第02話 3Dモデル
学校で鏡矢達が、公募の話で盛り上がっていた頃。鏡矢の父、明さんが、ハネダ沖の海中で何かを見つけた。やがてそれがクレーンで吊るされ海上に姿を現す。
「これは……トレーラーの荷台か何かですか?」作業員の一人が言う。
「そうだね。昔の規格のコンテナだ。開けてみよう」
そう言って、明さんがコンテナの開梱を始めた。
明さんは、荘園の管理の元、大戦で文明が崩壊する以前の遺物の発掘調査や、荘園領地内の立ち入り禁止区域のパトロールなどを主な仕事にしている。海中の探索は、最近になってようやく機材も揃ってきて出来る様になって来たばかりだ。
「おお、これはいいね。多分百年以上前のコンピュータ機器だ。海水に浸かってしまってもちろん使えないけど、レアメタルの採取に役立つよ」
コンテナの中には、ほとんど朽ちかけたパソコンの様な機器が数百台入っていた。そして……なんだこれは? アタッシュケースか。しかも水密加工されている。明さんは表面についた牡蠣殻をはがしながら開錠を試みる。するとカチリと音がして蓋が開き、中には15cm四方の薄いCDケースの様なものが一枚入っていた。
「何ですか?」さっきの作業員が明さんに尋ねる。
「どうやら、何かの記録媒体の様だね。だが、こんな規格のもの見た事ないな」
「あー。それだと、またご子息に?」
「そうだね。一旦自宅に持ち帰っていいか、ボスに確認しよう」
ご子息とは鏡矢の事なのだが、彼はこうした機械ものに強い。もともとの素質も有ったのだとは思うが、性格的にも熱中しやすいタイプで、オタクと呼んでいいレベルで詳しい。そして発掘で見つけたよく分からない過去の機械類を預けると、喜々としてそれらを調べてくれるのだが、その事は部署内にも知れ渡っており、ボスも信用して預けてくれるのだ。
「ただいま」
「おや、明さんお帰り。帰りが遅いって言ってた割には早かったね」
進さんがそう言った。
「ああ。ちょっとあってね。鏡矢はいるかい?」
「自分の部屋にいるよ。また工作でもしてるんじゃないかな」
明さんが二階に上がり、ノックして鏡矢の部屋を入るとまず目に入るのが、高さ50cm位のアニメ顔の女の子フィギュアだ。五百年以上前の1/4美少女フィギュアでメグたんと言うらしいが、発掘当時、もうボロボロで荘園としては廃棄決定だったのを明さんが貰ってきて、鏡矢が懸命にレストアしたシロモノだ。五百年前のアニメなどは、今でも配信で見る事が出来るが、今はもう新作もほとんど作られず、みんな見飽きてしまったのかあまり人気はなく、3DCGの限りなく実写に近い女性の動画が主流となっていた。
だが、フィギュアとなると話は別で、特に大型のものは、レストア品であっても、かなりの値が付くはずだと鏡矢は主張している。
「あれ、明さん。おかえり。早かったじゃない」
「ああ、鏡矢。何か作業中だったのかな」
「いや別に……あの、明さん。俺今、皐月嬢の公募に申請出してたんだ!」
「ああ、皐月嬢か……ふふっ、合格するといいね。それですまないが、また頼みたい事があってね。これなんだが……海の中から出て来たんだ」
そう言って、明さんは昼間、海中から引き揚げた媒体を鏡矢に手渡した。
「ブルーレイディスク? いやそれにしちゃちょっと大きいな」
「百年位前のものだと思うのだが、読めるかな?」
「どうだろ。でもぱっと見た感じじゃ、表面は傷んでなさそうだし、とりあえずやってみるよ」
「助かるよ」
「いいって。いいって。また何か珍しい物あったら横流しお願いだぜ」
鏡矢は、その媒体を自作の機械にセットし、磁気やレーザーの具合を調整しながら、読取りを試みる。
「おっ! 読めるぞ。これ」
とりあえず、16進数で読めるだけ読んで、あとから自分のPCで解析をする。
「なにかの画像か? 地図かな。宝の地図だったらウケるな……」
データ解析が進むにつれ、モニタ上に映し出される画像と文章がよりはっきりわかる様になる。
「江田? ああ、これって旧横浜の立ち入り禁止地区内にあった地名だよな」
昔、横浜市と呼ばれていた一帯は、某国の核兵器で四百年程前に吹っ飛んだと聞いている。そして、地図も、当時の横浜市青葉区のものの様だと調べて判った。
「ラボ……イブ・メイカー? なんだこれ」
地図の×が記されている所に、そう添え書きがあった。
あとは、データファイルと思われるものが3つある様だが、こればっかりは何のアプリ用のデータなのかが判からないと使えない。
ファイル内のデータパターンから何のアプリ用データなのか推測するAIエンジンにかけてみる。そして十分後、結果の候補がモニタに表示された。
「3Dモデリング?」どうやら、なんらかの3D画像のデータの様だ。
それなら……対象が絞りこめたのでいろいろトライアルする。
そして二時間後。なんとか3D画像っぽいものが抽出出来たのだが……
「これって……美少女フィギュアの3Dモデルデータか?」
どうやらこのデータファイルは、3Dプリンタか何かで使用する3Dモデルデータの様だが……でも、なんでケモミミ女子? しかも服を着ていない。着衣は別パーツなのだろうか。
その画像パターンからまた検索をかけると、どうやら五百年前にちょっと流行った異世界ファンタジーアニメのキャラクターらしい事が判った。
「へー。この子がプルーンで、この子がメロン。そんでこっちがエルルゥ……こんなアニメ観た事ないなー。でもそうか。これ、当時の美少女フィギュアのデータなんだな。このイブ・メーカーてのも、それを製造販売していた業者ってところか。
このデータでフィギュア作ってみようかな。でも荘園のもんだし勝手には出来ないか」
どうやら自分が読み出せる情報はここまでの様だ。居間に降りて明さんに結果を報告する。
「あー。そんなオチか。なるほど。当時はここに工場とかがあったのかもしれないが、今はこの辺一帯、湿地になっちゃっててそんなものは何もないよ。手間かけさせて済まなかったな」明さんはちょっとがっかりして部屋を出て行った。
そしてオタクな俺は、ちょっとさっきのキャラが気になってネットで検索をかけてみる。
「イブ・メイカーっと。おっ、HITあるじゃん!」
そしてそのネット辞典にはこう書かれていた。
『西暦2086年。Dr.アダム・ロウが提唱した、女性単性生殖理論とそれを応用したシステムの総称。倫理的・人道的にも問題があり、学会等で糾弾され実用化する事はなかった』
何だよこれ。フィギュアメーカーじゃなくて21世紀の研究じゃん。でも単性生殖って……ゾウリムシみたいに女性が勝手に増えるってか? そりゃ倫理どころの話じゃないな。でも……いまそれが出来たらすごい事かもな。
その時、俺は深く考えず、そのままPCを落として風呂に入った。




