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第23話 人類滅亡宣言

 須坂荘(すざかのしょう)では、サクヤヒメとサザレイシがモニタに張り付きで、第三お台場と連絡を取り合っている。


「それで、艦隊が相模湾に移動する形跡はないのですね?」

「はい。このまま浦賀水道で、我々の掃海を待つと……貴国にだけ危険な作業はさせられないという外面(そとづら)だけの返答を繰り返すばかりです。それで、水上艦に交じって、複数のサルベージ艦や海底作業母艦も来ています。まあ、遺骨収集の目的ならそれらも使用するでしょうけど」

「潜水艦の遭難箇所と、場所が違っておろうが!!」サザレイシが怒鳴る。

「あの宗主様。あの海域には一体何が? 防衛対象が分かった方が具体的な手が打ちやすいのですが……」

「ええい。いらぬ詮索はせんでいい!!」

 そう言って、サザレイシが回線を切ってしまった。


「どうやら、C国の目標はガーデンで間違いない様ですね」

 サクヤヒメがつぶやいた。

「そうだとしても、あれだけの数の戦闘艦。無理やり排除すれば国際問題です。欧米列強諸国も黙ってはいないでしょう。それでガーデンの存在が明るみに出た日には……」


「破壊しましょう」サクヤヒメがそう言った。

「どのみち、あれが稼働したところで、今の状況が好転すると私は思っていません。あの五代前の宗主様があれほど嫌悪していた、女性を道具としてしか考えない最低で下品な施設を、後生大事に秘匿(ひとく)していましたが、もはや国際紛争の火種にしかならないと考えます。ガーデン座標へのミサイル攻撃を、準備が出来次第開始する様、第三台場に指示して下さい。掃海作業の一環とでも説明し、C国艦隊には極力距離を取らせなさい。それで目標物がなくなれば彼らも帰る事でしょう。その後の事は何とでもなります!」

「承知いたしました。ですが宗主様……」

「そうですね。これで人類滅亡は確定ですね」


 ◇◇◇


 翌朝。孝由さんがイブをおんぶして戻って来た。

 どうやらぐっすり眠っている様だ。

「孝由さん。イブは?」

「心配ない。ちょっと薬が効いて眠っているだけだ。昼過ぎには目覚めるさ」

「薬って……一体何を?」

「ちょっとした睡眠学習といったところだよ。外に出た時、少しでも君の役に立つといいんだが……それでデリバリーカプセルの方は?」

「はい。生体認証はクリア出来ました。もう動かせます」

「そうか、あと十五分くらいで、ギガントエレベータが稼働開始する。ギリギリ間に合ったな。それじゃ、カプセル格納庫に行こうか」


 そして俺と孝由さんは、イブと共に、最初にガーデンに来た時入ったカプセルの格納庫に行った。


「鏡矢君。それじゃくれぐれも宜しく頼むぞ。僕と風花の運命は君にかかってる。いや、あんまりプレッシャーかけちゃいけないんだが……イブちゃん。大事にしてやってくれ」

「はい。こうなったら何がなんでも須坂に行って、宗主様に直談判してきます!」

「それじゃ、元気でな」そう言って孝由さんが手を振るのに応えながら、カプセルのハッチを締めた。イブは助手席で、すーすーと寝息を立てている。そうそうシートベルトを忘れない様にしないとな。俺は、目の前のコンソールパネルのスイッチを入れた。


【デリバリーカプセル射出準備。行先を指定して下さい】

「行先の選択枝を提示せよ」

【東京湾第三台場・横須賀米軍基地跡地・相模湾江ノ島・伊豆大島から選択可能】

 はは。前二つは軍事施設だよな。人いるのかな? でもいきなり捕まったんじゃ話にならない。江ノ島かな。

「相模湾江ノ島を指定」

【行先座標ロック。射出三分前。ハッチを閉じます。搭乗員の方は、シートベルトをしっかりと締めて下さい】

 ふふふ。今回は前回の(てつ)は踏まないぜ。シートベルトはしっかり装着済みだ!

 そして前回同様、カプセルが下に落下って……そうだった。これ、転がるんだった! ふひゃー、目が回る……


 ドーーーン!!

 その時、すごい衝撃がして、カプセルの動きが一瞬止まった。

 なんだ? ギガントエレベータが動き出したのか? まだ予定時間よりちょっと早くないか?


 ドドーーーーーーン!!

 しばらくして、さっきよりすごい衝撃が走った。これって、もしかしてミサイル攻撃か!? でもカプセル止まっちゃったし、ここで雪隠詰(せっちんづ)めか!? どうしよう!! シートベルトをはずし、全身に力を込めてカプセルを揺すってみるが、ピクリとも動かない。畜生! ここで終わりかよ!?


 ドドドーーーーーーン!!!!

 さらにしばらくして、今までで一番大きな衝撃と揺れが来た。うわっ。

 しかし……どうやら今の衝撃でカプセルがまた動き出した様だ……ってあー、シートベルト!! 俺は、カプセルの中を上下左右に激しく飛び回った。

 もうだめだ……眼を回す寸前、カプセルの回転が止まり、水平移動になった。

「ああ、なんとか助かったかな。でも……孝由さん。大丈夫だろうか」

 ちょっと放心しながらコンソールモニタに目をやって、俺はぎょっとした。

 赤く、アラートが点滅している。


「状況を報告!」

【先ほどの衝撃で、ジャイロコンパスを破損。現在位置が不明です】

「ええええっ!? それじゃどうなるの?」

【このまま漂流モードに移行します。乗員は、ライフベストを着用して下さい。飲料水と食料が三日分、シートの下に用意されています】

「漂流モードって?」

【海上に浮上後、ハッチを開きますので、乗員が進路を指定して下さい。陸が見えたなら、最優先でそこを目指します】

「見えなかったら?」

【太陽や月・星の位置を参考に判断して下さい】

「そ、そんな……俺はともかく、イブは大丈夫かな。だいたい、浮上した目の前にC国さんがいたりして……でもその時は、素直に捕虜になるしかないか」

 そんな事を考えながら、俺はカプセルが浮上するのを待った。


 ◇◇◇


「宗主様。今朝方、指定座標に五発の海中型弾道弾を打ち込んだと第三台場から報告がありました」サザレイシがサクヤヒメにそう報告した。

「それでC国艦隊に被害は?」

「ございません。ガーデンはピンポイントで確実に破壊されたものと思われます。これでC国は出鼻をくじかれたことでしょう」

 どうやらC国艦隊が撤収を始めた様だとの報告も入ってきた。


 ちょっと放心気味の顔で宗主サクヤヒメがつぶやいた。

「やれやれ。これで騒動も一段落ですね。ですがガーデンを失った事で、もはや人類がその勢力を盛り返す機会は永久に失われました。あとの終末期をどう過ごしていくのか。いっそ欲望に身を任せるのもありでしょうか?」

「そんな事になったら、男共が各荘園のパレスを襲い、それこそ阿鼻叫喚の地獄になります。宗主様に置かれましては、最後まで人間と女性の尊厳を守ってお暮しいただく事を切望いたします」

「はい。わかっていますよ。冗談です。でも、今夜はミネルバの激励に行ってもいいですよね」

「これだけの大仕事をこなされた後ですので……仕方ありませんね」

 そう言ってサザレイシは下がっていった。



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