第24話 漂流(第一部最終章)
現在位置をロストしたデリバリーカプセルが海面に到達したのは昼すぎだった。ハッチが開き外が確認出来たが……いやちょっと待て。すごい暴風雨じゃないかこれ!? 揺れもすごいし、横殴りの雨が吹き込み、イブもビシャビシャになっている。だめだこれ。一旦中に入ってハッチも締めた。
それに海面に浮いていると揺れがひどいので、5m程潜航した。
「いやー。C国の船が目の前にいるのをちょっと期待しちゃうくらいの天候だよな。でもどうしよう」
【進路を指定して下さい】
「無茶言うなよ。この天候じゃ岸とか探せないよ」そうは言ったものの、食料も水も三日分しかない。あんまり悠長にも構えていられない。イブはまだ目を覚まさないが、その顔を見ていると早くなんとかしなきゃとも思う。
まだ、東京湾内にいる確率は高いだろう。となると、北と東西は、湾内のどこかに漂着する可能性が高い。しかし、ミサイル攻撃したのが須坂だったとすると、近場は警戒体制が敷かれているかも知れないし、そうなると、一旦遠回りをしてから、隙をついて須坂を目指さないといけない。
そこまで考えて、AIに指示を出した。
「このまま当面南。一時間位で雨雲抜けないかな。そしたら一時間後浮上して現在位置確認!」
【了解しました】
そして一時間後。また浮上してあたりを確認した。天候こそ回復してはいたが……ははは、陸が全く見えない。どの辺なんだよここ。
日本列島は、こう弓なりなので、東京湾から南に出たなら、西に行くのが正解だ。東にいったら、アメリカ大陸まで行ってしまう可能性がある。
「進路西!」
【了解しました】
そして俺は、陸地が見えないか眼を皿にして遠くを見つめ続ける。
あーお腹空いたな。食料って何があるんだ? そう思ってカプセル内に潜り込み、シートの下から非常用のバッグを取り出した。ああ、ライフベスト忘れてた。万一に備えて着けないとな。それでイブも……イブの座っている座席の下にも非常用バッグがあり、それを引っ張り出して、イブにライフジャケットを付けようとしたが、あれ、こいつ眼を開いている?。
「やあイブ。おはよう。気が付いた?」
狭いカプセル内でぐずられるかと思ったが、無言のまま俺の顔を凝視している。
「まだぼーっとしてるのかな。無理しないでいいから、もう少しお休み」
そう声を掛けたら、また眼を閉じて寝入った様だった。
食料は味も素っ気もない乾パンだった。
そのまま三時間くらい西に進んだところで、陽も暮れて月が出て来た。夜はあまり移動しない方がいいだろうか。それとももう結構西に進んだので北上した方がいいだろうか。そんな事を考えていた時、俺の眼には遠くで光るものが見えた。
あれは……灯台だ! 実物を見るのは初めてだが、TVのドラマや映画なんかで見た事ある。灯りが周期的に明滅している様に見えるが、あれは照明が回転しているんだ。
「AI。あの灯りを目指してくれ!」
【了解しました】
そして……なんだよこれ……それは灯台でも何でもなく、浜辺の木に引っかかった銀色のレジャーシート見たいなものが風に舞いながら月明りに反射しているだけのものだった。
「でも、陸地には違いない。まずはどこで夜明かしするかだな。イブもいる事だし、探索は明日にしよう」
そう考えて、浜辺に乗り上げたカプセルから、すでに起きていたイブを連れ出し、浜に沿って建物などが無いか探した。
だが……何もない。おいおい、ここ誰かいないのか。
いやそれはシャレにならないぞ。
「はは、ここって無人島なのかよ。そこにイブと二人きりって……ほんとにアダムとイブになっちゃうよ……」そういって俺はその場に座り込んでしまった。
「鏡矢」後ろで声がしたので振り返ったら、イブが立っている。
「あれ、イブ。今俺の事呼んだ? もしかして孝由さんの睡眠学習の成果とかかな?」
「ああ、イブっていうんだこの子。なんか変な感じがしてぼーっとしてたんだけど、ようやく頭がはっきりしてきたわ」
「えっ? えっ? イブ。どうしちゃったの? なんかいきなりしゃべりだしたんだけど……」
「まったく。男がオタオタするな! イブじゃないわよ。私は風花!」
「えっ!?」
それってどういう事だよ…………あーっ!! もしかして孝由さん。イブにアップルシステムで風花様の人格を入れたのか? でもどうして……
訳が分からず動揺する俺に、イブの姿をした風花様が言った。
「今日のところは、カプセルに戻りましょう。あの中なら野獣とかに襲われても大丈夫だろうし。とにかくいろいろ説明してもらうわよ」
◇◇◇
それから二人で、カプセルを浜の上の方まで押し上げ、そこを寝床にした。ちょっと肌寒かったのだが、さっき灯台の灯りと勘違いしたレジャーシートを持ち込んだら結構暖かくなった。
俺は、風花様が女刺客の自爆攻撃に巻き込まれてから今日までの事を、順を追って説明した。イブの姿をした風花様は途中一言も発せず、俺のいう事を黙って聞いてくれていた。一通りの説明が終わったが、風花様はまだ何もしゃべらない。すると、その目から一筋の涙が落ちるのが分かった。
「そっか。この子が……このイブちゃんが私達の娘なんだ……ごめんねイブちゃん。身体取っちゃって」そう言い終わると、今度はポロポロ大粒の涙を流し、大きな声で泣き出した。そんな風花様を、俺はそっと抱きしめた。
◇◇◇
翌朝。天気は快晴だった。とりあえず非常食と水で腹ごしらえをした俺と、イブの姿をした風花様は、周辺の探索を開始した。しかし、浜を進んでも何もないし人も見当たらないが、目の前には結構高い山がある。
「鏡矢。高い所から探しましょう」
そう言って、風花様が山を登りだしたので、俺も後に続く。二時間くらい上っただろうか。
「いやー、きつい。結構上りましたね」
「あんた、ガーデンに籠っていて運動不足なんじゃないの。それに比べて私は、イブちゃんの身体が軽くて軽くて……」風花様は、そう言いながらどんどん先へ進んでいく。
そして、結構周囲を一望出来る高台に到着した。
「鏡矢。あれ!」
風花様が指さす方をみると……あれは港か? 明らかに人工の構造物だ。
「行って見ましょう!!」
そう言って風花様は、またものすごい勢いで走り降りていく。
あんなに急いで危ないよ……と思っていたら、案の定、ずっこけていた。
「あーん。この身体まだしっくりこないー」どうやら負け惜しみの様だ。
そしてその場所に着いたのだが、そこには人の気配がなく、建物や機器類も長い間、人の手が入った様子はなかった。
「やっぱり、誰もいないのかな?」風花様が寂しそうにつぶやいた。
そして「風花様、こっちこっち」と俺が風花様を呼んで指さしたぼろぼろの看板には『下〇海#公園』と書かれていた。
第一部 完・・・第二部に続く
※お話は、ここで一旦休憩です。
続きは鋭意構想中、近日公開予定ですので、
鏡矢と風花の活躍を楽しみにお待ち戴ければ幸いです。




