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第27話 厚木荘

 早朝に小田原を出発し、夕方には厚木荘近くまで来る事が出来た。特に城壁みたいなものが有る訳ではないが、どの荘も主な街道の口には警備の人がいる。

「鏡矢。お金あるの?」風花様が俺に尋ねる。

「ええ。多くはないですがガーデン出る時、孝由さんが持たせてくれました。それで風花様。これからどう動きましょう?」

 厚木荘のそばを流れる川のほとりに隠れながら作戦を練る。

 

「まずは服よね。でも私はこのまま荘には入れないから、あんたが買ってきて」

「ですが、どこに店が有るかも分からないし、俺みたいなよそ者がうろついてて大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ。別に荘の間の人の行き来は禁止されていないし、普段は用がないからあんまり行き来しないだけでしょ。商売用に買い付けに来たとかでも言えば疑われる事はないわ。あっ。でも、騒ぎを起こす様な事しちゃだめよ。警官にでも捕まったら絶対、ID照合されるから」

「ああ、そしたら俺が町田荘の人間で、行方不明とか事故死とか出ちゃう……」

「そう。その時点であんたは必ず拘束され、私はそのままここで藪蚊のエサね」

 そう言いながら、風花様が掌でペチペチと身体のあちこちを叩いている。

「分かりました。極力目立たぬ様に、衣服を調達してきます」

 こうしてまたここを集合場所と定め、俺と風花様は別れた。


 一度は来た事があるとは言え、それはまだ幼い時、父と一緒だった訳で、俺にとって厚木荘は実際には初めての荘だ。どこに何があるのかさっぱりわからん。

 それにまだ陽も落ちていないのに、あんまり人が歩いていない。町田に比べて人口が少なかったりするのだろうか? あても無くウロウロしていても時間がもったいないので、そばを歩いていた三十前後の人に聞いてみた。


「あのすいません……この辺に僕が普段着る様な服売ってるお店ありませんかね?」

「なんだ君。ここの人間じゃないのかい」

「はい。町田荘から父の用事について来たんですが、あそこだとあんまり気に入ったデザインがなくて、ここなら違った感じのものあったりしないかなーと……」

「はは。そんなのどこも大差ないだろ。どうせ衣服はみんなどっかの荘でまとめて生産して配給してるんだろうし。まあ大き目の服屋が、この道500m位行って右折れてすぐのとこにあるよ。看板出てるからすぐわかるさ。それにしても町田かー。いいなー、俺もあっちに住みたかったなー」

「町田がどうかしたんですか?」

「えっ!? 君、町田荘の人なんだろ?」

「あっ、いや。そ、そうですね……それじゃお店閉まる前にいかなくちゃ。あ、ありがとうございました!」

 そう言って、俺はその人の前から足早に走り去った。うわー、ヤバイヤバイ。変に疑われたらどうなる事か……それにしても町田がうらやましいって、何があったんだろ? 疑念は晴れぬまま、服屋で二人分の衣服や下着。風花様用に帽子等を購入し、河原へ急いで戻った。


「遅かったじゃない! まったく、これ見なさいよ!!」

 そういって風花様が右腕を胸の前に上げたが、藪蚊に差されてボコボコになっていた。

「うわー、すいません。虫刺され用の薬とかも買って来た方がよかったですね」

「もういいから。早く服着て改めて二人で突入しましょ」

 そしてその場で、買って来た衣服に着替えたのだが、なんでぱんつが男物なんだと風花様がちょっとむくれていた。そしてさっき小耳にはさんだ町田の事を伝えたら、ちょっと顔色が変わった様に見えた。

「町田が……うらやましい……なるほど」何か一人で納得されている様ではある。

「あの風花様。それって一体何なんでしょうか?」

「いや。私もまだ確証ある訳じゃないけど……鏡矢。それって私達にとってもラッキーな事かも知れないわよ」

「何ですかそれ? ちゃんと教えて下さいよ」

「ダメ。まだ秘密。町田に着くまでのお楽しみだね!」

 そう言いながら、俺が買って来たつば付き帽子をちょこんと被った風花様は、どこから見ても中学生男子だった。イブの胸が小さくてよかったんだろうな。


 その後、二人そろって素知らぬ顔でまた厚木荘に入る。

「とりあえず、まずはちゃんとしたご飯が食べたい……」その意見には俺も大賛成だ。正直、下田からここまで、ロクな物は食べていない。カプセルにあった非常食を大事に食べながら途中、雑草みたいなものとか、怪しい木の実とか……よくお腹を壊さなかったと思う。

 さっきの服屋の有ったあたりが商業地区の様で、他にもいろんなお店や飲食店があった。だけどやはり人の気配は町田より少ない。 

 俺と風花様は、手持ちのお金を節約する意味もあり、それなりに安そうな定食屋に入り、普通のコロッケ定食を注文した。


「ふはー。人間らしい食事したのいつ以来かしら? 生き返るわー」

「はは。でもご領主様でもこんな庶民的な定食でいいんですね」

「何言ってるのかなー。領主だからっていい物食べてる訳ないでしょ。ここ数年、合成肉が安定して供給される様になって、どこの荘も大分食生活改善したけど、それまではどこもギリギリだったからね。私も粗食は得意なんだよ」

「へー」

 

 ごはんをお代わりして満足気な風花様が、ちょっと休憩した後、ぴょこんと椅子から立ち上がり、店主の方に歩いていった。お勘定でもするのかと思ったら店主に話し掛けている。


「ご馳走様。おいしかったよ。それで御亭主。私達、明日、町田に向かうんだけど、あっちは今どんな感じ?」

「ああ。あんたらどっから来たんだい。んっ、藤枝? そりゃまた大変だったろう。でも今、町田は景気いいから、ここよりうまいもんが食えるんじゃないかな」

「それってやっぱり……ご領主様?」

「そうそう。俺も他の荘の細かい事は判らないけど、大層中央の覚えもめでたくて羽振りがいいらしいよ。それにくらべてここ厚木(ここ)は急激に女性減って来ちゃってて、このままじゃ二~三年でお取り潰しかもって噂も流れてんだ……はぁ……」

「そっか。ふーん。教えてくれてありがとう」風花様はそう言って、俺の方に戻ってきた。

「それじゃ鏡矢。お勘定お願い!」

 

 店を出た後、宿を探したいところだったが、俺も未成年で風花様も見た目は子供だ。やたらな宿だと怪しまれてしまうという事で、公園で野宿する事にした。

「まあこんな真夏だし、なんとかなるでしょ。でも……あー、鏡矢。虫よけ買い忘れてる!」

 といった感じでバタバタしたりしたが、なんとか屋根のついたベンチが有る公園を見つけ、そこに陣取った。


「こんなところで……職質されたりしないですかね?」

「そん時は全力で逃げるわよ。集合場所はあの河原ね」

「……ははは。それで風花様。さっきの話ですが……町田のご領主様って?」

「ああ。まあ何というか……私の予想通りというか……今の町田だけど、多分私は死んじゃった事になってるから、当然別の領主が立ってるわよね。そんで領主が交替すると、一時、中央がいろいろバックアップしてくれるのよ。最初、執政に不慣れな領主でも領民たちが不安になったりしない様にね。逆に言うと、領主交替のタイミングで日頃の不満が爆発しやすいって事で、その予防措置でもあるんだ」

「へぇー。それで町田は今、景気がいいと……誰が御領主様何でしょうかね?」

「さあね。一般領民は他の荘の事あまり教えられないから厚木で聞いて回るのも怪しまれるし……私の予想通りだといいんだけど」

「風花様の予想では?」

「……皐月姉。丁度、女児産んだばかりだし、中央としても持ち上げやすいんじゃないかな。それに彼女なら能力的にも問題はない……」

「はあっ! 成程。あの人ならいかにも適任って感じですよね!」

「それは、私では力不足という事かな?」

「違いますって……変な言いがかり付けないで下さいよ」

「ははっ、冗談冗談。でも彼女なら話し易いなー。須坂まで護衛付きで送ってくれないかな」

「ありえない話ではないと思いますよ。それじゃ、明日から明るい気持ちで町田に向かいましょうよ!」

「そうだね」そう言いながら風花様が俺の右肩にチョコンと頭を乗せて寄りかかってきたので俺も彼女の肩に手を回す。もう夜も大分更けてきて気温も下がった様で、夏の夜風が心地良い。俺達二人はそのまますうっと眠りについた。





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