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第17章 駆け引き

 千代女(ちよめ)とサスケは、ガイドAIの指示で迷わず医務室の前に到達した。

「女一人です。このまま踏み込んで、さっさと任務を終わらせましょう」

 サスケが言う。

「ああ。だが油断はするなよ」そう言いながら千代女が静かに戸口に近づき、中の様子を伺うが確かに人の気配がする。

「よし、飛び込みざま斬りつけるぞ。私がドアを開けるからサスケ。お前が飛び込め。ドアロック開錠」

【開錠しました】


「よし、いくぞ!!」掛け声とともに、千代女が医務室のドアを開け、間髪入れずサスケが中に飛び込んだ。

 目の前に松葉杖をついた人間が一人、後ろ向きに立っている。

「はは。悪いなお嬢さん!」そう言いながら、サスケが例の特殊ナイフを振り上げ、その首目掛けて振り下ろした。


()った!!」サスケの脳内イメージでは、次の瞬間。目の前の人間の首がごろりと落ちるはずだったのだが、まさに刃が首に当たろうと言う瞬間。ものすごい力でナイフが弾き飛ばされ、続けてサスケの身体も吹き飛ばされた。


「えっ? 何なに……一体何がって……ええっ!?」突然の事に何が起きたのか、当の風花もまったく分からず振り返って驚いている。

「何だっ!?」サスケも、その様子を見ていた千代女も驚きを隠せなかったが、よく見ると医務室の天井に何やら銃の様な突起物があり、それがサスケに照準されているのがわかった。


【ガーデン内での暴力行為は一切禁止されています】ガイの声だ。

「ふ、ふざけるなっ! 我々は管理者だぞ!!」千代女が大声を出す。

【暴力行為の禁止は強行規定です。管理者であっても例外ではありません。外敵等なんらかの要因で武力行使が必要な場合、まず警戒体制レベル3を宣言して下さい】

「ぐぬぬぬぅ……わかった! 警戒体制レベル3だ!」

【了解しました。居住区内の保安装置を警戒体制レベル3に移行】

 すると天井に生えていた突起物の装置が、すっと天井内に格納された。


「くそっ。とんだ邪魔が入った。サスケ、早くとどめをって……しまった。風花はどこだ!?」千代女が後ろを向くと、何とサスケが白目をむいて倒れており、風花の姿が見えなかった。

「これは風花がやったのか? あのアマぁ……だが……慌てるな。油断するな……風花の現在位置を報告」

 自分を落ち着かせながら、千代女がガイドAIに指示をした。

【居住区二階に向かっています。木之元孝由との合流を目論んでいると推定】

「奴らは敵だ。さっきの保安装置で奴らを無力化出来ないか?」

【拘束は可能。ただし正規登録されている住民の為、手続きなしに保安装置でダメージを与える事は出来ません】

「手続きって……まったく、どこのお役所だここは……構わん。二人とも拘束しろ!」

【木之元風花がミーティングルームに入ったところで、部屋をロックします……ドアロックを完了しました】

「やれやれ……おいサスケ。しっかりしろ。行くぞ……」

 まだ意識がはっきりしていない様なサスケの尻を蹴り飛ばして、千代女は居住区の二階を目指した。


 ◇◇◇


「刺客は二人か?」

「ええ。男女のペア。多分あれがうわさに聞く須坂の忍びね」

 ミーティングルームで孝由と風花が話している。初撃に失敗して呆然としていたサスケに松葉杖で会心の一撃をお見舞いし、痛い右足を引きずりながら、風花は懸命にここに逃げ込んだ。だが、すでに扉はロックされ中から開ける事が出来ない。

 出入口は一か所なので、孝由が急ぎ、机と椅子を積み上げて即席のバリケードは築いたのだが……


「だが風花。君が見た事が本当だとすると、刺客は管理者権限を持っている事になるが……まさか宗主様ご自身が来られた訳じゃないよね?」

「あー。サクヤ様なら領主就任の時、一度会ってるから分かるよ。全然別人」

「そうか。だとするとアドミニストレータキーっていうのは、人に貸したり出来るものなんだな。セキュリティ上、それはそれでどうかとは思うが……よほどその刺客が信頼されているという事だろうね」

「そんな事より、どうすんのよー。もうすぐ来るわよ!」

 風花がそう言ったか言わないかのタイミングで、扉がドンドンと叩かれた。


「もう観念して投降しろ。素直に従えば命だけは保証してやる。とはいえ、宗主様の前に引きずり出すまでだがな。まあ、死罪は免れんだろう」

 部屋の外で女が怒鳴っている。

「千代女様。そんな言い方じゃ出てきませんよ。そんなに慎重にしなくても……押し入りましょう」と男の声もした。


 孝由が声をあげた。

「投降してもいいが、一つだけ願いを聞いてほしい。今、妻の風花は妊娠しているんだ。それも女の子をね。だから風花の命を奪うにしても、出産してからにしてくれないか? 君たちも、無実の女の子を殺したら、後味が悪いだろう?」

「何を口から出まかせを!」男の声だ。

「出まかせではない。信じられんのであれば、宗主様のところに連れていって調べればよい。それもせずに女児を殺した事が分かれば、お叱りもそれ相当だろうな」

「ちっ……わかった。風花は宗主様の所に連れて行く。だからおとなしく投降しろ」と外の女がそう言った。

「わかった。だがこちらから扉が開けられん。抵抗はせんから入って来てくれ」


 だが扉を開ける前、千代女がサスケに目配せをした。それは扉を開け次第、中の二人を殺せという合図だ。今は投降が受け入れられて油断しているに違いないからな。さっき医務室でやったのと同じ手順で、千代女が扉に手をかけ、サスケがナイフを手に身構えた。


「開けるぞ!!」そう言って千代女が扉を開け放ち、すかさずサスケが飛び込む。

 だが……その時、サスケに向かって数本の矢が放たれていた。


 ドッ、ドッ、ドッ。

 至近距離から放たれた矢は、確実にサスケの頭部と胸部、腹部にヒットした。

「うぎゃーー」サスケはもんどりうってその場に倒れ伏した。


「おー。さすがは鏡矢君作のボウガンだね。百発百中だ!」

 孝由が勝ち誇った様にそう言った。

「貴様ら、何を……投降したんじゃなかったのか……」

 怒りに震える千代女に、孝由が答える。

「そりゃ、こんな卑怯な手でも使わなければ私達がプロのあなた方に敵う訳ないじゃないですか。慎重なのが裏目に出ましたね。そのまま突っ込んでこられたら、我々に勝機はなかった」

「こん畜生っ!」千代女は、腰に差していた短刀を抜き、孝由に斬りかかった。


 ドンッ! こんどは千代女の背中で音がした。そして、ちょっと遅れてものすごい激痛が走った。

「なんじゃこりゃあっ!」振り返ると矢が一本背中に刺さっており、ちょっと後ろに若い男が弓を持って立っていた。


「ああ、鏡矢君。間に合ったか」孝由が声をあげた。

「ええ。インカムつなげっぱなしでよかったです。お陰で状況は事前にだいたい把握出来ました。万一刺客が来たら武器攻撃も出来るはずって……孝由さんの推理通りでしたね。弓矢作っておいてよかったです」


 急所は外れている様だが、背中からかなり出血していて千代女の動きは眼に見えて悪くなっていた。すでに絶命してしまったのかは定かではないが、全く動かないサスケから特殊ナイフを取り上げ、孝由が千代女の首に突き付けて言った。


「ガーデンの管理者キーを渡してもらおうか。素直に従えば、命まではとらんよ」

「なっ、お前達。なぜそんな事まで……」千代女が驚いた様にそう言った。

「なぜって……まあ、私達の方が君よりここでの生活が長いからね。万一、君らがここに来て僕らを殺そうとするなら、警戒体制レベル3にする必要があって、それは管理者じゃないと出来ないって聞いてたから……」

「……くそ。私の負けだ。殺せ」

「いや、だから女性は殺したくないよ。素直にキーを渡してくれればいいんだ」

「ふざけるな。このまま生きておめおめ宗主様の元へは帰れない。殺してからうばえ」

「実はね。ここのシステム動かすには、女性が二人必要なんだ。君が協力してくれると助かるし、うまく言ったら宗主様も喜んでくれるんじゃないかと思うんだけど」


(ほんと、孝由さんって、口だけは達者よね)

 風花様が、俺の傍に来てそっと耳打ちした。


「……それは、お前達と男女の関係になるという事か?」

 千代女がちょっと頬を赤らめながらそう言った。

「そういう事になるね」孝由がそう答えた。

「わかった……だが、そういう事なら私は、お前よりそっちの若い少年のほうがいい」そう言って千代女が鏡矢と風花の方に歩み寄ってきた。


「わわ。ちょっと何言ってんのよ。鏡矢は私の旦那なんだからね!」

 風花様はそう言ったがあれ、俺、(しょう)じゃなかったっけ? ああ、そう言えば助かったら旦那にするとか……俺が、ドギマギしながらそんな事を考えていた矢先の事だった。


「これは……いかん!! 硝煙の匂いだ。風花、鏡矢君。すぐにその女から離れろ!!」孝由さんがそう言い終わらないうちに、目の前の刺客の身体が爆散した。




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