俺は「今回は残念でした」と施設のマネージャーから通告された。

 

 仕方ない。こればっかりは仕方ない……自分よりも気に入られた男性がまだ他に居たという事だ。今回はいい勉強になった。もっと男を磨いていつかは素敵な女性と……そう思いながら荷物を片付け、待機施設を出ようとした時、俺はマネージャーに呼び止められた。


「ああ、佐々木君。ちょっと特例なんだけど、君。もう一つ公募受けてみない?

 候補予定だった人が何人も辞退しちゃって、ちょっと頭数寂しくてね。君、健診も済んで待機も五日目だから、こっちとしても即戦力で助かるんだよ」

「はあ? 他の公募、今出てましたっけ? それに書類選考はいいんですか?」

「ああ。君の事は、皐月様が推薦書いてってくれたからね。好青年ですって。だからどう?」

「いや……その。お相手の方は?」結構年配の女性が、欲求不満解消のため、若者を玩具(おもちゃ)にするっていう話も聞いた事がある。


「心配ないよ……ここだけの話だけど……お相手は、御領主様さ」

 マネージャーが小声で言う。

「えっ!? 御領主様!? 

 でも、御領主様って、旦那様がいらっしゃるのでは?」

「しーっ!! 大声出しちゃだめ! 詳しい事は私も知らされていないんだが、風のウワサに聞いているところでは、ご夫婦にいまだ御子(おこ)が出来ないのは、旦那様のせいかもっていう事で他で試してみようとか……そういう事かも知れないね。だから、この事は一切外では他言無用だよ! もしうっかり口が滑ったら、君も家族も全員荘園を追放されかねないよ」

「それって……今その話聞いちゃった時点で俺に拒否権ないっすよね!」

「すまない……頼むよ。相手が相手だけに、それなりに候補者数を集めないと、私もクビが危ういんだ」

「はあ……」

 

 正直、御領主様なんて、まったくターゲット外だ。お顔位はネット画像で見た事こそあるものの、全然縁のない雲の上の人だし、プロフィールなんかもよく覚えていないぞ。

 だがまあ、これも何かの縁なのかもしれないし、どうせ俺が採用される事はなかろう。そうタカをくくって、マネージャーさんの顔を立ててあげる事にした。



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